「一号線を北上せよ」 沢木耕太郎
「一号線を北上せよ ベトナム街道編」 沢木耕太郎 講談社文庫
中学~高校の頃に「深夜特急」が好きで、何度も読み返していました。その後、沢木氏の本は気にはしつつも、読む機会がなかったのですが、この本は表紙を見て、読みたい!と思ってしまいました。装丁&イラストが「深夜特急」と同じだったんです。シリーズ化されるのなら、続けて読んでみたいですねぇ。
これは、沢木氏がベトナムを旅した記録を書いた旅行記が3本収録されていて、最初の1本が初めてのベトナム旅行の様子、残りの2本がそれからしばらしくして、ベトナムをバスで北上したときの旅行の様子を書いています。
読んですぐに気づくのは、沢木氏が、「深夜特急」の頃の、貧乏旅行をする若者ではなくなってしまっていることです。本当に貧乏で貧乏旅行をしているのではなくて、そのスタイルの旅しか知らないから自然とそういう旅をしてしまっているような印象です。なので、雰囲気が良さそうであれば高いホテルにも泊まったりもしていました。あとは、ちょっとした「頑固さ」みたいなものが感じられて、なんとしてでも、自分のスタイルを通そうとするあまりに、上手くいかなかったような場面もチラホラ書かれていましたね。このあたりは、この紀行文全体を貫いて描かれているテーマにもなっていて、50代にさしかかった沢木氏が、欧米の中年バックパッカーたちを見て感じた思いや、日本の団体客を見て感じる思いにも顕著に現れているように思いました。
しかし、それでも変わらないのは、彼の旅行記から、その場所の空気がヒシヒシと伝わってくるところ。「土臭い」とでも表現すれば良いのでしょうか。旅行者の記録ではありますが、「生活感」が感じられるといえば良いのか。説明が難しいのですが、読んでいると、現地にいるかのような錯覚を覚えて、実際に行ってみたくなります。
旅のスタイルというのは人様々で、沢木氏のスタイルは自分の旅とまるっきり違います。いわゆる「パックツアー」を嫌う点では同じですが、僕は、旅をするとなれば、行く前に徹底的に現地情報をリサーチしてから行くタイプ。現地に行ってからでないと分からない部分は多々あるので、リサーチの結果、行く前に立てた計画通りに旅行が進むことはほとんど無いのですが・・・。なので、この中で沢木氏が、訪ねようとしている施設の場所が分からずに、ほとんど1日をつぶしてしまうような記述を見ると、「自分だったら事前にリサーチして地図にチェックをいれてるんだろうなぁ」なんて思ってしまったり。
しかし、やはり、旅をするというのは楽しいもの。上手な紀行文を読むと、旅がしたい!という思いが強まるのが辛いところです。続編の発売が楽しみな1冊でした。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「足音がやってくる」マーガレット・マーヒー(2013.05.30)
- 「SOSの猿」伊坂幸太郎(2013.05.05)
- 「死美人辻馬車」北原尚彦(2013.05.16)
- 「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ(2013.04.01)
- 「エムズワース卿の受難録」ウッドハウス(2013.03.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント