« 映画「The Little Matchgirl」とかアカデミー賞とか | トップページ | 映画「プラハ!」 »

2007年1月27日 (土)

「花を運ぶ妹」池澤夏樹

「花を運ぶ妹」 池澤夏樹 文春文庫

2月末にバリ島に旅行に行く予定でして、バリ島が舞台の小説を3冊買ってきました。で、その中に大好きな作家の1人である池澤夏樹氏の作品があったので、1冊目に選んでみました。

フランスに留学し、その後、語学力を生かして、通訳やテレビ番組制作のための海外コーディネーターなどをしているカヲルのもとに、ある日、画家である兄の哲郎がバリ島で麻薬所持の疑いで逮捕されたとの知らせが入る。哲郎は、アジア放浪中に麻薬の快楽を知ったものの、中毒状態から脱し、やってきたバリ島で、怪しげな男から声をかけられ、少量の麻薬を購入したところ、警察が現れ、大量の麻薬を所持していた疑いをかけられ、最悪は死刑とまでいわれていた。カヲルは必死になって兄を助けようと奔走する。右も左も分からぬアジアの町にやってきたヨーロッパ在住の妹が見るアジアの世界、神々と同居するバリの文化、それまでの人生を回想し、自分の生きてきた過去を問い続ける兄、絶望の淵に立たされた兄と妹の物語を、奇数章は妹、偶数章は兄のそれぞれの語りで描きだす。

うん、池澤夏樹はやっぱり面白い!!バリ島に行くのがますます楽しみになりました。

この物語、序盤から中盤にかけては、インドネシアの司法制度のずさんさ、海外で突如逮捕され、死刑の可能性もある宣告される恐怖などがとてもリアルに描かれていて、バリ島も、よく目にするような楽園として描かれることはなく、何が何だか分からない、何も信用できない島という印象で、バリ島に行くモチベーションもやや下がりそうだったんですが、後半は一転、この物語で舞台となったのが、何故「バリ島」なのかという疑問が明らかになるにつれ、感動的なまでに素晴らしい展開で、これまで以上にバリ島に行きたい!!と思ってしまいました。とりあえず、ダンス見なくちゃ!!という気分になります。

「楽園」としてのバリではなく、まずは「アジア」の代名詞的に舞台として、登場させつつ、次第に、「神秘の島」としてのバリ島を決して、「ここは良い島だよ~」という観光アピールのような描き方ではなく、少し引いた視点で、描いているのが本当に上手かったですね。

作品を通して似たようなモチーフやエピソードが繰り返し登場したり、入れ子構造ではないんですけど、何重にも折り重なって展開していって、ラストのほうは、なんだか知らないんですけど、熱い思いがこみ上げてきて、胸がいっぱいになってしまいました。

いろいろと悩んでたり、どうすればよいか分からずにいるときなどに読めば、きっと、素晴らしい励みになるような1冊。

ヨーロッパとアジアを対立する概念としてではなくて、それぞれが独立した個性なのだということを感じさせる作品ですが、決して通じ合うこともないし、かといって衝突するでもない兄と妹の微妙な関係とあいまってその辺も非常に上手く描かれてるなぁと思いました。

池澤氏の文体は相変わらずの読みやすさ&圧巻の上手さで、やっぱりこの人の小説は面白いなぁと改めて認識してしまいました。

あー、こんなの読んだら早くバリに行きたいよー。(こればっか)

|

« 映画「The Little Matchgirl」とかアカデミー賞とか | トップページ | 映画「プラハ!」 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「花を運ぶ妹」池澤夏樹:

« 映画「The Little Matchgirl」とかアカデミー賞とか | トップページ | 映画「プラハ!」 »