「どーなつ」 北野勇作
「どーなつ」 北野勇作 ハヤカワ文庫
書店で見かけてなんとなく気になった1冊。
ある日突然、半径5キロほどの灰色のドーム状のものに覆われてしまったエリア。そこに入るための門を抜けると記憶の一部が曖昧になってしまう。乗り手がその腹部に入り、神経をつなぎ自らの意識をリンクさせることで操作する電気熊、アメフラシによる人工コンピューターを作ろうとする女性、歩く脳、そして、どこかで起こっているらしく、まだ続いているのかどうかも定かではない戦争などを独特のテンポで描き出す連作短編集。
全部で10篇が収録されていて、全体を通して「記憶」というものが大きなテーマとして扱われてます。一見すると、まったくつながりがないような話もあったり、話し手が同じなのか違うのかが曖昧だったり、同じ名前の人物が出てくるが、なんだか雰囲気が違ったりして、読者である自分もそのなんだか曖昧でつかみどころのない「記憶」の世界に放りこまれてしまったような錯覚を感じてしまうような作品でした。話し手が誰なのかすら曖昧になるあたりは、まさに小説というメディアならではの手法ですねー。
表紙のイラストを西島大介氏が描いているんですけど、作風も西島氏の「凹村戦争」などに極めて近い雰囲気でした。ブレードランナーなどの往年の傑作SFに最大限の敬意を払っているところや、SFなんだけれど現実っぽいようなどこかつかみどころのない世界観などよく似ていると思います。
タイトルの「どーなつ」にあるとおり、ぽっかりと穴があいたような、つかみどころのない雰囲気が全体に流れていて、どうもすっきりしないところが多い作品ではありましたが、心の奥の方にひっかかる何かを残す作品でした。
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