「となり町戦争」 三崎亜記
「となり町戦争」 三崎亜記 集英社文庫
昨年単行本が発売されたときから、面白そうだなぁと思っていた作品が早くも文庫化。他の本もこのくらいのペースで文庫化してもらえると嬉しいんですけどね。
主人公はどこにでもいる普通の独身サラリーマン。ある日、ポストに入っていた町の広報紙を見ていると、そこに、隣町と戦争を始めたとの記述が。翌日以降、色々と町の様子を気にしながら過ごす主人公だが、どうも戦争をしているという実感はつかめない。ところが、次の広報紙には、戦死者数が掲載されている。やがて、主人公は、役所から偵察官に任命されて、役場の女性職員とともに隣町のアパートで暮らし始めるのだが・・・。という物語。
ただひたすらに「設定」が上手い作品でした。
隣町と戦争を始める、これまでありそうでなかった題材です。この作品での戦争は、あくまで、地域振興事業の一環。町の経済活性化のための事業。しかし、それでも、毎日のように死者が出る。町のどこかで殺人が行われていると心配になる主人公と、あくまでもお役所仕事としての冷ややかな態度で対応する役場の人々の姿の対比を面白く描きつつ、「戦争」とは何かをしっかりと考えさせる内容です。
この本を読んでいて、はっと気づかされたのですが、「今の自分の生活に戦争は関係ない」と漠然と思っている自分だけれど、自分の生活の中に、少なからずどこかで行われている戦争の影響があるのは否めない事実だということを改めて感じました。どこか遠い国のできごとと思っているけれど、それで世界経済が動いているし、物の流通も成り立っているという現実。日本の高度経済成長も、隣国での戦争による特需が大きな要素として働いていたわけだし。それでもやはり自分は戦争という手段は好きではありませんが。
あと、この作品を読んでいると、やたらと頭に浮かんでくるのが、すぐに戦争をはじめたがる某国。あそこも結構経済成長を促すために戦争をするようなところがありますよね。
そんなことを、「となり町との戦争」というなんともデフォルメされたフィルターを通して描く作品でした。主人公の視点が、のほほんと日々を過ごしている我々一般日本人の視点になっているところも上手ですよね。任務といわれて何かをしていても、映画の主人公になったような気分という描写も非常に面白かったです。
最後の終わらせ方はどのように持っていくのだろうと思って読んでいたのですが、最後、やっぱりちょっと回収しきれてない感じでしたね。軽いタッチで書かれている一方で、扱っているテーマ自体はとても大きな問題なので、やっぱり上手くまとめるのは難しいかなぁと思いました。
あと、個人的にとても気になったのは、主人公が連呼する「リアル」という単語。このカタカナ語を連呼されると、ちょっと微妙・・・。実生活で「リアル」ってそんなに使いますか??主人公が語彙の少ない人みたいな印象ですよ・・・。
そして、文庫版に追加された別章。これはあってもなくても良い感じでしたね。作者から読者への作品解説みたいな雰囲気になってましたし。
この作者、これ以降発表された作品もどれも、扱っているテーマの目の付け所がとても面白そうなので、是非是非読んでみたいなぁと思います。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「足音がやってくる」マーガレット・マーヒー(2013.05.30)
- 「SOSの猿」伊坂幸太郎(2013.05.05)
- 「死美人辻馬車」北原尚彦(2013.05.16)
- 「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ(2013.04.01)
- 「エムズワース卿の受難録」ウッドハウス(2013.03.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント