「ショートカット」柴崎友香
「ショートカット」 柴崎友香 河出文庫
デビュー作「きょうのできごと」がたまらなく好きで、その後の作品もずっと追いかけている作家さんです。前回の芥川賞では候補にもなって、世間での評価も上々みたいで嬉しい限り。
「遠距離恋愛」をテーマに、20代の女性達を主人公にした4作品を収録した連作短編集。共通の登場人物として「なかちゃん」という人が出てくるのだけれど、特に彼は主人公というわけではありません。いつもの柴崎作品と同様に関西が舞台になっていて、関西弁で描かれる会話がなんとなく心地よい作品です。
以下、各作品ごとに簡単に感想を。
「ショートカット」
表題作。友達に誘われていった合コンで、自分はワープして東京に行ったんだ!という話をひたすらする男につかまってしまった主人公の話。普通に良かったです。「ワープ」っていう考え方がなんだかとても気に入りました。作品の途中にある1行分の「間」がこんなに上手く活用された作品はほとんどお目にかかれないのでは?
「やさしさ」
遠距離恋愛してる恋人がいる主人公が、ちょっとタイプの友人の店で働く年下の青年に家まで送られて一緒歩く1時間の散歩を描く作品。これが一番好きでした!2人が散歩するだけの話なんだけれど、描写に無駄がなくて、会話の調子や行間からあふれんばかりの様々な感情が伝わってきて、「やさしさ」というタイトルもとても効果的で、本当に淡々としているのに、なんだかとても深い何かが感じられるような作品でした。
「パーティー」
写真のモデルになってほしいと頼まれて友人と二人で海辺にやってきた主人公の話。これは最後の余韻が良かったね。でも、4作品の中では一番印象が薄いです。
「ポラロイド」
写真家をしている主人公が東京にやってきて、仕事関係の人と話したり、友人の弟と話したりして地元関西に戻っていく話。「ショートカット」で描かれる「ワープ」がとてもよい感じで生かされるなぁと思いました。あと、この作品だけ、舞台が東京で、新宿~四ツ谷という割となじみの深い場所がメインで描かれていて、その部分を読んだときの、情景描写のリアルさが素晴らしくて、他の柴崎作品も関西に住んでいる人だったら、全てがこんな風に楽しめるのかなぁと思うと、ちょっと悔しい感じがします。
正直、「きょうのできごと」以降の作品は、どれもいまいちパンチに欠けているような印象があったんですけど、この短編集はかなり良かったです。さりげなく書いている感じなのに、無駄がない感じ。一つ一つの会話がとても印象深くて、全体の空気が好きな短編集でした。
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