映画「ユナイテッド93」
「ユナイテッド93」 2006年 アメリカ
試写会に行って来ました。
誰の記憶にも新しい911テロを描く映画です。ハイジャックされた飛行機の中で唯一、標的であるワシントンに到達する前に墜落してしまったユナイテッド航空93便の機内で起こったできごとを描く作品。
2001年9月11日、いつもと変わらないニュー・アーク空港。ユナイテッド航空93便は朝の離陸ラッシュで、離陸時間を遅らせつつも、いつも通りに飛行を開始した。同じ頃、管制塔では、アメリカン航空11便の様子がおかしいことが問題となり、ハイジャックされたのではないかという疑いが浮上する。各地の管制センターや連邦航空局では、11便をめぐってちょっとした混乱状態に、そして、11便がレーダーから姿を消してからしばらくして、ニューヨークのビルに航空機が突撃したというニュースが飛び込んでくる。その後も、ハイジャックの疑いがある機体が複数現れ、事態は最悪の方向へと展開。やがて、平穏に飛んでいた93便でも悪夢の幕が上がる。
ジャックされた機内で乗客たちがシートに備え付けの機内電話や携帯を用いて、家族に連絡を取り、機内の様子を実況したり、家族に別れを告げたという事実があり、この映画は遺族達の証言を元に、そのときの機内の様子を再現しようと試みた作品。生存者ゼロという大惨事なので、実際のことは分からないのだけれど、恐らくこれに極めて近いことが起こったのだろうなという十分すぎるほどの説得力を持った再現映像でした。携帯などを用いて、生存者のいない事件の背景がうっすらとでも見えてくるのは、21世紀に起こった事件ならではだなぁと思いました。
前半は各地管制センターの人々がハイジャックにてんやわんやし、WTCビルの悲劇が起こるまでを、ドキュメンタリータッチで描いていました。実際に当時、管制にあたった当事者のかたが出演されているということで、この部分のリアリティは本当にドキュメンタリーを見ているようでした。そもそもハイジャック自体に動揺し、予想を超える事態の展開にただひたすら慌て、動揺し、どう見ても適切な処置を下したとは思えない状況は、危機管理体制の悪さを厳しく指摘するとともに、実際に予期せぬ事態に遭遇し、まさに手探り状態で何が起こっているのかを必死になって探ろうとする人々の姿はとてもリアルで、この事件が本当に起こったものであることを強く痛感させるには十分すぎるほどの説得力がありました。
後半は、一転、93便の機内を描くのですが、ここからはラストまでまさに息つく間もない怒涛の展開。そのときの機内でこのようなことが起きていたらしいことは全く知らなかったので、見ながら人々のとった行動に驚くとともに、その最期を知っているだけに、切なくなりました。ラスト、もう少しでという悔しさとやるせなさを感じさせつつも、結局は彼らが最悪の事態を回避したヒーローであったかのような描き方(実際にこういう見解が多数派らしい)で、このテロ事件を映画化する第1弾にあたっては、なるほど、映画化しやすい題材なのかもなぁと妙に納得してしまいました。
この映画は、911を描くにあたって、「人間」というものを限りなく丁寧に描いたのが成功だったと思います。特に、ハイジャック犯たちを悪役として描くのではなく、その信仰の厚さや犯行の際の落ち着きが無さなどをしっかりと捉えていたのがとても印象的でした。
危機管理体制の悪さや、ヒーロー的な人々の描き方などを弱冠強調していた感は否めないですが、911の恐怖、この事件を我々は決して忘れてはならないと言うことを強く訴えかけてくるなかなかの大作だったように思います。観る前は、試写会でタダで見られるから見るけど・・・というような感じで、アメリカンなヒューマニズムに溢れた作品だと思い全く期待してなかったんですけど、良い方向に期待が裏切られました。全編を通して人間の無力さを突きつけられる、そんな作品でした。
