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2006年10月28日 (土)

「光ってみえるもの、あれは」 川上弘美

「光ってみえるもの、あれは」 川上弘美 中公文庫

久々にちょっと忙しくて、映画を見る余裕がない今日この頃なのですが、電車で移動する時間が長いので、逆に読書量が増えてます。ちょっとしたら余裕が出るので、そしたらまた見たい映画を消化していきたいですねー。

さて、そんな近況報告はおいておいて、川上さんの作品の最新文庫版です。積読状態の本が沢山あるにもかかわらず、川上弘美ファンとしては、次の作品が読みたいという誘惑に勝つことはできず、無茶苦茶優先して読んでしまいました。

主人公は16歳、高校1年の少年、翠。母親と祖母と3人で暮らしている彼の日常を、クラスメートの花田、恋人の平山、自分の生物学的父親(母は未婚)の大鳥さんなどとの関係を描きながら綴っていく作品。各章の表題が文学作品の詩の一節から抜き出した言葉でつけられていて、様々な詩が物語に彩を添えている。

これまで読んできた川上さんが書いた作品の中ではダントツに長い長編でした。個人的には川上作品は短編の方が好きなんですけど、川上作品の特徴でもある、独特のテンポのある文体、ほんわかとした空気のおかげで、長編でもスラスラっと読めてしまいました。いつも通りに登場人物たちのホンワカとした会話が楽しかったですね。あと、読後感が本当に爽やかでした。

今回の主人公の少年が、いつもの川上作品に出てくるダメダメな色男みたいなキャラじゃないのがちょっと印象的でした。その役割を担っていたのは大鳥さんなんだろうね。

主人公の翠が、高校生にしては、あまりにも達観しすぎているような少年で、友人とのやりとりも、高校生にしては、老けているような印象があって、青春小説として見たときに、個人的には、男子高校生はどんなにクールであっても、子供じみたバカバカしさを含んでいると思っているので、もう少しそういうのが感じられるキャラだとうれしかったなぁなんて思いました。主人公達の雰囲気は、口調こそ違えど、昭和初期くらいの文学作品とかにでてくるような学生の感じに近いですよね。

川上作品といえば、日常を描きつつも、そこにどこかズレているもの達が共存するような、世界観が好きなんですけど、今回も、一癖も二癖もある登場人物たちが良い味を出していました。キャラとしては祖母が好きかな。

後半になってから急展開するんですけど、山の場面はかなり楽しめましたねー。ちなみに、この作品で一番心に残ったのは、実は、小説の内容そのものではなくて、そこで引用されているコクトーの詩。なんだかとても心に響く言葉でした。割と地味に進んできた物語が、この詩と合わせて、なんだかとても印象深い爽やかなラストに収束していくのがとても良かったですね。

川上さん、今年もすごい勢いで新作を発表しているので、今後も楽しみです☆

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