「マリコ/マリキータ」 池澤夏樹
「マリコ/マリキータ」 池澤夏樹 角川文庫
たまに無性に読みたくなる池澤作品。今回は短編集です。
全部5作収録されているのですが、面白かったのは、表題作の「マリコ/マリキータ」、「梯子の森と滑空する兄」、「帰ってきた男」ですね。他の2作も面白くて、レベルの高い短編集でした。
「マリコ/マリキータ」は本当に爽やかな作品で、夏の今読むのにはぴったしの1作でした。研究で訪れた南の島で、たくましく自由に生きる日本人女性と出会う大学教授の話。マリコさんのキャラクターがとてもよくて、読後感も爽やかでした。目新しい物語ではないのだけれど、しっかりと心をつかまれる不思議な魅力のある作品です。
「梯子の森と滑空する兄」は、歯医者の待合室で雑誌を見ていたら、長い間音信不通だった兄が記事になっていて、兄との思い出を回想するという内容。これも、兄のキャラクターの描き方が良かったですね。↑の作品とあわせて、池澤氏の描く自由人はとても魅力的です。
「帰ってきた男」はとても不思議な物語。遺跡で、ある「音楽」を耳にし、世界の真理を悟ってしまった2人の男の話。とてもスピリチュアルなテーマを取り上げていてるのだけれど、小難しさや、押し付けがましさのない語り口で、「スティルライフ」を読んだときのような、不思議な感覚になる作品でした。「個」とは?「人間」とは?と問い詰めていく中で、2人の中に徐々に生まれる考え方の違いがまた面白く、ラストの決断まで一気に読ませる作品でした。
やっぱ池澤夏樹はいいなぁと思う短編集でした。
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コメント
しかし、マリキータってタイトルにつけるのもどうかと思うよ。スペイン語っぽくしたいのかも知れないけど、mariquitaって言うのは「おかまちゃん」って言う意味だからねぇ。それとも内容がそういう話なんだろうか。
投稿: hiroshi | 2006年8月22日 (火) 15時11分
マリキータってのは、日本人の「マリコ」っていう名前だと言いにくいからってことで、現地人が分かりやすい名前にしたっていう設定でついてたと記憶しています。
舞台は太平洋に浮かぶ小島だったんだけど、スペイン語関係なのかどうかはちょっと分からないね。「おかまちゃん」ていう設定のキャラでは全くないから、そういう意味があるとなると、大分イメージが・・・。
投稿: ANDRE | 2006年8月25日 (金) 00時37分