ちなみに、あまりのリアリティに見ている間中、ずっと緊張の連続で、さらには、見終わった後の余韻も決して良くは無いので、皆さん、一刻も早く外に出て、気分転換したいと思ったのでしょう。上映終了後、9割以上の人々が出口に殺到して、場内満席だったのにエンドロール終了後は数名しか残っていない映画というのも珍しいなぁと思いました。映画館のシートが微妙に飛行機のシートを連想させたのも大きな要因でしょうね。
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コメント
はじめまして。映画のデキはいかがでしたか。この映画には、フィクションがどの程度まじっているのでしょうか。私は、プロパガンダ映画の1つとして注目しています。
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1459291
投稿: Hiro-san@ヒロさん日記 | 2006年7月25日 (火) 18時07分
>Hiro-sanさん
コメントありがとうございます。
地上での管制官たちのやり取りに関しては
恐らくノンフィクションとされてるものだと思います。
機内の様子なんかは想像するしかないので、
電話で実況などの証言があったとしても
全てがフィクションなのだと思います。
恐らく半々くらいではないでしょうか。
自分もそう思ってましたが、
意外にもそこまでプロパガンダ色が強いわけでもないなぁ
というのが感想でした。
投稿: ANDRE | 2006年7月25日 (火) 23時39分
はじめまして
やはりそういう映画だったのですね。
93便は実際にはアメリカのミサイルによって撃ち落されたらしいですよ。
でも、せっかくだから美談に仕立ててアメリカの対テロ戦争は正義だということを宣伝したいのでしょうね。ハリウッドのプロパガンダ技術は一流ですね。
投稿: num | 2006年8月 1日 (火) 00時02分
>numさん
コメントありがとうございます。
上述していますが、
映画そのものは割とよくできていて、
そこまでプロパガンダ色の強いものでもないのです。
いわゆる「公式見解」を採用すれば、必然的にそういう内容になるのは
仕方ないのでしょうけど。
この事件に関しては諸説あって、
この映画で描かれたいわゆる「公式見解」と、
numさんのおっしゃっている見解とがあるようですが、
この映画は別に「ドキュメンタリー映画」でもないですし、
そもそもの生存者のいない事件の映画化ですから、
観る側も全てを鵜呑みにせず、こういう考えが一般的なのだと
いうことを理解すればよいのだと思います。
どちらの立場で映画化しても、どこかで叩かれるのは分かっていますから
それを踏まえた上で映画化に踏み切る勇気は十分評価できるのではないでしょうか。
また、このように賛否両論になることで、
色々な見解があることが世に知られれば、
「公式見解」に反対する人々にとっても価値のある映画なのだと思います。
自分は、あまりそういうことには深く感心を持たない人間なので
単に「映画」として見てしまっていましたが・・・。
投稿: ANDRE | 2006年8月 1日 (火) 01時21分
監督がドキュメンタリー出身のひとで、客役の人たちの台詞や演技は全て役者さんのアドリブらしいです。
私はこういう「映画」は辛くて見れないほうなので、多分よっぽど気が向いたときじゃないと見ないと思うけど、数々のベトナム戦争映画にしろ、湾岸戦争映画にしろ、たった数年でこういう映画作れるアメリカって、打たれ強い国だなぁと思った。国全体が、人々が、若くて、力があって、好奇心に満ちていて、状況全てを把握したがり、自らの責任と意志で行動を取りたがり。
いい意味で、生き汚い。
投稿: g-cat | 2006年8月14日 (月) 22時35分
>g-catさん
自分も友人が当選した試写会に誘われたから行ったものの
そういう機会がなければ見なかったと思います。
今回は5年で映画化ですからね。
しかも相次いでということなので、企画自体はもっと前から立っていて
時期をうかがっていたという印象ですよね。
あと、アメリカは「形で残す」ことに強いこだわりがあるようにも思いますね。
投稿: ANDRE | 2006年8月15日 (火) 21時27分