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2006年9月

2006年9月30日 (土)

映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」

「モーターサイクル・ダイアリーズ」 2004年 米・独・英・アルゼンチン・ペルー

かの有名なキューバの革命家チェ・ゲバラの若き日を描いたロードムービー。ずっとゲバラってキューバの人だと思ってたんですけど、アルゼンチン人だったんですね・・・。近頃、街中でゲバラの顔のTシャツを着てる若者を見かけることがありますが、彼らはそれが誰か知ってるんだろうかとか思う今日この頃です。

医学生エルネストが、年上の友人アルベルトと2人で1台のバイクにまたがってアルゼンチンから南米を北上する旅に出る。旅の途中で様々な出会い、体験をして成長していく主人公を南米大陸の美しい自然とともに描く作品。

実は、昔南米に住んでいたことがあります。でもあまりに幼い頃なので、おぼろげな記憶しかないんですけど、こういう映画を見ると、映し出される風景を見て、なんとも形容しがたい懐かしさを感じます。うん、サウダージだね。自分が記憶してる風景とかとマッチするわけではないんだけど、あの広大な景色、土ぼこりの舞う舗装されてない道路なんかが心の奥に響くんです。そんなわけで、景色を見るだけでも、割と満足度の高い映画でした。個人的には、同じ南米ロードムービーだったら監督も同じな「セントラル・ステーション」のほうが好きですが。

ストーリーは序盤よりも後半のほうが個人的には楽しめました。でも、後半は、バイクが故障してしまうので、もはやこの映画のタイトルって一体・・・という感じなんですけどね。序盤はいわゆる「旅」がメインになっていて、様々なハプニングのエピソードが描かれる感じでしたが、中盤以降、ゲバラが革命家になる種となったんじゃないかと感じさせるエピソードが次々と登場します。ほんわか医学生だった一青年が、南米社会の現実を目の当たりにして、苦しい立場にいる人々の声を聞き、この旅によって彼の世界の見方が変わったのも頷けました。若い頃にこういう旅ができるのは羨ましいなぁと思います。てか、自分もたいして歳変わらないんだけどさ。

主題歌が良い感じだなぁと思ってたらアカデミー賞のオリジナル主題歌賞を受賞してるじゃないですか。曲名の「Al otro lado del rio」、「川の向こう側で」という意味ですかね。映画のテーマともぴったりじゃないですか!!

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2006年9月29日 (金)

映画「ワンダフルライフ」

「ワンダフルライフ」 1999年 日本

良い評判をしばしば聞く作品で、以前から気になっていた映画。海外での評価も非常に高いようで、英語のレビューサイトなんかを見てもかなり良いことばかりが書かれているので、割と期待していました。

現世と天国との間にある不思議な施設が舞台。人は死ぬと、その施設に行くことになり、そこで、自分が生きてきた中で一番の思い出は何かと聞かれる。1週間の滞在の間に、人々は、一番の思い出を決めて、最終日に、その思い出を映像化したフィルムを見ながら、天国へと旅立つ。22人の死者と、施設で働く人々のとある1週間を描く物語。

この映画はアイデアがとても面白いと思います。天国へと旅立つ前に自分の生きてきた人生から1つだけ思い出を選ばなければいけない。多くの素人の人々を出演させて、カメラに向かって自分の人生を振り返って語ってもらうというセミドキュメンタリーのような手法がまたかなり良い。演技ではない、飾らないナマの声がある映画でした。

一応、映画のストーリー部分として施設で働く主人公の青年と老人の死者とのエピソードがあるものの、この映画では印象に残るのはむしろ、人々が思い出を語る部分。嬉しかったこと、悲しかったことなんかを、ちょっと照れながら、カメラに向かって話す姿が本当にキラキラと輝いていて、2時間という長さも全く気にならないくらいに、まっすぐに自分の心に響いてきました。赤い服のおばあちゃんエピソードがなんとも言えずに良かった!

でも、ストーリー部分を担ってるほうのパートが実はそこまで面白くありませんでした。個人的には、人々が自分の人生を振り返って語るドキュメンタリーだけでも十分満足できたと思います。

あとこの映画、映像がきれいなのも良いですね。死語の世界ということで、パーっと明るい映像はないんですけど、「光」がとても効果的に演出されていて、なんとも心地の良い映像でした。

タイトルの「ワンダフルライフ」も、誰の人生も素晴らしいものなんだよという優しいメッセージを感じさせて、とても良いんですけど、海外での英語タイトルは「Afetr Life」なんですね。これは恐らく、傑作「素晴らしき哉、人生」の原題「It's a wonderful life」と被ってしまうからなんだろうけど、日本のオリジナルタイトルのほうがやっぱり良いよなぁと思います。

今の自分だったら何を一番の思い出として選ぶんだろうか。なんてことを見ながら一緒に考えるのもとても楽しかったし、「これが一番」と思えるような思い出をこれから作れたらいいなぁなんて考えたりして、いつの間にか、自分も映画に参加してるような気分になれたのもよかったです。

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2006年9月26日 (火)

「一号線を北上せよ」 沢木耕太郎

「一号線を北上せよ ベトナム街道編」 沢木耕太郎 講談社文庫

中学~高校の頃に「深夜特急」が好きで、何度も読み返していました。その後、沢木氏の本は気にはしつつも、読む機会がなかったのですが、この本は表紙を見て、読みたい!と思ってしまいました。装丁&イラストが「深夜特急」と同じだったんです。シリーズ化されるのなら、続けて読んでみたいですねぇ。

これは、沢木氏がベトナムを旅した記録を書いた旅行記が3本収録されていて、最初の1本が初めてのベトナム旅行の様子、残りの2本がそれからしばらしくして、ベトナムをバスで北上したときの旅行の様子を書いています。

読んですぐに気づくのは、沢木氏が、「深夜特急」の頃の、貧乏旅行をする若者ではなくなってしまっていることです。本当に貧乏で貧乏旅行をしているのではなくて、そのスタイルの旅しか知らないから自然とそういう旅をしてしまっているような印象です。なので、雰囲気が良さそうであれば高いホテルにも泊まったりもしていました。あとは、ちょっとした「頑固さ」みたいなものが感じられて、なんとしてでも、自分のスタイルを通そうとするあまりに、上手くいかなかったような場面もチラホラ書かれていましたね。このあたりは、この紀行文全体を貫いて描かれているテーマにもなっていて、50代にさしかかった沢木氏が、欧米の中年バックパッカーたちを見て感じた思いや、日本の団体客を見て感じる思いにも顕著に現れているように思いました。

しかし、それでも変わらないのは、彼の旅行記から、その場所の空気がヒシヒシと伝わってくるところ。「土臭い」とでも表現すれば良いのでしょうか。旅行者の記録ではありますが、「生活感」が感じられるといえば良いのか。説明が難しいのですが、読んでいると、現地にいるかのような錯覚を覚えて、実際に行ってみたくなります。

