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2007年7月

2007年7月31日 (火)

「恥辱」 クッツェー

恥辱 (ハヤカワepi文庫 ク 5-1)

恥辱
(disgrace)

J・M・クッツェー J・M・Coetzee

ハヤカワepi文庫 2007.7.

数年前にノーベル賞を受賞した南アフリカの作家の作品です。ノーベル賞のみならず、ブッカー賞というイギリスの文学賞(直木&芥川賞を足した様なもの)を史上初めて2度受賞したということで、かなり気になっていた作家なので、楽しみにして読んでみました。

ケープタウンの大学に勤務する52歳の中年教授デヴィッド・ラウリーが主人公。2度の離婚をし、1人で暮らす彼は、自分の授業に出席している1人の女学生に魅せられ、関係を持ってしまう。その後、学生から告発された彼は、教授職を失い、娘が暮らす田舎町へとやってくる。やがて、田舎の農場で近所の手伝いをしながら過ごす彼に新たな事件が襲い掛かる・・・。という物語。

最初は単なるセクハラ大学教授の話かと思って読んでいたのですが、それはほんの序章。中盤以降、アパルトヘイト撤廃後の南アフリカの現状を突きつけてくる展開になり、非常に深く読ませる1冊でした。ノーベル賞の看板に偽りなしですな。

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2007年7月29日 (日)

映画「灯台守の恋」

灯台守の恋

l'equipier

2004年

フランス

以前に劇場で公開されていて、気になっていた作品が近頃ようやくDVD化したので見てみました。見事なまでに、フランスフランスしたハリウッド映画には見られないテイストの作品でしたねー。

両親が亡くなり、ブルターニュ地方の小さな島にある実家を売りに出すことにしたカミーユ。買い手が決まった知らせを受け、島を訪れた彼女は、実家の郵便受けに入っていた手紙の中に1冊の本を見つける。表紙に描かれた灯台がかつて父が灯台守をしていた島の灯台とよく似ていることから興味を持ったカミーユはその本を読み始めるのだが・・・。

舞台は1963年。灯台守のリーダー的存在のイヴォンが妻や村人たちとともに、一緒に灯台守をしてきた義父の葬儀を終え集まっているところに、新たな灯台守の男がやってくる。新しく灯台守として派遣されたアントワーヌは、アルジェリアでの戦争で負傷した帰還兵。閉鎖的な小さな島の住人たちは、よそものに厳しく、アントワーヌもなかなか村人に受け入れてもらえなかったのだが、ともに灯台守でペアを組むことになったイヴォンは彼の人柄を認め、次第に心を開いていく。そんな中、アントワーヌは、美しいイヴォンの妻に心惹かれるようになって・・・。

と、書くと、単なる3角関係映画かよ!という感じなんですが、いや、実際、それ以上のストーリーはないんですけど、この映画、かなりの秀作だと思いました。見せ方が上手い!静かに淡々と見せていく心理描写、無駄のない小物使い、そして、迫力ある灯台のシーンと、見所の多い作品でした。

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2007年7月27日 (金)

ミュージカル来日公演「ヘアスプレー」

A

hairspray

来日公演@渋谷オーチャードホール

2007.7.26

先週、映画『ヘアスプレー』のレビュー(コチラ)を書きましたが、それはこの舞台を観にいくための予習でした。サントラも買ってたし、いつもながらばっちし予習して、渋谷に行ってきましたよー。今回は誰もがうらやむ(?)、目の前がオケピの指揮者位置という正真正銘の最前列ど真ん中席☆

ではいつも通りストーリー紹介から。

舞台は1962年のアメリカ、ボルチモア。主人公のトレイシーは踊るのが大好きな太った女子高生。彼女は友人のペニーと2人でテレビの素人参加型の人気ダンス番組に夢中だった。ある日、2人は番組のオーディションがあることを知り、会場へと出向くのだが、トレイシーは体型を理由にオーディション参加をプロデューサーに断られてしまう。ところがそんな折、学校で知り合った黒人の少年シーウィードから黒人たちの間で流行ってるダンスを伝授されたトレイシーは、そのダンスで注目を浴び、人気番組への参加が許可され、一躍大スターになり、彼女は皆の憧れの歌手志望のリンクとも良い関係に。

