「輝く日の宮」 丸谷才一
「輝く日の宮」 丸谷才一 講談社文庫
僕の本棚には丸谷才一が関係している本が4,5冊あるのですが、それらは全て、「丸谷才一訳」となっています。自分の中では、丸谷といえば、英文学の翻訳者としてのイメージしかなかったんですけど、どうやら芥川賞も受賞している作家としての側面もある方だったようです。しかも、この作品をみると、英文学のみならず、国文学への造詣もかなりのものだと思われます。
主人公の女性国文学者の紹介的な導入のエピソードをいくつか経て、彼女が源氏物語には失われた「輝く日の宮」という章があるのではないかという仮説に基づいて、その謎と、源氏物語成立の秘密に迫っていくという物語。これと平行して、中年にさしかかった彼女の恋愛模様も描かれる。7つの章、それぞれが全て異なる文体で書かれていて、小説形式、年表風、作者丸谷氏の語りかけ、戯曲風など、様々なスタイルが楽しめる作品になっています。
自分は源氏物語は割りと好きで、現代語訳も数種類読んだことがあるのですが、ここで語られる源氏物語の謎は言われてみれば確かになぁというものばかりで、妙に感心してしまいました。とりわけ、帚木の妙な不自然さは自分も感じたことがあったので、思わず共感してしまったり。奥の細道について語る場面もあるのですが、源氏とあわせて、丸谷氏が展開していく議論は小説の中の国文学談義という枠を超えた面白さがありました。
作中で最も、面白かったのは、戯曲スタイルで書かれた、シンポジウムの章。ト書きの上手さ、会話の面白さ、そして、上記の源氏の謎に関して、熱いトークバトルが繰り広げられる場面で、かなりの読み応えでした。
というわけで、文学談義の部分はかなり面白かったのですが、それ以外の部分に関して、自分はどうも楽しめませんでした。中年女性の恋路の行方というのはやはりテーマとして、今の自分にはどうも合いません・・・。なので、作品全体として見たときに、満足度はそこまで高くなかったのも事実。
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