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2007年6月30日 (土)

「Travels in the Scriptorium」 Paul Auster

Travels in the Scriptorium

Travels in the Scriptorium

Paul Auster

Holtzbrinck Publishers (paperback) 2007.5.

ポール・オースターの最新作のペーパーバック版が先日発売になったので早速読んでみました。オースターは邦訳ペースがゆっくりしているので、新作が待ちきれずに基本原書で読んでいます。

ちなみに、今年は、近年のオースター作品の中では抜群に面白かった「Book of illusion」の邦訳も予定されているようだし、「Book of ~」の中の作中映画が実際に映画化されるみたいだし、ますます活気付いてる印象ですね。

では物語のあらすじを。

主人公はある年老いた男。彼は記憶がなく、気づいたら小さな部屋の中にいて、そこには、彼の様子を毎秒撮影する監視カメラがセットしてあり、部屋には「壁」やら「机」やらそこら中にそのモノの名前が書かれたテープが貼られていた。やがて、とりあえず、「Mr.Blank」と名づけられた彼のもとに、医者やら彼の世話をするという女性やらが出たり入ったり。そして、その間にBlank氏は部屋の机の上に置かれていた紙に書かれた物語を読み始めるのだが・・・。という物語。最初から最後まで小さな1室でのみ展開するという不思議な作品です。

最後まで読んだ感想は、「オースター・ファンブック」。これに尽きます。これでもかといわんばかりに過去の作品を連想させる人やら物やらが次々に登場する話なんです。そうなると、過去の作品を知らない人は読んでも面白くないのではないかという気もするんですが、そこは流石のオースター。こんな物語なのに、悔しいくらいに面白い。

正直、内容はあってないような感じで、全体を包む雰囲気としては初期のNY3部作に近いモノクロームな映画を見ているような淡々とした空気で、一向に先に進まないヤキモキストーリーの中で、自分を探す主人公の姿は初期作品が好きなものとしては、なかなか嬉しいものでした。

あと、今回は、小説とは、物語とは、読者とは、作家とはということを考えさせるような場面もあって、アプローチは違うものの、カルヴィーノ作品のような雰囲気も味わえました。

面白かったのは、この小説、主人公自身のバックグラウンドは記憶がないということでほとんど見えないし、他の登場人物が現れても、どうもつかみ所のない物語なのにも関わらず、一方で、物語が始まってからの主人公の行動が本当に詳細に記述されるてるんです。もやもやとした掴み所のなさとこの過剰なまでに詳細な行動の記述のアンバランスさによって、つかみどころの無さがより一層引き立てられていたように感じました。面白い。

そうそう、近年のオースターの特徴とも言える作中作が今回も登場するんですけど、これがまた、近年のオースター作品の例に違わず、やたらと面白い。この人の書く作中作は何故だか知らないけれどいつもやたらめったら面白いんだよね。いつものことながら、これはこれでかなりの才能だと思います。

と、とりとめのない感じになってきましたが、とりあえず、これを読むと過去の作品を読み返したくなる、そんな1冊だったので、機会があったら久しぶりに他の作品も読み返してみようかなぁと思います。

これ、邦訳出るの、大分先なんだろうな・・・。

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

僕の、オースターランキング。

1位 、ミスター・ヴァーティゴ(Mr Vertigo 1994)
2位、 リヴァイアサン(Leviathan 1992)
3位、幽霊たち(Ghosts 1986)
4位、最後の物たちの国で(In The Country of Last Things
5位、鍵のかかった部屋(The Locked Room 1987)
6位、偶然の音楽(The Music of Chance 1990)
7位、ムーン・パレス(Moon Palace 1989)
8位、ティンブクトゥ(Timbuktu 1999)
9位、シティ・オブ・グラス(City of Glass 1985)

ホントにかなり迷ったので、3位位までしか参考にならないかな・

投稿: Mr Vertigo | 2007年7月20日 (金) 18時40分

> Mr Vertigoさん

コメントどうもありがとうございます。

オースターはどれも面白いので迷いますよね。
自分は以下のような感じかなぁ。

1位 幽霊たち
2位 偶然の音楽
3位 the book of illusion
4位 oracle night
5位 最後の物たちの国で


投稿: ANDRE | 2007年7月22日 (日) 00時31分

『幽霊たちの好きなところは、どこですか?

