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2006年9月12日 (火)

「猫とともに去りぬ」 ロダーリ

「猫とともに去りぬ」 ジャンニ・ロダーリ 光文社古典新訳文庫

光文社から今月新しく刊行されることになった古典新訳文庫は、かなり期待できるシリーズなのですが、今月出た中でも個人的に一番注目度の高かった作品。作者は「ファンタジーの文法」(ちくま文庫)なんかを書いているイタリアの児童文学作家。これは結構前に読んだことがあるのですが、ロダーリの実際の作品を読むのは今回が初めて。この作品集がかなり面白かったので、内容もほとんど忘れかけてるし、また「ファンタジーの文法」を読み返そうかなぁと思います。

さて、この本は、全部で16編の短編が収められているんですけど、どれにも共通しているのは、ファンタジーであるということ。児童向けと呼ぶには少し、皮肉や風刺が強いと感じられる作品もいくつかあって、少なくとも10代以上の読者が対象なのではないかと思いました。あと、いたるところに、ユーモアが溢れているのも特徴的。ユーモアに溢れた奇想天外な物語に、ピリリと毒をきかせた作品集ですね。印象深かった作品をとりあげて、軽くコメントを。

・「猫とともに去りぬ」
表題作です。年老いた老人が、家の中に自分の居場所を見つけられず、猫に変身して、猫たちが集う場所に行ってみると・・・。

冒頭の第1作目から、いきなりのインパクトのある作品ですが、これを読めば、この作品集の目指す方向は明確ではないかと思います。藤子F氏の短編漫画の「じじぬき」というのをちょっと思い出しました。

・「ヴェネツィアを救えあるいは魚になるのがいちばんだ」
水辺の都、ヴェネツィアがついに沈没の危機に!?それを知った家族が魚に変身して都市を救おうとする。

変身ものがいくつかある作品集ですが、これもまた、奇想天外な発想がとても面白かったですね。

・「ピアノ・ビルと消えたかかし」
西部劇タッチで描かれる作品なのだが、定番の流れ者の男キャラが常にピアノと一緒に移動し、音楽を奏でているというのがポイント。

発想が本当に素晴らしい作品でした!ピアノと西部劇の融合なんて誰も考えつかないでしょ。そういう不自然な相容れないものを、なぜかすんなりと受け入れて、読ませてしまうのは本当に上手いと思う。ユーモアたっぷりで、思わずクスリとしてしまう作品でした。

・「ガリバルディ橋の釣り人」
魚を上手く釣るためのおまじないを知った男が、その技を自分のものにしようとする物語。

同じできごとが何度も繰り返されるだけのお話なんですが、なんだか妙にツボにはまってしまう作品でした。

・「ヴィーナスグリーンの瞳のミス・スペースユニバース」
とある夫人とその娘達と一緒に暮らす少女が金星で開かれる舞踏会に参加する物語。

これ、とある有名な物語の翻案なんですけど、本当に、見事なまでの翻案。感動しました。

・「お喋り人形」
クリスマスプレゼントにもらったお喋りする人形に隠された秘密とは?

これ、ちょいと怖かったです。

・「カルちゃん、カルロ、カルちゃん
 あるいは、赤ん坊の悪い癖を矯正するには…」

生まれたばかりの赤ん坊カルロ少年に、「カルちゃん」と話しかけたら・・・。

これもまた発想がユニーク。そしてタイトルの「悪い癖を矯正するには」ってのが結構、皮肉的にきいている内容で、とても面白かったです。

・「ピサの斜塔をめぐるおかしな出来事」
ピサの斜塔に突如現れた宇宙人、彼らの目的とは?

ちょっと読めてしまうオチではあるけれど、これもまたユーモラスな作品でした。

以上が特に面白かったものですが、これ以外の作品も総じてレベルが高くて、どれもこれも面白い作品集でした。次の作品はどうだろう?とついつい気になってしまって、一気に最後まで読んでしまえます。上でも少し書きましたが、藤子F氏の短編作品とも相通じる部分が多くて、あくまで日常を描いているんだけれど、その中に、ちょっと奇妙なものが紛れ込んだような作品ばかり。あとは、基本的に、ヨーロッパの古い民話のスタイルを継承しているので、子供時代にグリムなんかに親しんだ人なら、確実に楽しめるのではないでしょうか。

* * *

ところで、この「古典新訳文庫」ですが、光文社さんも、今の時代にこれを創刊するのはかなり頑張っているとは思うんですけど、「新訳」というのをシリーズ名に入れてしまうと、10年後、20年後に、それが「新訳」ではなくなってしまうときにどうなるんだろうという疑問が・・・。

他のラインナップもとても面白いので、今後の刊行作品も要チェックなんですけど、ハヤカワepiみたいに、しりつぼみにならずに、刊行が長期にわたって続くことを願うばかりです。

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コメント

僕も今この本を読んでいるところです。『ファンタジーの文法』で示されていた創作法をまさに実践しています…というのがわかるような作りが、すごく興味深かったです。既存の童話の要素を差し替えてみている、というのがわかる作品があったりとか。
ちなみにロダーリの作品では、ちくま書房から出ていた『物語あそび』という短編集がすごく面白かったですよ。

投稿: kazuou | 2006年9月18日 (月) 08時26分

いつもコメントどうもありがとうございます!

ロダーリの作品は「ファンタジーの文法」しか知らなくて、
それだけだと、結局、その実践をした作品集が気になるわけで
今回、ようやく読むことができたのは、とても嬉しかったですね。

「物語あそび」ですか。すでに絶版状態みたいですね・・・。
機会があれば読んでみたいと思います。

kazuouさんは面白そうな作品をたくさん知ってらっしゃるようで
ブログのほうも、いつも楽しく読んでは参考にさせてもらってます!!

投稿: ANDRE | 2006年9月18日 (月) 13時24分

私も読みました。面白かったです。
レヴューUPしたのですが、
やはりこちらからはTBできません。
なんでかな?

投稿: piaa | 2006年9月18日 (月) 22時49分

>piaaさん

コメントどうもありがとうございます!

記事の中や上のコメントでもとりあげてますが、
この作者の書いた「ファンタジーの文法」はお読みになりましたか?
この本が面白かったのであれば、
創作の秘訣を作者自らが指南する内容なので
間違いなく興味深い1冊だと思います。

カルヴィーノとはロダーリはファン層が被るみたいですね。
どちらもイタリアのちょっと不思議系作品ですからね。

投稿: ANDRE | 2006年9月18日 (月) 23時34分

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 ジャンニ・ロダーリはイタリアの作家。これまでに児童文学の作家として割と多数の作品が紹介されているらしい。この「猫とともに去りぬ」は今回「光文社古典新訳文庫」の中の一冊として発売されていた作品。この文庫は手垢のつ... [続きを読む]

受信: 2006年11月 5日 (日) 22時47分

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