旅のスタイルというのは人様々で、沢木氏のスタイルは自分の旅とまるっきり違います。いわゆる「パックツアー」を嫌う点では同じですが、僕は、旅をするとなれば、行く前に徹底的に現地情報をリサーチしてから行くタイプ。現地に行ってからでないと分からない部分は多々あるので、リサーチの結果、行く前に立てた計画通りに旅行が進むことはほとんど無いのですが・・・。なので、この中で沢木氏が、訪ねようとしている施設の場所が分からずに、ほとんど1日をつぶしてしまうような記述を見ると、「自分だったら事前にリサーチして地図にチェックをいれてるんだろうなぁ」なんて思ってしまったり。

しかし、やはり、旅をするというのは楽しいもの。上手な紀行文を読むと、旅がしたい!という思いが強まるのが辛いところです。続編の発売が楽しみな1冊でした。

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2006年9月22日 (金)

映画「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」

「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」 2005年 アメリカ

グウィネス・パルトロウ、アンソニー・ホプキンス、ジェイク・ギレンホールの3人が織り成すピュリッツァー賞受賞の戯曲の映画化。数学の証明を題材にとるというのも気になるところで、ずっと見たいなぁと思っていた映画です。

若い頃に天才数学者として名を馳せたものの、その後、精神を病んでいた父(アンソニー・ホプキンス)が亡くなり、ずっとその面倒をみてきた娘キャサリン(グウィネス)は深い悲しみの底にいた。そこに若い数学者ハル(ジェイク)が父の残した大量のメモを見せて欲しいとやってくる。やがてハルは、1冊のノートに書かれた証明が数学上の奇跡的な大発見であることに気づくが、キャサリンはそれは自分が書いた証明だと主張。父親の持つ天才的な数学能力を引き継いでいた彼女だったが、自分も精神を病んだ父と同じになるのではないかと思いそれを隠してきたのだった。果たして、証明の正体は・・・。過去と現在をいり混ぜながら、主人公の苦悩と再生、そして、その人生の「証明」を描く作品。

数学者のピークが20歳前後だというのは有名な話。分野は違うものの自分も、頭脳のピークは過ぎてるんだよなぁとふと思ってしまう大学院生のANDREでした・・・。

さて、この映画、父の葬儀のために帰って来た姉が、主人公を精神的に病んでいるのではないかと心配し、余計なおせっかいを焼きまくるんですけど、ずっと2人で過ごして看護をしてきた父が亡くなって1週間も経たないのに、落ち込んで塞いでいるのは当然だろうし、それを見て精神的に病んでると心配するというのうはどう考えてもお門違いもいいところではないかと、この姉にイライラしてしまいました。気分転換させたいのかもしれないけど、この姉のふる話題はあまりにもくだらないし、おしつけがましいし。「虚数」の意味も分からずに笑ってるし・・・。

父が精神を病んでいて、その数学の才能を引き継いだ自分が同じようになるのではないかと恐れる主人公の不安、父の死による落ち込み、そんな中にいる自分に必要以上に構おうとする人々へのイライラといった複雑な感情入り混じる主人公はなかなか難しい役どころで、グウィネスも熱演してはいるんですけど、「いつもうるさくわめきたてる人」というような印象ばかりになってしまったのはちょっと残念。

アンソニー・ホプキンスは、某博士のイメージが強いので、もはやこの程度では、精神を病んだという印象はないですよね・・・。しかしながら、とても味のある良い雰囲気を出していました。

ジェイクくんは、自分の中ではいつまでたってもドニー・ダーコ少年のイメージが強いんですけど、もっさりした地味な青年がよく似合いますね。そして、彼、いつの間にすっかり大人ですね。

もともとが戯曲ということで、やはり会話中心で進められてこその話なのだろうね。映画化が成功してるとは決して言えない分かりにくさのある作品だったなぁと思います。

この映画、クライマックスともいえる場面で父の書いたノートを読むんですけど、それが、あまりに切ない。しかし、限りなく美しい内容でした。詩人になればいいのに・・・なんて思ってしまうくらい。

あと、葬式の場面でもはや、遺族がだれもいなくなってからも、その家で人々が騒いでいて、さらには翌日、掃除もなにもせずにみなが帰ってしまってるっていうのはどうなんですか!?そういう習慣なのか!?

グウィネスはやっぱり笑顔の役のほうが似合いますよね。「スライディング・ドア」とか「エマ」とか「恋に落ちたとか~」とか。「セブン」、「大いなる遺産」なんかも含めて、少し前の彼女の主演作品はどれも好きなものばかりです。「スライディング・ドア」はロンドン大好きっ子としてはかなりオススメですよ!

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2006年9月20日 (水)

「太陽の塔」 森見登美彦

「太陽の塔」 森見登美彦 新潮文庫

なんとなく面白そうだなぁと思い手に取った作品。

京都大学で5回生休学中の主人公。彼は3回生のときに初めてできた2つ年下の彼女に、去年のクリスマスにふられて以来、「彼女の研究」に全身全霊をそそいで、妄想だらけのストーカーまがいの行為を繰り返す。そして、彼女のいない仲間達で結成しているサークル「男汁」の仲間達と男臭い妄想で爆走を続ける日々を描く作品。

最初は、主人公がストーカー!?ということで、ちょっとひく設定でもあるんですけど、次第に彼の妄想街道まっしぐらな独白にはまってしまって、最後まで爆笑しながら一気に読めてしまう作品でした。

京大生ということもあって、ちょっとインテリな香りを漂わせつつ、わざと格調高い文学作品のような口調で語ってみせる主人公がまた面白い!あと、「我々の中では『○○事件』と呼んでいる」という感じで語られる非常にバカバカしい事件の数々も笑わせてくれました。読んでいて、コイツら異常だよ!!!と突っ込みたくなるような彼らの妄想トークなんですけど、こういうバカな会話って実際にしますよね。おいおいとツッコミつつもところどころ共感したりしてよくできた青春小説だと思います。

ゴキブリキューブとか京大生狩りとかあえて男だけで真夏に鍋を企画するとか印象的なエピソードが沢山でてくるんですけど、その中でも、クライマックスの、彼らが言う「クリスマスファシズム」への抵抗として行う、とある歴史的事件の再現がもう無茶苦茶ツボでした。自分は、歴史の授業でもあの事件は妙にツボだったし。

本当に全編を通してバカバカしい妄想で彩られた作品なんですけど、そこにちょっとした切なさを感じるのもこの作品の味わい深いところだと思いました。京都在住で京都の地理に精通していればもっと楽しめたんだろうなぁ。

ところで、これ、ファンタジー大賞を受賞しているんですけど、この作品を「ファンタジー」として解釈するのはどうなんですかね!?割と「ファンタジー」の定義が広い賞なんでしょうか。

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映画「踊る大紐育」

「踊る大紐育」 1949年 アメリカ

一度書き終えた記事が消えてしまって、書くのが2度目なので、ちょっとテンション低めです。

当代きってのミュージカルスター、ジーン・ケリーとフランク・シナトラが主演、傑作「雨に唄えば」の監督コンビに、ミュージカル楽曲は「ウエストサイド・ストーリー」のバーンスタイン、さらには、ミュージカル映画史上初のロケ撮りというかなり豪華な作品。コレだけ見ると、どんな映画なのかと思いますが、これがまた、とんでもない娯楽大作でした。

