「いつか王子駅で」 堀江敏幸
「いつか王子駅で」 堀江敏幸 新潮文庫
堀江氏は文庫&白水uブックスの堀江作品は全部読んでいて、結構好きな作家です。彼の初長編作品が先日文庫化されたので読んでみました。
大学の時間給講師をしている主人公は、ふとしたことで背中に昇り竜をいれた、印鑑職人さんと知り合いになり、銭湯や行きつけの飲みやで出会っては話をする仲になる。あるとき、この職人さんが荷物を置き忘れたまま姿を消してしまう。という物語を軸にしながら、主人公と町の人々との交流を描いていく作品。
これまで読んできた作品では仏文学者である堀江氏が主にフランス文学を題材にとって、色々な文学作品に馳せる思いを上手く、小説の中に組み込んで、余韻の良い上質の短編ばかりだったので、どのような長編を書くのか想像しづらかったのですが、長編になっても、堀江氏お得意のエッセイのような文体で、ところどころに文学作品に関する考察が入るというスタイルがそのままなのが、なかなか面白い1冊でした。
今回は日本文学への言及が多くて、その点ではちょっと新鮮でしたね。メインで言及される作家さんは読んだことがないから、深くはコメントできないんですけど、「サアカスの馬」とか「スーホ」とかに言及してるところは、かなり頷きながら読んでしまいました。出てくる他の作品も読んでみたいなぁ。
あと堀江作品はフランスが舞台のときも、その町の空気なんかを上手く伝えていて、行ったことも無い土地の香りが感じられるようなところも好きなんですけど、今回も都電付近の風景を見事に切り取っていたように思います。実際行ったことがないから本当のところどういうところなのかは分かりませんが・・・。
堀江作品は、なんともいえない余韻が感じられて、読後感が良いのが好きです。早く他の作品も文庫化してくれー。
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