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2007年4月15日 (日)

映画「王と鳥」

Le Roi et L'Oiseau 1980年 フランス

昨年、「ゲド戦記」が公開されていたのと同時期に、ジブリが配給して公開された作品。当時、「ゲド」よりもこちらのほうが見たい!!と思っていて、今回、無事DVD化されたので、早速見てました。

舞台は砂漠の真ん中に建つ巨大な城。国民から嫌われている国王シャルル5+3+8=16世は、少しでも気に食わないことをされれば、手元のスイッチを押し、次々と人々を処刑していくような人物。ある日、肖像画を描いてもらった王様はその絵を寝室に飾り、眠りに入る。その夜、肖像画の中の王様は、前の壁に飾られた絵の中の羊飼いの娘に恋をする。しかし、娘は、隣に飾られた絵の中の煙突掃除の少年と相思相愛の中。そして、2人はついに、自由を求めて城の外へ飛び出そうと、絵の中から抜け出してしまう。一方、嫉妬に狂った肖像画の中の王様も、絵の中から抜け出し、本物の王様と入れ替わり、逃げ出した2人を指名手配する。愛しあう2人は、城に住む鳥の助けを借りながら、様々な罠が仕掛けられた城の中を逃げていくのだが・・・。という物語。

アンデルセンの童話をベースに、1950年代に製作されたものの、意に沿わない形で公開された「やぶにらみの暴君」を、監督自らが、変更と修正を加えて1979年に完成させた作品で、物語は詩人ジャック・プレヴェールの詩と美しい音楽にのせて展開されていきます。今回、宮崎氏と高畑氏に多大なる影響を与えた作品として、ジブリさんが配給し公開、そしてDVD化されたものです。

本当に素晴らしい作品でした♪「カリオストロ」も「ラピュタ」もはっきりと、この作品がベースにあるんだなぁというのが手に取るように感じられます。見ていて、「あ、この場面見たことある!」というのがチラホラ。ロボットとか。空とか。逃げる2人とか。そもそもの構図とか。

ていうか、クオリティ高すぎ。

もう、設定からして、素晴らしいです。王様が暮らす城のやたらとメカニカルな仕掛けの数々は見ているだけで楽しいし、それでいて、全体的にシュールレアリスム系の絵画調のタッチで描かれたオシャレで、ユーモアたっぷりのなまさにフランス風の世界観が良い感じです。お城の造詣だけで、満足度が高いのに、90分間(ちょっと中だるみあるけど)、しっかりと楽しませてくれるストーリーも良かったです。

鳥かごとお城が比喩されたかのようなラストもとても良い余韻があって、色々と考えさせられる作品でもありました。様々な場面に結構、強い風刺や思想が散りばめられているように思います。この王様、実はニセモノだもんね。孤独で孤独で淋しくて、しまいには、物語冒頭からのっとられてしまった王様がちょっとかわいそうだなぁなんて思います。

(以下、ちょっとネタバレなので反転させてどうぞ)

最後、全てが廃墟になるというラストはとても皮肉的。自由を求めて逃げ出した2人だけど、世の中、完全な自由は結局、無秩序しか生み出さず、何も残さないのだと思います。あくまで何かの枠組みの中でしか我々は自由を謳歌することはできない。結局、王様の独裁国家も完全な自由もそんなに変わらない。逃げ出した2人は果たして、幸せになれたのだろうか。なんてふと思ってしまいました。やっぱり何事もほどほどが一番ですよね。

原作になってるアンデルセンの童話、小さい頃絵本で持ってました。2体の人形が恋に落ちるけど、ビックリ箱みたいなばねがついた大きな顔の人形がそれに嫉妬するような話。もはや原作とは全く違ったオリジナル作品といっても過言ではない内容ですが、長らく忘れていたその絵本のことを思い出してちょっと懐かしくなりました。

さらに個人的に気に入ったのは、音楽!とりわけアンニュイな雰囲気漂うピアノ曲の繊細な美しさが・・・。サントラ欲しいなぁ。映像との絶妙のコラボも良いですねぇ。そもそものストーリーのなかで音楽が重要な役割で使われてたし。

あと、小鳥が可愛かった!

「ディズニー作品とはまた違った・・・」という感じで紹介されているものをよく見かけるんですが、例えば、未完に終わって先ごろ遺志を引き継いでようやく完成されたディズニーの短編「デスティーノ」なんかを見ると、そこまでディズニーとかけ離れた世界観でもないような気もしました。とにかく、1950年代くらいには、既に世界中に素晴らしいアニメ作家がいたということです。そう思うと、現代の作品って、この時代のものに匹敵するほどのものが極端にないような気がします。変に客に媚を売った娯楽性の高いものや、とにかくCGの美しさで攻めるものが多くて、まぁ、その中にも、非常に面白い作品はたくさんあるんですけど、こういう文学的な気品を漂わせる作品ってあまりないですよねぇ。

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