軍艦がNYに寄港し、24時間のフリータイムを与えられた3人の水平たち、ゲイビー(ジーン・ケリー)、チップ(シナトラ)、オジーが主人公。初めての大都会NYに大ハシャギの3人のお目当ては、名所の観光と、ステキなNY美女とのデート。チップは、女性タクシー運転手に一目ぼれされて猛烈なアッタクを受け、オジーは博物館で出会った美人人類学者に見初められる。一方、ゲイビーは地下鉄のポスターで見た「今月のミス地下鉄」の写真に一目ぼれ、広いNYで彼女を捜し求める。男女6人がNYを舞台に、歌い踊りまくる、とんでもなく明るいミュージカル。はっきり言ってストーリーはあってないようなものです。

この映画、やはり音楽が良いですね。バーンスタインの舞台版のオリジナルに、映画用に新しく楽曲が加えられたみたいですが、メインテーマとも言うべき、オープニングの「New York New York」の突き抜けるような明るさとノリの良さがこの映画の全てを物語っていました。そして、このオープニングは、NYの名所をたっぷりとロケ撮りした映像で見るものをあっという間に1940年代のNYに引き込んでしまいます。このオープニング、、かなり好きですねぇ。ちなみに、この曲は、今は終了してしまったTDSの「アンコール!」でも印象的なナンバーでしたね。

この映画は歌のほかにもダンスシーンが見事です。この頃のMGM作品は、「巴里のアメリカ人」を代表として10分をはるかに越える長いダンスだけのシーンがあったりして、正直、そのダンスが見事であっても、終盤はやや退屈になってしまうのも事実なんですけど、この映画は、程よい長さだったし、ストーリー仕掛けで楽しいダンスだったので、それもあまり気になりませんでした。ジーン・ケリーはやっぱ上手いよね!

ダンスといえば、博物館にて女性学者を演じるアン・ミラーが本当に見事なタップを披露していて、この場面も圧巻!このタップを見るだけでもこの映画を見る価値はありです!しかしながら、この場面、個人的にはもっと気になる人がいました。タクシー運転手を演じるベティ・ギャレットがかなり熱い!!目が、演技がすごいことになってます。もともと、原始人気分で皆が羽目を外しまくって踊るシーンですけど、ここでの彼女は完全に原始人になりきってます!!素晴らしいタップと素晴らしい原始人ダンスに圧倒されて、ここだけ何度も見返してしまったほど。

これまでミュージカル映画の神がかり的な熱演といえば、「アニーよ銃をとれ」で私はインディアンだと歌い踊る場面がマイベストだったんですけど、この原始人ダンスはそれに匹敵するくらいの衝撃でした。

あと、印象的だったのは、摩天楼の上でシナトラとベティ・ギャレットが2人でデュエットする曲。歌詞が良い。そして、その後、町に繰り出す6人が一緒に歌い踊る曲も良かったですね!

この映画は、はじめから終わりまで、テンションが下がる場面が皆無に等しくて、ずーっとみんなで大騒ぎしているような印象が強いので、後半くらいになると、ちょいとお腹いっぱいになってくるのも事実ですが、長い海上生活の後に与えられたわずか24時間の休暇を存分に楽しもうとする若い水平たちを描いているわけですから、このくらいのテンションの高さは当然といえば当然かもね。

さらに面白かった点として、水平たちの白いセーラ服と、女性達の原色のドレスが画面に見事に配置されていて、とりわけダンスシーンでのカラフルな画面がとても印象的でした。

ロケで撮影されたNYの町の姿、当時のアメリカを代表する作曲家による音楽、そして、やや男尊女卑を感じるストーリーを含めて、1940年代のNYをこれでもかというくらいに感じるのことのできる作品で大満足でした。

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2006年9月19日 (火)

映画「マダムと奇人と殺人と」

「マダムと奇人と殺人と」 2004年 仏、ベルギー、ルクセンブルク

タイトルのままになんとも風変わりな映画でした。でも、ゆる~い笑いの感覚が日本の映画やドラマととても似た雰囲気で、なんだか新鮮なヨーロッパ映画。

舞台はベルギー。ブリュッセルのレオン警視は墓場で死体が発見されたという知らせを聞いて、触るものを何でも壊してしまう相棒とともに駆けつけるが、そこには死体の姿はなかった。一方、奇人が集う下宿付きのビストロ「突然死」(←店の名前)では、掃除夫として働くオカマのイルマのもとに、男性だった時代に作った20歳の娘が、一度も会ったことのない父親を訪ねてやってくるという知らせでてんやわんやの大騒ぎ。連続して起こる殺人事件は、やがてビストロ「突然死」を巻き込んで、新たな展開を見せるが・・・。という物語。

とにかく奇人ばかりが出てくる映画でした。主人公の警視はこの作品では一番の常識人ではあるものの、それでも、空き時間はひあすら編み物をしているという変わり者。彼の母親は懸賞マニアで、家中が懸賞で当たった下らない雑貨で溢れいるし、彼の秘書を務める女性は、ユニークなイヤリングがトレードマークで金魚鉢型のイヤリングの中で金魚を飼ったり、オルゴール付きイヤリングを鳴らしながら歌を歌ったり。解剖医は、とにかく死体LOVEだし、警視の愛犬は生肉の香りに引き寄せられて・・・という始末。

さらに、町の人々も変わり者ばかりで、ビストロ「突然死」のコックは、妙な創作料理に夢中だし、神父様は聖水をアルコール感覚でがぶ飲み、墓場の土堀人は、夜中に死体とダンスを踊ったりととにかく一筋縄ではいかない人々ばかり。

画面のいたるところに小ネタも満載で、クスリと笑ってしまう場面の連続。これは、最近の日本のコメディなんかと非常によく似ているように思いました。ドラマの「時効警察」とか、クドカン作品とか、映画だったら新しいところでは「亀は意外と速く泳ぐ」なんかのテイストにとても近い!たまにブラックでシュールな笑いがあるのは西洋系のコメディではあるけれど、こういう小ネタ満載の奇人変人コメディは万国共通なんだなぁというのを実感しました。

上でシュールな笑いと書きましたが、この作品、ベルギーということもあって、僕の好きな画家、マグリットもかなり印象的に使われていて、その辺も嬉しかったですね~。

一応、サスペンスになっているメインのストーリーもそれなりに楽しめるし、続編があったら、是非見てみたいと思う作品でした!

