「レインレイン・ボウ」 加納朋子
「レインレイン・ボウ」 加納朋子 集英社文庫
購入したのは3ヶ月くらい前なのに、しばらく積読状態になっていた1冊。読んでみて、やっぱり加納作品は素晴らしい!と思わせる1冊でした。
高校時代、弱小ソフトボール部でともに青春時代をすごした9人の部員。それから7年が経過し、部員達はそれぞれが自分の人生を歩み始めていたある日、当時のメンバーの1人が亡くなったという知らせが入る・・・。という物語。
本は連作短編集の形をとって、それぞれの部員を主人公にした7つの短編を収録。1つ1つ独立した短編として成立しているとともに、全編を通して、亡くなった部員と、彼女の親友だった部員の物語が徐々に浮き彫りに成り、最終的には9人の部員の物語がつむぎだされると言う、加納朋子の魔法のような素晴らしい「短編小説の形をした長編」の魅力がたっぷりとつまった1冊です。この構成力は僕が彼女の最高傑作だと思う「七つの子」を思わせるほどの久々の快挙。かなりオススメです。
では七つの短編それぞれの紹介も。
「サマー・オレンジ・ピール」
主人公は結婚して主婦となった美久。ある日舞い込んだ高校時代の部活のチームメイトの死の知らせを聞いて駆けつけた通夜の席で泣き出した彼女の涙の理由とは?第1話目として、登場人物紹介を兼ねた作品。
「スカーレット・ルージュ」
出版社に務める陽子が主人公。昔からそのきつい性格のため、良い印象を持たれずに過ごしてきた彼女が仕事で作家と会うことになって・・・。登場する作家のキャラクタは結構好きですね。
「ひよこ色の天使」
保母をしている佳寿美が主人公。受け持ちの父子家庭に育つ少年との交流を描く。この話、結構好きでした。ちょっと読める展開ではあったけれど、雰囲気が好き。
「緑の森の夜啼き鳥」
看護士として働く緑が主人公。人前では涙を見せずに気丈に働く彼女が病院の屋上で入院中の大学生と出会う。
「紫の雲路」
大学卒業後、プー太朗生活を送っているゆり。姉の結婚式の2次会で謎の男性に声をかけられて・・・。このあたりから、全編を通して描かれる亡くなった部員の物語もクライマックスに近づく。「紫の雲路」って言葉が印象的。
「雨上がりの藍の空」
管理栄養士として社員食堂に配属された由美子の物語。ちょっと変わり者の彼女が、次々と栄養士が辞めていく社員食堂を変えていく。いかにも加納作品的な食堂で働くオバサマたちが非常に魅力的な1作です。7つの中では一番好きかなぁ。
「青い空と小鳥」
部活ではキャプテンとして活躍し、現在はOLをしている陶子が、亡くなったチームメイトとそれ以来姿を見せない彼女の親友の物語を辿っていく。最終話ということで、あっと驚く勢いで「短編集」が「長編」へと姿を変えていくのが心地よい1作です。
9人の部員が全員特徴的なキャラクタで、それを非常に上手く生かしていて、とても面白かったです。7つの短編が虹の七色をモチーフにしているのも良いですねー。
高校の部活、自分も一時期全部員が8人で活動していたときがあって、こういう少人数で一緒に部活で頑張った仲間の関係にちょっと親近感を覚えたりもしました。
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