「ブラフマンの埋葬」 小川洋子
「ブラフマンの埋葬」 小川洋子 講談社文庫
単行本のときから気になってた作品が文庫化したので読んでみました。小川作品は題材が好きなのが多いんだけど、最終的にちょっと物足りないなぁと感じてしまうことが多いので、今回もちょっとドキドキ。
ある夏のはじめの日、主人公は一匹の生物と出会い、ブラフマンという名をつけて、飼いはじめるようになる。主人公は「創作者の家」という様々なジャンルの芸術家達が集うレンタルのアトリエの管理人をしており、物語は主人公の芸術家達やブラフマンとの夏の日々を淡々と描いていく。
ブラフマンはサンスクリットで「謎」ということですが、物語そのものもとっても「謎」でした。良くも悪くも。
ブラフマンという生物の容姿や特徴は色々と描写されているんだけれど、仔犬かと思いきや水かきがあったりして、その名のとおりに、一体何なのかが全くもって「謎」。しかし、それが、読者の想像力を非常にかきたててくれて、あれやこれやと想像しながら読むことができるのがとても楽しい作品でした。まさに小説ならではの楽しみ。
で、「謎」なのはブラフマンだけではなくて、主人公をはじめとする登場人物の具体的なプロフィール(名前でさえも)や場所の設定なんかも全体的にほとんど説明しないで、その瞬間その瞬間のできごとをホンワカと淡々とつむいでいく作品で、とても雰囲気はいいんだけれど、なんとなくつかみどころのない感じのある作品でもありました。
あと、ラストの展開があまりに唐突すぎて、しかも、あまりにあっさりと描かれていて、何が伝えたかったのとか、そうする必要はあったのかとかよく分からないまま終わってしまって、取り残されてしまったようなぽっかりと心に穴が空いたようなそんな印象で終わってしまう作品で、なんともいえない微妙な気分になりました。好き嫌いの分かれそうな作品です。
不思議な生物との同居といえば、川上弘美の「神様」の中に入ってる作品がとても好きで、なんとなくそれを思い出させるような作品でもありました。個人的には川上作品のほうが好きかなぁ。
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