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2006年9月17日 (日)

映画「春の雪」

「春の雪」 2005年 日本

三島由紀夫の原作を行定監督&妻夫木×竹内という豪華キャストで映画化した作品。言わずと知れた、昨年の話題作です。

舞台は大正時代。侯爵家の子息、松枝清顕は何不自由ない恵まれた環境に暮らす青年。没落しつつある名門の令嬢、綾倉聡子は幼馴染の彼に思いを寄せていたが、清顕は、自らの思いに気づいてか気づかずか、不器用な態度で、そんな彼女の思いを弄ぶかのように冷ややかに接していた。やがて聡子のもとに宮家の王子との縁談が持ち上がり、聡子は清顕に自らの思いを綴るのだが、ふとしたすれ違いが原因で清顕は聡子に腹を立て、彼女の手紙を無視し続ける。そんな中、聡子は王子との婚約を決意するのだが・・・。という物語。

この頃の時代の上流階級の人々の優雅な世界は、ヨーロッパを舞台にした映画ではよく見る好きな題材なのですが、日本の作品はほとんど見たことがないので、自分の中にある大正日本とは全く違うイメージの、西洋文化と融合した和の世界を見ているだけでも、個人的にはなかなか楽しめる作品でした。この世界観と内容だったら、海外でのMishima人気も理解できますな。

上の感想ともリンクしますが、この映画、とても映像が美しくて、ハリウッドの「SAYURI」なんかも、戦前の日本の美しい絵を切り取った場面があったのですが、本家の日本が撮影するJAPANは流石の見事なまでの美しい映像でした。自然の美しさはもちろんなんですけど、建物や人物の撮り方もかなり綺麗だったと思います。

で、肝心の物語ですね。なにが物足りなかったかと言えば、清顕の複雑な感情がよく理解できなかったというのにつきます。自分は原作を読んでいないので、なおさらです。恐らく、もっともっと彼の苦悩があったのかと思うんだけど、この映画を見た感じだと、1人で勝手に弄んで、本気になって、腹を立てて、後悔したけど、ちょっと遅かったというなんとも自業自得感がいなめないキャラクターになっていて、ラストでそこまで感動ができませんでした。なので「悲劇」とか言われてもあまりピンとこなかったのが正直な感想。

あと、清顕の口調が、いかにもな文学作品のインテリ学生たちの口調なんだけど、映画でそれを実際に喋るのを観るとちょっと違和感が・・・。でも古い映画を見て、そういうのを感じることはあまりないので、恐らくは、現代の若者の役者さんたちが、それをするのを見るところに違和感を感じているんだろうなぁ。妻夫木くんは、決して悪くはなかったとは思うんですけどね。やらしい感じでニヤリと微笑むところなんか、意外にもかなりハマってましたね。

ところで、観ながら、竹内さんとだったら、藤木氏なんかのほうが合うのではないかとか思ったんですけど、それは単に朝ドラのイメージだということに後から気づいてみたり・・・。彼、我が家では未だに「はかせくん」です。

気になって、ネットで原作のことを調べてみたところ、どうやら、壮大な時間の流れを描いた全部で4部構成の作品の第1部なんですね。説明を読んで、映画の中で伏線ぽっかたのに、生かされてないところとか、役回りがはっきりしなかったキャラクターの存在意義がなるほど納得でした。面白そうだから原作も読んでみようかな。つづきも気になりますし。結局、原作もの映画は原作を読まないことには何もコメントできないですよね・・・。

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「コッペリア」 加納朋子

「コッペリア」 加納朋子 講談社文庫

文庫化されているものは全て読んでいる加納作品。少し前にまた新しく文庫化されたものがこの作品。ちょっと不思議なテイストのミステリーでした。

物語はと人形作家、如月まゆらが製作した人形たちと、それをめぐる、様々な人間ドラマを描くサスペンスミステリー。作品は全部で3部構成。メインの登場人物は、如月まゆらが製作した人形と瓜二つの演劇少女、聖子と如月まゆらの製作する人形に魅せられてしまい、まるで人形が生きているかのような聖子の存在にひかれて行く青年、了の2人。第1部はこの2人が交互に語り手になる形でそれぞれの物語が語られていく。続く第2部はここに、謎に包まれた存在である如月まゆらをよく知る男という第3の語り手が加わり、3人の視点で物語が進む。そしてラストの第3部で、ミステリアスな物語の謎が明かされるという構成。

加納朋子という作家はなんともイジワルだと思っています。傑作「ななつのこ」をはじめとする連作短編集の数々は、見た目こそ連作短編ではあるものの、実は長編だったりして、常に作品の中我々をはっとさせるトリックを仕込ませています。そして、この作品でも、彼女の仕込んだ絶妙なトリックが我々読者を「???」な世界へと引き込んでいきます。

「人形」というテーマからして、どこか奇妙な味わいを感じますが、もともとミステリアスなストーリーなところに、物語の途中で、彼女の仕込んだトリックがドーンと明かされて、読んでいるこちらとしては、「?」となり、見事に騙されていたことに気づくものの、何がなんだか状況を把握しきれないままに物語が終わってしまうという感じです。そこで、慌てて、最初からパラパラと読み返してみると、なるほど納得して、ようやく全貌をつかめたような感じでした。

面白かったのは、人形や演劇なんかの題材が出てくるものの、人形作家が作品にこめる思いや、演劇人が舞台にこめる思いのようなものはほとんど描かれないという点。作り出す側ではなく、その周囲のそれを受ける側の人々の「執着」をただひたすら描いていくというところがなかなか面白かったです。

これまでの加納作品はどこかホンワカした雰囲気が心地よかったのですが、今回は、かなりミステリアスな世界を構築していて、また新境地を開いている感じ。講談社文庫で出る加納作品は他の作品とやや毛色が違ったものが多いような気もしますね。

とにかくつづきがきになって仕方がなくて一気にあっという間に読んでしまいました。ラスト近くの分かりにくさはちょっとネックだけど、確実に面白いといえる作品ですね。

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2006年9月16日 (土)

映画「出口のない海」

6月にモニター試写会で3ヶ月以上フライングで見てきました。感想などは公開まで待てということなので、保管してました。

この試写は、行くまで何の映画が放映されるのかが分からないというものでした。松竹作品であることは分かっていたので、HPの今後の予定作品を見ながら何かなぁなんて思いながら行ったんですけど、蓋を開けてみれば、自分では絶対に観にいかないし、テレビでやっててもスルーするであろう作品でした・・・。そういう状況で見ているので、感想もかなり辛口です。

かつては甲子園の名投手だった主人公の並木は、大学野球でも投手をしているが、肩を壊してしまい、直球勝負ができなくなったので、魔球(=新しい変化球)の開発に熱心なスポーツマン。家族公認の恋人もいて、野球仲間たちと大学生活を謳歌していたが、時代は2次大戦中で、戦局も激しくなり、彼ら若者は皆兵隊に志願していった。並木は、海軍に入隊し、そこで、自らの命と引き換えに敵艦に突っ込んでいく人間魚雷「回天」の乗員に志願する。厳しい訓練の末、迎えた初出動。敵艦を見つければ出撃命令が出て、それはまた、自らの命が終わることを意味する。故郷の仲間たち、家族、恋人、そして、戦友たちに思いを馳せ、並木をのせた潜水艦はただひたすらに「その時」を待つ・・・。見えない敵と闘う戦争のなかで、特攻として死んでいくことの意味とは?若者達の思いを感動的に描く作品でした。

