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2007年6月20日 (水)

映画「時をかける少女」

時をかける少女 通常版

時をかける少女

2006年

日本

非常に良い評判を耳にするアニメ映画。原作はいわずと知れた筒井康隆の小説です。もっともっとみんなが見てもおかしくないと思うくらいに、素晴らしい作品でしたよ。

主人公の真琴は高校生の少女で同級生の少年、千昭と功介と3人でいつもつるんで遊んでいた。ある日のこと、真琴はなんだかついていないことばかり。抜き打ちテストがあったり、調理実習で大失敗したり、理科実験室で転んでしまったり。そして挙句の果てに、踏み切りにて電車と衝突事故に・・・。ところが、その瞬間、彼女は不思議な体験をする。事故が起こる数分前にタイムスリップしてしまったのだ。それを機に、時間を遡る能力を手に入れた真琴は、やりたい放題、自由に時間を遡りまくる。そんな折、いつまでも変わらないと思っていた千昭や功介との関係にも変化が訪れて・・・。淡く眩しい高校生たちの夏を見事なまでに切り取った傑作青春映画。

アニメ映画とあなどるなかれ、青春映画としては稀にみる傑作です。そして、実は原作「時をかける少女」の映画化ではなく、原作の世界の20年後が舞台となった続編的位置づけ。角川作品であることを考えると、大林監督の原田版トキカケの20年後という設定の割と正統な続編といったところでしょうか。どの辺が続編ってのは見れば分かります。原作からのサービスカットもありますし。

この映画、とにかく、爽やかな青春ものなんですが、恐らく、高校生が見るよりも、大人が見たほうが、「時をかける」という題材や、一瞬の高校2年生の夏という舞台がたまらない感動といとおしさをもたらしてくれること間違いなしだと思います。

「時をかける少女」といえば、自分世代だと、内田有紀主演のドラマ版がストライクゾーンなんですが、原田版の映画も見たことあるし、原作も読んだことあるので、今回のアニメ版ではどのようにアレンジされているのかが結構気になっていました。

上にもあげたように「続編」的内容になっているんですが、小さなエピソードは違っても、物語の大枠は原作のままなんですよね。そして、一番原作と違っているのはなんといっても主人公の性格。原作や過去の作品にみられた割と受動的な少女ではなく、今回の主人公は、元気がとりえの現代っ子。時間を越えるのも、ラベンダーの香りに包まれてほわ~んって感じではなく、勢いよく元気にジャンプ!なのが見ていてとてもすがすがしいです。

あと、過去に戻れることを知った途端に能力を無駄遣いしまくるところのくだらなさは、「サマータイムマシーンブルース」を彷彿とさせて、若気の至りというかなんというか、いかにも学生のノリでこういうの好きです。こういうのも主人公の設定変更がとてもよく生かされた場面だよね。

で、この主人公の元気の良さが「夏」という舞台に非常に映えている。スカっとした夏の爽やかさにぴったり。そして、さらに、それと同時に、もう二度と帰ってこない学生時代の夏を知っている大人だからこそ感じる、「夏」の持つノスタルジックな雰囲気が画面からあふれんばかりに伝わってくるのもこの映画の良いところ。誰もいない校舎、夕暮れの町並み、そして、友人と過ごすかけがえのない時間。徹底して、「夏」の持つ美しさを見事に描かいてます。

別に実写でやっても良い内容ではあるものの、この「夏」の感じは恐らくアニメだからこそ再現できた風景なのだろうと思います。心の中にある原風景的な夏の映像は、「心の中にある」映像というだけあって、やはりある程度、現実離れしたファンタジーな風景なわけで、そんな理想的な夏を実写で再現するのはかなりの神業だろうと。まぁ、世の中にはそれをやってのける名作実写映画も存在するけれど・・・。あとは、この作品の躍動感はやはりアニメーションならではだろうね。アニメであることに必然性が感じられたのもこの映画の良い点だと思います。

「時間は待ってくれない」、だからこそ、一瞬一瞬を大切にして生きていたいという当たり前のことをタイムリープという一見それとは矛盾する能力で描くこの作品。原作では、ここまでそういったテーマが前面に出ることはなくて、どちらかというと、雰囲気重視のSFジュブナイルだったように思うので、今回の映画化はそういう点でもよくできてるなぁと感じました。

ですが・・・。えっとえっと、基本的な「タイムリープ」の設定が原作よりもおろそかになってますよね。色々と説明不足だし、つじつまあってないとこあるし。ていうか、原作を彷彿とさせるサービスシーンがあるんだけれど、この場面の存在は原作のラストを完全に無視しているような気が・・・。

というSF部分に関してはつっこみどころもあるんですが、この映画の魅力は、なんといっても、「高校時代の夏」にあるわけで、そんな部分もそれほど気にならないくらいに、とても気持ちよく鑑賞できる作品だったので、大満足です。

<6月30日追記>

角川書店から出ているこの映画をベースにしたコミック版を読みました。そしたら、映画では描かれてなかった過去の物語がちょっとだけ掲載されていて、上記の感想で書いた、「原作のラストを完全に無視」をしっかりと説明している内容になっていました。なるほど、そう考えると、ますます夢がありますねぇ。でも、やっぱりタイムリープの設定に弱冠の違和感が残るのは変わらないね・・・。

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