「壜の中の手記」 ジェラルド・カーシュ
「壜の中の手記」 ジェラルド・カーシュ 角川文庫
奇想天外な物語がつまった20世紀前半に活躍したイギリスの作家による短編集。映画化されたわけでもないのに角川文庫さんからこういう作品が出版されるとはちょっと意外な感じもします。今後もこの路線でよろしくお願いします!!
収録されてる作品はとにかくどれもこれも、不可思議な物語で、その多くが、誰かが残した手記とか、伝え聞いた話という設定で、さらには、南海の孤島とか、ジャングルの奥地とかが舞台となっていて、「伝奇物語」の王道を行くものばかり。総じてレベルが高くて、かなり楽しめました。
雰囲気としては、昨年読んだ「隠し部屋を査察して」なんかに似た感じですが、こちらのほうが、より「雰囲気」のある伝統的な幻想伝奇物語の香りが漂っている印象です。とにかく「語り」が良いのです。小さな頃に誰かが語る不思議な物語を一生懸命に聞いて、ハラハラドキドキしていた気分を思い出させてくれるような短編集。
以下、面白かった作品にコメントなど。
「豚の島の女王」
無人島に流れ着いたサーカスの小人と巨人と両手両足のない女性。果たして彼らの運命とは?という物語。この本の最初に収録されてる作品ですが、いきなり、インパクトのある作品。ラストの余韻がかなり強烈です。胸がえぐられる感じ。
「骨のない人間」
行方不明になった博士の失踪の原因とは?
ニヤリとさせるラストが気持ち良い!
「ブライトンの怪物」
18世紀イギリスに現れた怪物の正体が20世紀になりついに明かされる!
その想像力がすごい!まさに20世紀ならではの伝奇物語。
「時計収集家の王」
有名な時計収集家であったニコラス王の人生に隠された衝撃のからくりとは。
「人形」てのはこの手の短編ではもはや使い古されたテーマだけれど、それでもこれほどまでに読ませるあたりに、この作者の「語り」の上手さが凝縮されてると思います。
「死こそわが同士」
戦争が繰り返される世界で、出世していく武器のセールスマンの衝撃の運命。
これも「20世紀」という時代を非常に上手く利用した短編作品。後の時代からではなく、同時代に生きていて、その時代の重要なテーマを非常に上手く作品に取り込んでいるのが本当にスゴイなぁと思います。
これ以外の作品も、総じてレベルが高く、面白い1冊でした。
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