えっとですね、この映画、物語のつなげ方がまず気になりました。細切れなのはよくある手法なのだけれど、分かりづらいところが多いです。そして、散りばめたエピソードが伏線なのかどうかもよく分からず、そのまま回収されず終わってしまったものが多いですよね。たとえば父の時計とか。ボレロなんかも、もっと印象的に使えそうなのにもったいないです。あの曲は追い込まれていく心理描写のBGMとかにはもってこいだし。

全体的にテーマをどこに絞りたいのかが見えづらくて、それがもったいない作品。感動を前面に出したいのならば、もっともっと平和な日々の描写で観客の心をつかまないといけないですよ。なんとなく中途半端にエピソードが連なるから、感情移入する間もなくクライマックスを迎えてしまった印象。しかも、同じネタを2度繰り返すのはちょっとくどい。演出を変えてほしかったですね。あと感動のラストなのかもしれないけれど、そこに至っても、つっこみどころを沢山見つけてしまって、純粋に感動できないのも辛かった・・・。全体的に言葉が現代っぽいのもやたらと気になったし。戦中なのにカタカナ語使いすぎでしょ。

そして、戦争映画の割りに戦闘シーンを適当にごまかして、あまり入れないのは、観客ターゲットの絞りの問題もあるんだろうけど、そうするのであれば、もっと心理描写なんかを丁寧に描いていったほうが良かったのではないかと思います。

出演者は、主演の市川氏が、あまりぱっとしないんです。逆に、潜水艦で一緒になる人々、柏原収史とか塩谷瞬とかは印象に残る演技を見せてくれるし、恋人役の上野さんもなかなか雰囲気を出してるんです。うん、柏原氏はいいねー。最近、結構注目してます。

自分と同じくらいの歳の若者が、自ら志願してこの道を選び、そして、戦争自体の意味のなさに気づいてもなお、それを貫く姿は、平和ボケして、たまに起こる世界のニュースでしか戦争を感じない我々とは遠いものなのだけれど、ほんの60年前にそのようにして亡くなっていった若者達が確かに存在したという事実はやはり色々と考えさせられます。だから、映画の扱う題材自体は、そこまで好きではないけれど、悪くないと思うんです。でも、全体的に何が言いたいのかがはっきりと見えてこないのが物足りない作品でした。

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2006年9月12日 (火)

映画「海を飛ぶ夢」

「海を飛ぶ夢」 2004年 西・仏・伊

昨年ヒットしたスペイン映画です。気になりつつも、重そうな題材だったので、やや躊躇していたんですけど、思い切って借りてきました。

28年前に事故で四肢が不自由になり、寝たきりになってしまったラモンが主人公。彼は、この状態のまま生き続けることに疑問を感じ、自ら死を望むようになる。やがて、彼のことはマスコミにも取り上げられ、彼に協力しようとする人々や人権団体が集まるようになると同時に、彼の考えに反対する人々も様々な意見を寄せる。事故で重度の障害を負った主人公の下した決断と、それを取り巻く周囲の人々を描く作品。

もっと泣ける映画なのかと思っていたんですけど、どちらかというと、深く考えさせる映画でした。「ミリオンダラー・ベイビー」のときも書きましたが、こういう問題には正解がないからこそ、余計に、色々なことを深く考えてしまいますよね。

我々視聴者の声を代弁するかのように次々と現れる、反対論者や、賛成論者の人々の声ですが、それでも、当事者でなければ、知ることのできない思いというのも確実に存在するわけで、それを傍観するしかできない我々は、劇中の彼の言葉を借りると、「きみもみんなと同じなんだね」という一言に尽きるのだと思います。この場面、とても強烈に胸に染み入りました。

さて、この映画、そんな考えさせられるストーリーですが、ハッとするような美しい映像がところどころにあって、それが映画の題材の重さをやわらげて見ている我々をドーンと沈めないようにしているように感じられました。そんな美しい映像の中でもとりわけよかったのは、中盤のクライマックスとも言える、ラモンの見る夢の映像。この映像、恐らく、ハリウッド映画だったらラストに持ってきて感動させるんだろうなぁと思うんですけど、中盤に入れて、ラストはひっそりと終わるのも印象的でしたね。この夢の映像は、これだけでも何度も見たいくらい。バックで流れる「誰も寝てはならぬ」もまた見事にマッチしていました。しかしながら、「誰も~」の歌い方が、自分の好みではなかったので、その辺はちょっと残念。この映画の歌手はちょっと軽い(←何様なんだかっていう批評ですな)。

何度も見たいとは思わない映画だし、やはりどうしても納得のいかない部分もたくさんあるんですけど、その分、色々なことを考えることのできる映画だったと思います。

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「猫とともに去りぬ」 ロダーリ

「猫とともに去りぬ」 ジャンニ・ロダーリ 光文社古典新訳文庫

光文社から今月新しく刊行されることになった古典新訳文庫は、かなり期待できるシリーズなのですが、今月出た中でも個人的に一番注目度の高かった作品。作者は「ファンタジーの文法」(ちくま文庫)なんかを書いているイタリアの児童文学作家。これは結構前に読んだことがあるのですが、ロダーリの実際の作品を読むのは今回が初めて。この作品集がかなり面白かったので、内容もほとんど忘れかけてるし、また「ファンタジーの文法」を読み返そうかなぁと思います。

さて、この本は、全部で16編の短編が収められているんですけど、どれにも共通しているのは、ファンタジーであるということ。児童向けと呼ぶには少し、皮肉や風刺が強いと感じられる作品もいくつかあって、少なくとも10代以上の読者が対象なのではないかと思いました。あと、いたるところに、ユーモアが溢れているのも特徴的。ユーモアに溢れた奇想天外な物語に、ピリリと毒をきかせた作品集ですね。印象深かった作品をとりあげて、軽くコメントを。

・「猫とともに去りぬ」
表題作です。年老いた老人が、家の中に自分の居場所を見つけられず、猫に変身して、猫たちが集う場所に行ってみると・・・。

冒頭の第1作目から、いきなりのインパクトのある作品ですが、これを読めば、この作品集の目指す方向は明確ではないかと思います。藤子F氏の短編漫画の「じじぬき」というのをちょっと思い出しました。

・「ヴェネツィアを救えあるいは魚になるのがいちばんだ」
水辺の都、ヴェネツィアがついに沈没の危機に!?それを知った家族が魚に変身して都市を救おうとする。

変身ものがいくつかある作品集ですが、これもまた、奇想天外な発想がとても面白かったですね。

・「ピアノ・ビルと消えたかかし」
西部劇タッチで描かれる作品なのだが、定番の流れ者の男キャラが常にピアノと一緒に移動し、音楽を奏でているというのがポイント。

発想が本当に素晴らしい作品でした!ピアノと西部劇の融合なんて誰も考えつかないでしょ。そういう不自然な相容れないものを、なぜかすんなりと受け入れて、読ませてしまうのは本当に上手いと思う。ユーモアたっぷりで、思わずクスリとしてしまう作品でした。

・「ガリバルディ橋の釣り人」
魚を上手く釣るためのおまじないを知った男が、その技を自分のものにしようとする物語。

同じできごとが何度も繰り返されるだけのお話なんですが、なんだか妙にツボにはまってしまう作品でした。

・「ヴィーナスグリーンの瞳のミス・スペースユニバース」
とある夫人とその娘達と一緒に暮らす少女が金星で開かれる舞踏会に参加する物語。

これ、とある有名な物語の翻案なんですけど、本当に、見事なまでの翻案。感動しました。

・「お喋り人形」
クリスマスプレゼントにもらったお喋りする人形に隠された秘密とは?

