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2006年9月17日 (日)

「コッペリア」 加納朋子

「コッペリア」 加納朋子 講談社文庫

文庫化されているものは全て読んでいる加納作品。少し前にまた新しく文庫化されたものがこの作品。ちょっと不思議なテイストのミステリーでした。

物語はと人形作家、如月まゆらが製作した人形たちと、それをめぐる、様々な人間ドラマを描くサスペンスミステリー。作品は全部で3部構成。メインの登場人物は、如月まゆらが製作した人形と瓜二つの演劇少女、聖子と如月まゆらの製作する人形に魅せられてしまい、まるで人形が生きているかのような聖子の存在にひかれて行く青年、了の2人。第1部はこの2人が交互に語り手になる形でそれぞれの物語が語られていく。続く第2部はここに、謎に包まれた存在である如月まゆらをよく知る男という第3の語り手が加わり、3人の視点で物語が進む。そしてラストの第3部で、ミステリアスな物語の謎が明かされるという構成。

加納朋子という作家はなんともイジワルだと思っています。傑作「ななつのこ」をはじめとする連作短編集の数々は、見た目こそ連作短編ではあるものの、実は長編だったりして、常に作品の中我々をはっとさせるトリックを仕込ませています。そして、この作品でも、彼女の仕込んだ絶妙なトリックが我々読者を「???」な世界へと引き込んでいきます。

「人形」というテーマからして、どこか奇妙な味わいを感じますが、もともとミステリアスなストーリーなところに、物語の途中で、彼女の仕込んだトリックがドーンと明かされて、読んでいるこちらとしては、「?」となり、見事に騙されていたことに気づくものの、何がなんだか状況を把握しきれないままに物語が終わってしまうという感じです。そこで、慌てて、最初からパラパラと読み返してみると、なるほど納得して、ようやく全貌をつかめたような感じでした。

面白かったのは、人形や演劇なんかの題材が出てくるものの、人形作家が作品にこめる思いや、演劇人が舞台にこめる思いのようなものはほとんど描かれないという点。作り出す側ではなく、その周囲のそれを受ける側の人々の「執着」をただひたすら描いていくというところがなかなか面白かったです。

これまでの加納作品はどこかホンワカした雰囲気が心地よかったのですが、今回は、かなりミステリアスな世界を構築していて、また新境地を開いている感じ。講談社文庫で出る加納作品は他の作品とやや毛色が違ったものが多いような気もしますね。

とにかくつづきがきになって仕方がなくて一気にあっという間に読んでしまいました。ラスト近くの分かりにくさはちょっとネックだけど、確実に面白いといえる作品ですね。

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