「家なき鳥」 グロリア・ウィーラン
家なき鳥 グロリア・ウィーラン Gloria Whelan 白水uブックス 2007.4. |
以前は同時に3冊発売なんてこともあったのに、最近は月に1冊でるかどうかという状況のuブックスの海外小説シリーズですが、やっぱり面白い作品が多いなぁというのを改めて実感できる1冊です。
舞台はインド。主人公コリーはキルトの刺繍が得意な13歳の少女。彼女は家が貧しいこともあり、13歳にして顔も知らぬ少年のもとに嫁ぐことになる。しかし、夫となった16歳のハリは難病を患っており余命いくばくもない状態。一家は花嫁の持参金を治療費にあてるためにハリを結婚させたのであり、お金さえ手に入ればコリーにはもう用はないも同然。そして、ハリは間もなく亡くなり、コリーは未亡人となってしまう。義妹や義父はそんなコリーに優しく接するが、義母からの厳しい仕打ちが続き、そんな中、次々と不幸な出来事がコリーの身に降りそそいで・・・という物語。
上記のあらすじを読むと、なんだかとても悲劇の物語なんですが、意外にも暗い雰囲気はなく、読後感も非常にすがすがしい1冊でした。
この物語、次々と訪れる不幸な出来事が衝撃的なので、ページをめくる手もどんどん進んでしまうのですが、どんなに苦しい状況にあっても常にどこかに救いがあるので、読んでいて暗い気分になりません。そして、主人公が決して自分の運命に屈することなく、前向きに人生を切り拓いていく姿がとてもすがすがしかったです。
タイトルになっている「家なき鳥」は作中に出てくるタゴールの詩からとられたものなんですが、文字を読むことができるというのはそれだけで、計り知れないほどの財産なんだということが感じられる物語で、日本で平和ボケかつ一定の生活水準ボケしている自分にとって、普段忘れがちなことをあれこれと考えさせられる1冊でもありました。彼女がたどりつく幸せも我々の生活水準から見ればずっとずっと貧しい暮らしではあるものの、そこには確実に、自分が手にいれられない幸せも存在しているように感じました。
主人公が刺繍が得意という設定で、作中に彼女の製作するキルトの描写がいくつも出てくるのですが、それらの1つ1つがまた素晴らしくて、作品に華を添えていました。
かなりオススメの1冊です!
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