「海に住む少女」 シュペルヴィエル
「海に住む少女」 ジュール・シュペルヴィエル 光文社古典新訳文庫
「猫とともに去りぬ」に続いて、古典新訳文庫は第2回配本にもまた魅力的な作品を持ってきてくれました。これはますます今後の展開が楽しみなシリーズです。
作者は、詩人としても知られていて、フランス語で文筆活動を行っているものの、南米とフランスを行ったり来たりという人生を送っていたという経歴を持っているとのこと。
寓話的な作品を集めた短編集で、どれも独特の味わいのある作品ばかりでした。とりわけ印象に残った作品をいくつか紹介。
「海に住む少女」
表題作ですが、コレが本当に素晴らしい短編でした。海に浮かぶ町に1人で住む少女が主人公で、彼女の日常を描いた作品なんですけど、とても詩的で美しい作品世界で、キラキラと輝くような作品でした。それでいて最後に訪れる暗い余韻がスパイスとしてきいていて、なんとも味わい深かったです。
「セーヌ河の名なしの娘」「空のふたり」
なんとも不思議な死後の世界を描く2作品。天国とか地獄とか言ったのとは全然違う独特の世界。これまた詩的というかなんというか。決して、「美しい」世界ではなくて、これまた暗い余韻の残る作品。
「ラニ」
部族の長になった男にふとした事故から訪れた転落人生。あまりに切なく哀しい物語で、強烈に印象に残りました。
「ノアの箱舟」
この短編集には聖書を題材に取った作品が2つあるのですけど、こちらのほうが面白かったです。ノアの箱舟の裏話を描いた作品ですが、なんとも印象的な冒頭からはじまり、箱舟に乗れなかったものたちの悲哀や、乗れたものたちの箱舟内での様子など、これまたちょっと影のあるイメージで描いた作品。
「牛乳のお椀」
数ページしかない本当に短い作品ですが、これがまたなんとも印象深い作品。短いながらもしっかりと心に何かを残してくれます。
これ以外の作品も馬に変身する男の話やキリスト生誕に立ち会った動物たちを描くなど独特の視点が光る佳作ぞろいでした。どの作品も、共通しているのは、暗い余韻でしょうか。幻想的な世界を描いて、一番最後のオチを暗い方向に落としてくるというのがこの作家の味わいのようです。
あと、とにかく「孤独」を感じさせる切ない作品ばかりでしたね。不条理な場面にポツリと1人取り残されてしまった者たちの悲哀がこれでもかというくらいにどの作品でも一貫して描かれていて、読んでいて決して楽しい本ではないのだけれど、なんだかスーッと心に染み入るような味わい深さがある作品ばかりでした。
詩人というだけあって、どれも、非常に研ぎ澄まされた感性を感じさせる内容で、とにかく全体を包む、雰囲気が美しい作品集でした。うん、これも、フランス語で読めたらもっと楽しめるんだろうなぁと思われる1冊で、自分の語学力の無さが悔やまれました。
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コメント
こんばんわ!
私はいまひとつ好みではありませんでしたが、
この作家を愛する人が多いのは理解できました。
今日は調子がいいみたいなので「猫とともに去りぬ」ともどもTBしておきますね。
投稿: piaa | 2006年11月 5日 (日) 22時52分
piaaさん、コメントどうもありがとうございます!
今回はTBも成功されたようで何よりです。
自分は割りと影のある作品も好きなのでなかなか楽しめました。
「猫とともに去りぬ」とどっちが良かったか問われると
「猫~」の牧歌的な明るさも好きですし、
この作品の詩的な美しさも好きですし、
なかなか難しいところであります。
投稿: ANDRE | 2006年11月 6日 (月) 01時00分