これ、ちょいと怖かったです。

・「カルちゃん、カルロ、カルちゃん
 あるいは、赤ん坊の悪い癖を矯正するには…」

生まれたばかりの赤ん坊カルロ少年に、「カルちゃん」と話しかけたら・・・。

これもまた発想がユニーク。そしてタイトルの「悪い癖を矯正するには」ってのが結構、皮肉的にきいている内容で、とても面白かったです。

・「ピサの斜塔をめぐるおかしな出来事」
ピサの斜塔に突如現れた宇宙人、彼らの目的とは?

ちょっと読めてしまうオチではあるけれど、これもまたユーモラスな作品でした。

以上が特に面白かったものですが、これ以外の作品も総じてレベルが高くて、どれもこれも面白い作品集でした。次の作品はどうだろう?とついつい気になってしまって、一気に最後まで読んでしまえます。上でも少し書きましたが、藤子F氏の短編作品とも相通じる部分が多くて、あくまで日常を描いているんだけれど、その中に、ちょっと奇妙なものが紛れ込んだような作品ばかり。あとは、基本的に、ヨーロッパの古い民話のスタイルを継承しているので、子供時代にグリムなんかに親しんだ人なら、確実に楽しめるのではないでしょうか。

* * *

ところで、この「古典新訳文庫」ですが、光文社さんも、今の時代にこれを創刊するのはかなり頑張っているとは思うんですけど、「新訳」というのをシリーズ名に入れてしまうと、10年後、20年後に、それが「新訳」ではなくなってしまうときにどうなるんだろうという疑問が・・・。

他のラインナップもとても面白いので、今後の刊行作品も要チェックなんですけど、ハヤカワepiみたいに、しりつぼみにならずに、刊行が長期にわたって続くことを願うばかりです。

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2006年9月10日 (日)

映画「ドア・イン・ザ・フロア」

「ドア・イン・ザ・フロア」 2004年 アメリカ

ジョン・アーヴィングの「未亡人の一年」を原作にした映画ということで、気になっていた作品。その割りにあまりヒットしなかったのも記憶に新しいところです。

児童文学作家のテッドとその妻マリアンは海辺にある家で、幼い娘とともに暮らしていた。この家族は数年前に娘の兄にあたる2人の少年を亡くしており、それ以来、皆がキズを抱えており、夫婦関係も上手くいかなくなっていた。ある年の夏、テッドは妻マリアンに別居をもちかける。そんなところに、1人の高校生の少年エディがテッドの助手として夏の間、その家で過ごすことになり、エディは次第にマリアンにひかれていく様になる。という物語。傷を負った家族の行き着く結末とは・・・・。

アーヴィング原作の映画化作品は、「ガープの世界」、「ホテル・ニューハンプシャー」、「サイモン・バーチ」、「サイダーハウス・ルール」とこれまで4作品を観たことがあるのですが、調べてみたところ、この4作が全部のようで、今回を含めて、アーヴィングの映画化作品は全て観ているみたいです。どれにも共通しているのは、本筋がしっかりとありつつも、数々のサイドストーリーが本筋の様々な部分を比喩的に示しながら現れるところでしょうか。特に、この作品は、児童文学作家が作中で書く作品が、様々なものを比喩していたり、考えさせるような場面も多くて、なんとなく見ていると、ふっと分からなくなってしまうような箇所が割りとあったように思います。自分の理解力の問題かもしれませんが・・・。あと、従来のアーヴィング作品にみられた寓話的要素は、作家の書く物語の中には登場するものの、本筋の物語にはあまり見られませんでした。

この作品、「R18」指定になっているものの、そこまで、きわどい場面が多いわけでもありませんでした。まぁ、エディ少年がちょっと(?)変態ではないかと思えるような場面と、それに続く、マリアンの妙に親切(?)な対応は、教育的にあまりよろしくないとは思いますが。

マリアンを演じるキム・ベイシンガーは50歳を越えているとのことですが、いやはや、本当にお美しかったですね。「L.A.コンフィデンシャンル」以来、久々に見たわけですが、ちょっと鬱気味の翳りのある中年女性をとても美しく演じていました。そして、美しさだけではなくて、確かな演技力と存在感もたっぷりと見せ付けられたような気がします。

この映画は、傷を負った夫婦の物語ではあるんですけど、亡くなった子供達と同じくらいの歳のエディ少年はどうしても、彼らとその姿をダブらせずにはいられないのだし、たった一人残された娘は、一生懸命愛を求めるけれど、決して、兄達の代わりにはなれないわけで、そうしたできごとのなかに、この2人の子供達が痛々しいまでの純粋さで翻弄されていく姿がまた、この物語の切なさを盛り上げていましたね。

ところで、この映画に出てくる娘役の女の子、雰囲気がダコタさんに似ているなぁとは思っていたんですけど、エンドクレジットに出てきた名前を見てなるほど納得、エル・ファニングさんだそうで、ダコタさんの妹さんだったみたいですね。

で、見終わった最大の疑問は、原作が「未亡人の一年」の割りに、未亡人が1人も出てこないし、1年の話でもないのはどういうことなのか!?というもの。で、調べてみたところ、なにやら、原作の前半の導入部分にあたるところを映画化した作品だったみたいですね。そのまま後半も映画化してくれませんかねぇ。

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2006年9月 8日 (金)

「DIVE!!」 森絵都 角川文庫

「DIVE!!」 森絵都 角川文庫

非常に面白かったです。なんか漫画みたいな感じでサクサクと読めてしまう面白さ。でも、「小説」というジャンルでしかなしえない表現を駆使した作品で、きっと、漫画化しても、映像化してもこの作品の面白さは引き出せないのではないでしょうか。

自分としては4作目の森作品。先ごろ直木賞も受賞されてノリにのっている森さんが、ティーンを対象にして書かれていたときの代表作の1つが文庫化されたものです。

都内にある飛び込み競技のクラブを舞台に、そこに所属する3人の少年達の青春を描く作品。全部で4部に分かれているのですが、それぞれで視点が異なっているのがなかなか面白い構成です。

第1部は、なんとなく飛び込みを続けていた知季という少年が、新しくやってきたコーチによって自分に眠っている才能に気づくのを描いていました。これまで一緒に楽しくやっていた友人との摩擦や兄弟、恋人との関係など、「普通」だった少年が、突如、才能あるものの世界に飛び込む様子を描く第1部は、読み手にも共感できる場面が多くて、とても面白かったです。

