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2007年1月13日 (土)

「ミスター・ヴァーティゴ」 ポール・オースター

「ミスター・ヴァーティゴ」 ポール・オースター 新潮文庫

もう、どれだけ待たせたんだ!という感じでついに文庫化されたオースター作品。待ちきれなかった僕は原書で読んでしまったので、作品を読むのは今回が2度目。

舞台は20世紀初頭のアメリカ。ストリートチルドレンだった主人公の少年ウォルトは、「空を飛べるようにしてやるぞ」と声をかけてきた謎の男イェフーディに拾われ、彼のもとで黒人の少年、ネイティブアメリカンの女性とともに共同生活をはじめる。やがてウォルトは、何の道具も使わず空中浮遊をする技を習得し、その名は一躍アメリカ中に知られわたる。そして、それと同時に、彼は数々の困難に遭遇し、奇妙な運命の歯車にのみこまれていくという物語。

オースターは自分が一番好きな作家なんだけれど、やはりこの作品は苦手。

「空を飛ぶ少年」というファンタジックな題材の割には、物語は20世紀のアメリカの歴史をたどりながら、痛いほどに現実を突きつけてくるように展開していくんですけど、基本的にどよ~んとした重い展開なので、読むのが辛い作品です。今回は2度目だったので、最初の方から中盤以降の怒涛の展開が頭をよぎり、より一層暗い気分になってしまったり。とにかくスゴイ勢いで意表をつかれる方向に物語が進んでいくので、あっという間に読めてしまう作品ではあるんですけど、最後も、個人的にはちょっと淋しいなぁと思ってしまって、やっぱりあまり好きではない。

あと、運命に翻弄されていく主人公を描くオースター作品というと、「ムーンパレス」がすぐに頭に浮かぶのだけれど、「ムーンパレス」がオースター作品にかかせない「偶然」に支配された物語なのに対して、この作品ではあまりそれが感じられないのもちょっと残念なところ。

あと、今回は「現実なのにどこか幻想的」だった「偶然の音楽」とは対照的に、「ファンタジーなのに、どこかリアル」という世界観がもう一歩はまれなかった感じがします。こういう点で言えば「最後のものたちの国で」のほうが「ファンタジーだけどリアル」を徹底してて僕は好きですねー。

そんなこんなですが、やっぱりオースター。好きではないと言いながらもちゃんと楽しんで最後まで読んでしまいました。暗さを持ちつつも、グイグイと展開していく物語と同じように、「強さ」を感じさせてくれる作品なので、好きな人はきっとすごく好きな作品なんだと思います。

この作品は、ストリートチルドレンだった主人公の独白という形式なのでスラングが多く使われていて、原書で読んだときにどうも意味がつかめない部分も多々あっていちいち辞書で調べるのも大変なのでそのままスルーしてたりしたので、今回、翻訳で読むことができたのはかなり嬉しかったですね。主人公の口調が自分の思ってたのと感じが違って最初は違和感がありましたが。

この作品の前後の「リヴァイアサン」-「ミスター・ヴァーティゴ」-「ティンブクトゥ」の90年代後半の3作品は、社会性が強く出ていたり、寓話的な要素が強かったりで、オースターがいろいろと模索しているのが感じられる作品群で、個人的にはこの頃の作品はあまり好きじゃなかったりします。しかしながら、その後、アメリカのテロ以降、オースターは再び、初期の作品に近い雰囲気で、なおかつ、熟練された素晴らしい作品の数々を発表していて、自分は最近の作品はかなりのお気に入りです。「Book of illusion」なんか発表から大分経つのにまだまだ翻訳されなそうですしね。もったいない!!

そんなわけで僕の好きなオースター作品TOP5
(ちなみにオースターは唯一全作品を原書でも読んでる作家です)

1.「幽霊たち」

2.「偶然の音楽」

3.「The Book of Illusion」

4.「Oracle Night」

5.「最後のものたちの国で」

番外 映画「スモーク」も大好きです!!

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