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2007年6月 9日 (土)

「逃げてゆく愛」 ベルハルト・シュリンク

逃げてゆく愛

逃げてゆく愛
(Liebesfluchten)

ベルハルト・シュリンク Bernhard Schlink
松永美穂 訳

新潮文庫 2007.2.

傑作「朗読者」のベルハルト・シュリンクの第2作目です。今回は短編集ということで、表題作があるわけではなくて、全てが、「逃げてゆく愛」をテーマにした7作品を収録。

いつもはここで、ストーリー紹介するところだけど、短編集なので、内容紹介や詳しい感想は後回し。

「朗読者」と同様に、ドイツの「戦後」を描く作品が多くて、戦時中にあれだけのインパクトを全世界に与えた代償が未だドイツ社会に深く存在しているんだなぁというのを実感させられる作品集でした。まさにドイツだから生まれた作品だと思います。まぁ、そんなのとは関係ない、ライトなドロドロ恋愛の短編も含まれているので、全体に色々なタイプの作品が味わえてなかなか面白い1冊です。

あと、全体的に淡々としているというか、劇的な展開があるわけでもなくて、主人公の内面との対話、葛藤なんかが丁寧に描かれていて、静かながらも、力強い作品集だという印象です。

では面白かった作品をいくつか。

「もう一人の男」
妻の死後、かつて妻が浮気をしていたらしい男から妻に宛てた手紙が届くという物語。自分の知らない妻の姿を知っているその男のことが気になり、主人公は彼にささやかな復讐を企てるのだが・・・。

この妻、浮気をしたのはどうかと思うんだけれど、これほどまでに2人から愛されたというのは、それだけ魅力のある女性だったんだろうね。故人を前にして、人は何もできないよね。

「脱線」
東西ドイツ統一に翻弄された1人の男の物語。

ニュースの映像や世界史の授業で、なんとなく「歴史の一幕」として遠い世界のできごとだと思っていたドイツの統一だけれど、確実に、自分と同じ時代を生きる人々が体験した事件なんだというのを改めて実感させられる物語。

「少女とトカゲ」
父の書斎に置いてあった少女とトカゲを描いた1枚の絵に魅せられた主人公がその絵に秘められえた謎を追う物語。

ラストとか、読めてしまって、物語そのものには意外性とかないんだけど、この作品もまた、2次大戦のドイツがからまってきて、なかなか深い作品になってて面白かったです。

「割礼」
アメリカのユダヤ人の女性とドイツ人の青年の恋物語。収録7作の中では傑出して深く、そして、面白い作品だったと思います。

戦後の世代である主人公たちだけれど、それでもなお残る、2次大戦の傷跡。偏見とは、自分とは違う宗教や文化を前にしてそれをどう受け止められるか、そして、自らの国の歴史を背負って生きているんだということに人は気づいているのか。自分にとってはものすごいインパクトのある作品でした。

人が2人いれば、違う部分なんか山ほどあるのは当然で、みんなそれを乗越えて、恋をして結婚をするんだけれど、その違いをどこまでお互いに認識しているのかということを深く深く考えさせられる物語です。そして、どんなに違っていても、それでも求め合ってしまうのが人間なんだなぁというのを感じさせてくれる作品。

「ガソリンスタンドの女」
いつも夢に出てくるガソリンスタンドとそこにいる女性。すっかり関係が冷めてしまっている妻とともに旅に出た主人公は・・・。

最後の余韻が・・・。

というわけで、感想を載せなかった作品も読み応えがあるものばかりで、総じてレベルの高い短編集でした。表題作があるんじゃなくて一つのテーマのもとにまとめられているってのも、近頃ではなかなか珍しい気がします。

あと、全ての作品に通じていえるのは、女性のほうが強いということでしょうか・・・。男は考えて考えて考えて・・・という感じですよね。

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