続く第2部は、コーチによって青森から連れてこられた天才飛び込み少年が主人公。第1部の続きになっていても、視点がガラリと変わることで、とても驚く展開でした。第1部で共感できるキャラだった知季も、この第2部では、大分印象の異なるキャラになっていて、「視点」の違いをとてもよく表しているなぁと思いました。

第3部では、チームのコーチの息子で、国内屈指の選手として知られている少年の視点に。それまでは、天才少年のように描かれていた彼の視点で描かれることで、今度は、「飛び込み」という世界に生きることや、彼の葛藤なんかが描かれいて、これまたとても面白かったです。

そして最後の第4部では、各章ごとに次々と主人公が変わっていくというスタイルで、これまでの3人の主人公に加えて、脇役として登場した人々の視点からも物語が描かれていって、飛び込みという競技にまつわる様々な人間の群像劇を見せると同時に、まさに目が離せないストーリー展開であっという間に最後まで読んでしまいました。

視点を次々と変えていくというスタイルも面白かったしストーリーも面白くて、かなり楽しめる作品でした。飛び込みは確かにマイナーな競技ですけど、以前、オリンピックのときに中継されていた試合を、何故だかひきつけられて、ついつい最初から最後まで全部見てしまったことがあって、、個人的にはちょっと気になる競技であったということも、この作品を楽しめた要因かもしれません。

スポーツをとりまく少年達の姿を描くという点で、「バッテリー」(「DIVE!]の解説はあさのあつこさんでした。)とも近い要素を持った作品ではありますが、あちらが、孤高の天才少年を描くのに対して、こちらはもっと弱い主人公たちを描いていたりして、また違った面白さのある作品でした。

ところで、作品そのものは各登場人物の個性もよく出ているし、とても面白いストーリーだし、本当に満足のいくものだったんですけど、やはりというか、気になったのは、ここで描かれる男子中学生、高校生たちがあまりにピュアだということ。女性作者が描く少年たちって、何故だかとても繊細でナイーブなキャラが多いですよね。突き抜けるような、良い意味でのバカバカしさに溢れているというのもこの世代の男子の特徴だとは思うんですけど、そういう部分が描かれることがなくて、どの人もみんな王子様みたいな雰囲気があるのがいつも気になります。

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2006年9月 6日 (水)

映画「ギャラクシー・クエスト」

「ギャラクシー・クエスト」 1999年 アメリカ

この映画は面白いという噂を耳にしたことはあったのですが、公開されていたときに「スタートレック」のパロディだという情報を得て、パロディ=B級の下らないコメディだと勝手に決め付けて、先入観から見ていなかった作品です。なんとなく、見てみようと思って、レンタルしてきたんですけど、これが、なんと、とてつもなく面白いではないですか!!

20年前に放送されていた人気SF宇宙ドラマ「ギャラクシー・クエスト」、今でもマニアックなファン達が集ってイベントを開催していた。当時の出演者たちは、そうしたイベントに招待されては、サイン会などを行っていたのだが、本音では、もうウンザリでいやいや参加している始末。そんな彼らの元に、自らを宇宙人だと名のる4人が現れ、自分達の惑星の危機を救って欲しいといってくる。マニアックなファンによるイベントの企画だと思い、承諾した彼らだが、どうやら様子が違う感じ。なんと彼はホンモノの宇宙人で、傍受した電波で見たドラマを、歴史ドキュメンタリーだと勘違いし、出演者達をどんな困難をも切り抜ける宇宙の英雄として崇拝していたのであった。果てさて、本当に宇宙戦争に巻き込まれてしまった主人公達の運命やいかに!?という物語。

うん、本当に楽しめました。冒頭の導入部分がかなり長めで、最初は、ちょっと退屈かなぁなんて思っていたんですけど、宇宙に飛び出してからは、あっという間でした。いたるところに張られた伏線が見事に回収されていって、ちょっと長いと感じた導入部分も最後には納得の展開に。単なるB級パロディ映画だと思ってたんですけど、ここまで脚本がしっかりしているのは、かなり良い方向に期待を裏切られました。

何気に安っぽい空気を出しつつも、特殊撮影やCGも1999年の作品ということを考えれば当時の最先端技術を駆使しているし、何よりも、キャストがかなり豪華。しかもキャスティングが上手い!「エイリアン」での強い女性のイメージがすっかり定着しているシガニー・ウィーバーをお色気担当のナイスバディ&ちょっと頭の悪い役どころで宇宙モノ映画に出演させるあたり本当に面白い!あと、アラン・リックマンも被り物担当の宇宙人クルー(本人はこのドラマに出演した経歴を後悔)という役どころで、これがまた、本当に上手い!イギリスの名優をもってきて、落ちぶれシェイクスピア俳優っていう設定も良い。そして、主役の艦長を演じるティム・アレンは、「トイ・ストーリー」のスペース・レンジャーのバズの声優じゃないですか。声を聞くと、頭の中にはバズが・・・。

B級映画ではあるものの、脚本、映像、キャスティングはA級を取り揃えて、実力者が思う存分に弾けて楽しんでいる作品というのは、とても爽快です!

ちなみに、アラン・リックマンと脇役専門の男で出てくるサム・ロックウェルは昨年「銀河ヒッチハイクガイド」でも共演してるのが、また面白い!!

うちは親が「スタートレック」好きだったので、60年代のオリジナルシリーズと80年代に作られたシリーズは子供のときに、ほとんどを見た記憶があります。この映画は、完全なパロディになっているんですけど、製作者たちが本当にSTを愛しているんだなぁというのがヒシヒシと伝わってくるようなパロディだったのも嬉しかったですね。STを知っていたほうが面白い場面があるのも事実なんですが、この映画が成功しているのは、STを全く知らなくても、「ステレオタイプな宇宙ドラマ」のイメージだけで普通に笑える場面がほとんどだということ。これは裏返せば、STがいかに宇宙ドラマの原型となっているのかということを示しているようにも感じました。

笑って、ハラハラして、感動できるエンターテイメントの傑作だと思います。かなりオススメ!!コテコテなBGMもやたらと頭に残って、気分爽快だし。

宇宙人たちの笑い方とか喋り方が妙にツボで思い出し笑いしそう・・・。
とりあえず、Never give up ! Never surrender!

