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2007年5月26日 (土)

映画「みえない雲」

みえない雲

Die Wolke

2006年

ドイツ

どうも、最近すっかりドイツ映画ファンのANDREです。昨年末頃公開されていて、映画館で見たいなぁと思っているうちに公開が終わってしまった作品が、DVD化したということで、早速見てみました。

主人公は高校3年生の少女ハンナ。小学生の弟と母と3人で暮らす彼女はごく普通の女子高生。最近、どうやら転校生の少年エルマーが自分のことを気にしている様子だったのだが、ある日、エルマーに呼び出されて行ってみると、突然の告白、そしてキス。しかし、その瞬間、突如けたたましい警報があたりに鳴り響く。近郊にある原子力発電所で事故が発生、大量の放射能が漏れ出したのだ。一気にパニックに陥った町の中、ハンナはエルマーと合流する約束をし、自宅へと戻った。次々と車に乗って近所の人々が逃げ出す中、原発のあるすぐ近くの町に出張で出かけた母からの連絡を待ち、家で待機するハンナ。やがて、彼女は弟を連れて自転車で逃げるのだが・・・。という物語。

このように書くと、原発事故を描くパニック映画なんですが、この作品のポイントは、こういう題材を扱いながらも、徹底して「青春映画」であること。物語後半は、原発事故後の主人公達が描かれ、事故によって訪れた様々な悲劇に直面しながら、力強く、愛をはぐくむ若い恋人達の姿が描かれます。

原作は、チェルノブイリの事故の翌年に出版され、ベストセラーになった小説ということで、予想をはるかに越えて、衝撃の多い作品で、本当に色々なことを考えさせられました。こういう映画ながら、ラストの余韻がとても爽やかだったのが非常に嬉しいですね。

まずは序盤の原発事故の発生でパニックに陥る町を描く場面が、かなりリアルで、最初の1時間はあっという間でした。ハリウッドの大作のように、やたらとエンターテイメントを意識して盛り上げるのではなくて、本当に淡々と主人公や人々を描いていくんですけど、それがかえってとてつもない恐怖を観ている側にも伝えている感じでした。ただ単に風が吹くだけの場面、ただ雨が降るだけの場面がこんなに怖いなんて・・・。という感じです。あとは、なんといっても、これが宇宙人襲来などと違って、本当にどこかで起きるかもしれない事故であることも、観ている側の緊張感を高めています。

この場面、とにかく、「あのときもし○○していたら」と後で思わせるような出来事が連続するんですけど、実際に、こういう場面に直面したとき、果たして、自分は正しい判断をすぐに下すことができるのだろうかと思うと、そんな自信はないので、映画としてみている分には主人公の判断ミスの多さにヤキモキさせられるんですが、そんなところもとてもリアルな作品なのだと思います。

さらに、この場面の終盤、この映画の中でも一番といっていいほどの衝撃の場面があって、そこはさすがにやりすぎだろと思ってしまったのですが、その場面でも、「人間」の描き方がとても秀逸で、とても見ごたえのある場面でした。ただし、このシーンに関してはトラウマになりそうな勢いでショックが大きかったですが・・・。観るのやめようかと思ったくらいにショックが大きかったですよ。

一転、後半は被爆後の世界が描かれるわけですが、命からがら逃げ延びたと思っていても、本当の試練はその後にジワジワとやってくるのが原発事故の恐怖なんだなぁというのを強く実感させられました。そんな内容であるにもかかわらず、突如として「青春純愛映画」カラーがググッと強くなるので、シリアスな内容とうまくバランスを取っていて、観ていている側の心の負担をかなり軽減していたと思います。そんな色々な表情のあるこの作品、主人公を演じる少女が非常に上手く演じていて、爽やかな場面、パニックの場面、悲しい場面とどこも非常に見ごたえがありました。

後半で印象に残ったのは短い場面なんだけど、主人公が親友と再会する場面。多くを語らない淡々とした場面でしたが、それでも十分すぎるくらいにこちらに伝わるものがありました。

ところで、後半になってから、急に暗転する場面が増えて、一つ一つの場面がこまぎれっぽくなってしまってたんですよね。冒頭から中盤にかけての、爽やかな学園生活→事故によってパニックに落ちる町という流れるような素晴らしい展開が急にもたついてしまっているような印象があって、後半はちょっとなぁという部分も多かったかなぁと思いましたが・・・。

ラスト近く、前半と対照的に描かれる雨の場面と風の場面があるんですけど、同じ自然現象でありながら、ここまで印象が変わるのかと思ってしまいました。それだけ、前半場面の緊張感ある演出が秀逸で、後半場面の爽やか演出が秀逸なんだろうなぁと。

ドイツは、学校での教育が進んでいるのか、人々の意識が強いのか分かりませんが、事故にあった直後、チャラい感じの遊び人集団の高校生たちでさえ、割と正確な原発の知識を持っていることにとても驚きました(実際はどうか分かりませんが)。我々、日本人、原発事故が起こりましたとアナウンスされて、じゃぁどうすればいいのか、果たして、どんな危険があるのかなんてさっぱり分からない人がほとんどじゃないでしょうか。うん、なんか、怖いなぁ。

身近な電力の供給源として日本でもたくさんの原発が使われていますが、いろいろなことを考えさせられる映画だったと思います。良い面、悪い面、合わせて、決して他人事ではないこの問題をもっともっと知るべきなんだなぁと思いました。そんな映画なのに、教育的でもないし、メッセージがおしつけがましいわけでもないし、爽やか青春映画になっているところがやはりこの映画の魅力なのだと思います。

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