僕は、ホイットマンの脳みその話とか、ソローのウォールデンを読むところ、過去を逃れての映画の場面とか

偶然の音楽は、淋しくて気が狂いそうっていうところとか、
ラストのナッシュが描く思いが大好きです。

投稿: Mr Vertigo | 2007年7月25日 (水) 16時05分

>Mr. Vertigoさん

返事が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
再度のコメントどうもありがとうございます♪

『幽霊たち』の中に出てくる、
私達の周りは幽霊であふれている
という考え方に非常に共感したんですよね。

あとはモノクロームの世界を色の名前の人物たちが
動き回るという発想もかなり好きです。

短い中に初期オースターの魅力が詰まってる作品だと思います。

『偶然の音楽』は圧倒的な転がっていく感が好きですね。
そして、フランス的不条理を感じる石積み作業の場面など
読みごたえがある作品だと思います。


投稿: ANDRE | 2007年7月27日 (金) 01時11分

モノクロームの世界を色の名前の人物たちが
動き回るという発想もかなり好きです。


そんな、発想もあるなんて、すごいですねー。

気づきませんでした。


さすがです。

投稿: Mr Vertigo | 2007年7月30日 (月) 18時54分

NYというと、様々な人種が暮らし、
ブロードウェーなどの華やかなイメージもありますが、
この作品で描かれるNYの街は
とても無機質でモノクロな印象が強いんですよね。
風景も夜だったり雪だったり。

投稿: ANDRE | 2007年7月31日 (火) 12時42分

九月発売の「COYOTE」という雑誌

(http://www.coyoteclub.net/)に、
ポール・オースター『硝子の街』

(ニューヨーク三部作の一作目)
全300枚が柴田訳で一挙掲載されるらしい。


ちなみに権利の関係で単行本化の予定はないそうなので、
絶対買いです。

投稿: Mr Vertigo | 2007年8月 1日 (水) 15時38分

もちろん、チェック済みです☆
唯一、柴田訳がなかった作品ですからねー。

投稿: ANDRE | 2007年8月 1日 (水) 19時05分

ちなみに何冊買いますか?

僕は3冊の予定

投稿: Mr Vertigo | 2007年8月16日 (木) 23時48分

3冊ですか!

自分は1冊だろうなぁ。
同じ本を複数冊買う習慣ないもので。

投稿: ANDRE | 2007年8月17日 (金) 00時18分

雑誌だと、後から、買えなくなりそうで・・・

リヴァイアサンで「新コロッサス」だっけなー何冊も持ってたっけなー

投稿: Mr Vertigo | 2007年8月17日 (金) 10時32分

今回の雑誌はファンの人は絶対買うだろうから
かなり売れそうですよね。

「新コロッサス」、サックスの作品ですねー。
ここで連想するあたり流石ですね!!

投稿: | 2007年8月18日 (土) 00時32分

「新コロッサス」のソローのコンパスの話が最高。

投稿: Mr Vertigo | 2007年8月19日 (日) 23時57分

さすが2位にあげているだけあって、
「リヴァイアサン」がお好きなんですねー。

投稿: ANDRE | 2007年8月21日 (火) 01時07分

『偶然の音楽』は、最後のハイドンかモーツァルトかの所も最高。

投稿: Mr Vertigo | 2007年8月27日 (月) 22時23分

お返事遅くなりました。

ラストのちょっと前ですね。
結構細かいところもおさえてますねー。

投稿: ANDRE | 2007年9月 1日 (土) 19時17分

僕は、タイトルからしても

メインだと思う。

投稿: Mr Vertigo | 2007年9月 5日 (水) 00時00分

『偶然の音楽』はタイトルどおりに
全般に音楽が上手く使われてましたね。

投稿: ANDRE | 2007年9月 8日 (土) 01時05分

COYOTE No.21

まだ、買ってません・・・・

なんか、インタビューが、つまんねー

幽霊たちは、黒人メジャーリーガー

のたったひとりで・・・・のところもいい

半分は、彼なんか死ねばいい

とかいうところ、からの流れもいい

投稿: Mr Vertigo | 2007年9月11日 (火) 04時28分

the book of illusion
  
は、

2月に訳が


出るらしい


まてない

投稿: Mr Vertigo | 2007年10月14日 (日) 01時08分

>Mr. Vertigoさん

2月までどうしても待てなければ、
オースターの英語はそれほど難しくないので、
その熱意で原書に挑戦されてみてはいかがでしょうか。
翻訳よりもずっと面白いですよ。

あと、申し訳ないのですが、
元記事に関係のない話題が続き、
チャットのようになってしまい、
他の読者の方から、読みづらいとの声も寄せられましたので、
これ以上のコメント・レスは控えさせていただきたいと思います。
ご了承ください。

投稿: ANDRE | 2007年10月16日 (火) 00時25分

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