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2006年9月 5日 (火)

映画「オリバー・ツイスト」

「オリバー・ツイスト」 2005年 英・チェコ・仏・伊

かの有名なディケンズの原作を、巨匠ポランスキー監督が映画化。イギリス好きっ子としては、見逃せない作品です。このブログでも何度か書いてますが、自分、大英帝国時代のロンドンをこよなく愛していますからね。

救貧院で育った孤児オリバー・ツイストは、ある日、葬儀屋にもらわれることになるが、そこでの生活に馴染めず脱走、1人ロンドンへと向かう。彼はロンドンで、スリの少年ドジャーに声をかけられ、彼に連れられて、孤児達束ねて、スリや窃盗をさせている老人フェイギンと出会う。こうして、ロンドンでの生活の場を手に入れたオリバーであったが、一つの出会いが彼の人生を大きく動かす。大悪党のビルや、孤児の仲間達を巻き込んだ大騒動の末、オリバーが最後に手にするものとは?という物語。

実は、原作を読んだことがあります。しかし、割と前に読んだということと、同時期に読んだ「デビッド・コッパフィールド」と激しく記憶が混同していたため、もはや、原作との比較は再読しなければできないような状態・・・。あと、同じ原作を映画化して、アカデミー賞作品賞を受賞している、ミュージカル映画「オリバー!」も見たことがあります。こちらは割りと記憶も新しいんです。しかし、「オリバー!」はやはりミュージカルという性質上、どうしても、今回のような文芸大作といった雰囲気はなくて、歌と踊りを中心に物語が展開していくので、大分イメージは違いましたね。ストーリーはほとんど同じですが。ちなみに、同じ題材をデョズニーが動物を使って映画化したアニメもあるんですよー。ビリー・ジョエルやベッド・ミドラーといった声優がやたらと豪華な作品です。

ポランスキー監督といえば、「戦場のピアニスト」の記憶が新しいのですが、今回の映画化を聞いたときに真っ先に思い浮かべたのは、彼が監督した英文学映画化作品「テス」でした。「テス」はかなり好きな映画だったし、「戦場の~」で1人の男が次々と運命に翻弄されていくのを見事に描いていたこともあって、実はかなり期待していた作品です。ポランスキーといえば、ホラーやサスペンスのイメージのほうが強いというのも事実ですが・・・。

で、見た感想ですが、大満足でした。文句のつけようがないといえば嘘になりますが、サクサクとテンポよく進んでいくので、長さは全く気にならないし、むしろ、3時間くらいの長さにして、もっと色々な場面を丁寧に描いても良いのではないかと思えたくらい。ところどころ、もっと描けばよいのになぁという場面がチラホラありましたしね。テンポが良い分、次々にオリバーに降りかかる様々な出来事には終始ハラハラドキドキでした。そして、ラストは、完全にハッピー・エンドというわけでもなく、しっかりと辛い現実を目の当たりにして、オリバー少年の次なる人生が拓けるというのも良いじゃないですか。ちょっと切なくて哀しくてなんともいえないラストでした。

さて、この映画、主役のオリバー少年は、果たして何かしたんでしょうか?不満をあげるとすると、最大の不満はこの点にあります。主役にも関わらず、彼があまりにも地味。脇役の皆さんが、名優ベン・キングスレーはもちろんのこと、孤児の仲間達の少年少女たちもとても良い雰囲気&活躍をしているのに、主人公が本当に地味なんです。ただひたすらに受身に運命に翻弄されているだけという印象です。彼の心を描くような場面もほとんどなくて、見ている我々が彼に感情移入するような隙がほとんどないのです。観終わった後も、印象として残る場面に、オリバー少年の姿はほとんどないのではないでしょうか?その点が、かなり惜しいと思いました。

映像や音楽は本当に大満足で、ロンドン好きとしては見ているだけで、古きよき時代の大英帝国の空気を満喫していました。余談ですが、この作品のメインの舞台となっている19世紀ロンドンの貧民街にアメリカの作家が潜入して書いたルポ(「どん底の人びと」)がありまして、それはかなり興味深い1冊です。その内容を思い出したりしながら、どっぷりと19世紀のロンドンワールドに浸かれることができました。

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2006年9月 3日 (日)

映画「Destino」@ディズニー・アート展

「Destino」 2003年 アメリカ

ディズニー・アート展に友人が行くというので、自分は2度目なのですが一緒に行って来ました。理由としては、前回の満足度が非常に高かったので、もう1度見たいと思っていたこと、1人で行った前回は体験せずに帰ってしまったミッキーのお絵かきや、フォトスポットも堪能したかったことなどあげられるのですが、最後に背中を一押ししたのは、8月の終わりから、会場で「Destino」の公開が始まったこと。

この映画、あの、サルバドール・ダリとウォルト・ディズニーの共作で進められてたものの、金銭的な問題で未完に終わった作品を、60年近い年月を経て数年前に復活、完成させたという作品。

上映する部屋の前にある説明書きに、ダリがブルトンに送った手紙の中でディズニーと会えた喜びを伝えていたようなことが書いてあり、ディズニーとシュールレアリストという、これまで自分の中には全くつながりがなかった2つが繋がっていたことを知ったのはかなり衝撃でした!

さて、この作品、いやはや、本当に、とてつもなく「シュール」でした。完全にダリの世界がアニメになっています。もう画面を見ながら、「あー、この構図は!」とか「あー、このキャラは!」とかいたるところにダリ・ワールドが繰り広げられていました。そして、主人公の女性キャラを表す形が様々に変化して見事に繋がっていくのは圧巻でした。ラストには、何故だか分からないけど、言いようのない感動がこみ上げてきました。この展覧会、これだけに1000円払う価値があるのでは!?早期DVD化希望。

* * *

ちなみに2度目のアート展、メインのほうも十分すぎるくらいに堪能しましたよ。2度目なのに3時間以上滞在しましたからね。

やはりマーク・デイビスの描く絵が好きだなぁというのと、メアリー・ブレアは素晴らしいなぁということに尽きるんですけど、今回は、オーディオ・コメントの機械も借りて、そちらのほうもかなり楽しみました。さらに、来館にあたって、主要展示作品を改めてDVDでチェックしてきたので、各展示物を見るたびに「あー、あそこの場面の背景!」などと1人で勝手に盛り上がってました。

前回行ったときは、夏休み前の平日ということもあって、ガラガラだったんですけど、そのとき、来館者の7割くらいの人がこの音声解説を聞いていました。で、次行くときは是非自分も!と思って今回借りたんですけど、この解説なかなか面白いですねー。小ネタが豊富で、自分の知らないディズニー・トリビアもたくさん聞けました。微妙にメモったり・・・。

あと、お絵かきコーナーでミッキーを書いたんですけど、かなり難しかったです。以前、WDWに行ったときに、実際のアニメーターさんが目の前でミッキーを書くのを見たこともあるんですけど、彼女はサラサラっとあっという間に書き上げてたんですよね。さすがプロ!

ちなみに同じときに、そのアニメーターさんは、スティッチの絵も描いてくれました。しかしながら、当時は映画が公開される半年以上前で、スティッチの知名度もほぼゼロ。しかも、ぱっと見、あのキャラは全くかわいくないということで、描きあげられたスティッチを見せられた我々入場者たちはほぼ全員が完全にしらけてしまいました。あの瞬間のシラーっとした空気は、今でも鮮明に覚えています。そして、今となっては、あの瞬間にしらけてしまった自分を大変悔やんでいます。だって1度映画を見てしまったらスティッチの魅力にとりつかれてしまいますからね。

前回行ったときの記事はコチラ↓
http://andrekun.cocolog-nifty.com/andres_review/2006/07/post_59cb.html (ディズニー・アート展)

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