やがて、白人のダンス番組に黒人が出演することなど認められていない中、トレイシーは友人となった黒人たちと共に、皆が一緒に番組に出演できるように行動を起こすのだが・・・。

オリジナルの映画版とは細かい設定が違う部分も多かったのですが、全体的なストーリーも大分変更が加えられているなぁという印象です。社会的な側面がより端的に分かりやすくなり、ストーリーも全般にこじんまりとまとめたなぁという印象ですね。でも、映画版にあった妙なあくの強さがなくなっていて、誰でも楽しめるエンターテイメントになっていたように思います。

いや~、もうね、最前列ど真ん中の臨場感は何者にも変えられないですよ。だって、自分の視界に何もさえぎるものがなくて舞台なんだもん。多少微妙な点があっても、この臨場感と、あとは圧倒的なダンス&歌のノリの良さでカバーされて、大満足の舞台でした。ポップな60年代的なカラフル舞台は見ていて楽しい。

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2007年7月24日 (火)

映画「コルドロン」

コルドロン

the blck cauldron

1985年

アメリカ

極めてマイナーなディズニー作品です。日本ではTDLの「シンデレラ城ミステリツアー」のベースになった作品にも関わらず、このマイナーっぷり。以前からどんな作品なのか気になってました。

舞台はイギリス。主人公ターランは師匠ダルベンのもとで働きながら、いつか勇者として戦うことを夢みている。そんな折、ターランはダルベンの飼っている豚のヘン・ウェンに、魔法の力があり、悪の王ホーンド・キングがその力を利用し、伝説の釜コルドロンを探していることを知る。それを使うと、死者たちを不死身の兵士として蘇らせることができるのだ。師匠からヘン・ウェンを守るように言われたターランだが、そこにホーンド・キングの魔の手がのびて・・・。という物語。やがて、出会う勝気な姫や吟遊詩人、妖精たちとともに旅に出て、悪の野望を阻止するというRPG風ファンタジー。

うーん、人気がない理由はずばり、「暗い」、「怖い」、「不気味」だからでしょう。だってディズニーなのにアメリカではPG指定で子供に見せるときには注意しろといわれてるくらいですから。大量の骸骨が出てくるし、画面ひたすらどんよりした暗い色彩だし。

しかも、雰囲気だけではなく、テーマに自己犠牲までつめてくるストーリーの暗さまで。あげくのはてに、このストーリー、かなりの長編原作を90分に詰め込んだためと思われ、非常に内容が薄い。

ま、でも、そこまで悪い作品でもない気がしましたけどね。惜しむらくは、ティム・バートンがディズニー時代にこの作品のコンセプト作りに参加していたものの、あまりにディズニーカラーじゃないからボツにされてしまったこと。どうせ失敗作だったんだし、結局、こんな不気味な作品なんだから、バートン案を採用すればもっとカルト人気が出ただろうになぁと。

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2007年7月22日 (日)

「ヴェニスの商人」 シェイクスピア

ヴェニスの商人

ヴェニスの商人
(the merchant of Venice)

W・シェイクスピア W・Shakespeare

光文社古典新訳文庫 2007.6.

シェイクスピア好きと公言しているものの、実は今まで読んだことのなかった戯曲。こんなに有名作なのにね。子供頃ラムの「シェイクスピア物語」を読んだときに、あまり面白いと思わなかった印象が強くてそのままきてしまった感じです。

今回、古典新訳文庫で刊行されたので、ちょうど良い機会だと思い読んでみました。ところで、古典新訳文庫は非常に良い企画だと思ってるんですけど、この作品、なんと、本に挟まってるしおりに人物紹介が印刷されていました。戯曲って名前が覚えられなくて、久々に誰かが登場するとその都度冒頭ページの人物紹介を見ることが多いので、この仕様は非常に読者に優しいと思います。ますます好感度アップ。

さてでは作品紹介。

舞台はヴェニス。バサーニオは皆が憧れている富豪の娘ポーシャとの結婚を考え、友人の商人アントーニオに金を借りようとする。アントーニオの財産をのせた船は現在航海中だったのだが、友人のために彼はユダヤ人の高利貸しシャイロックのもとに行き、金を借りることになる。そこで、アントーニオは期日までに返済をしなければ、シャイロックに自らの肉を1ポンド与えるという取り決めを交わす。そんな中、アントーニオの財産をのせた船が難破したという知らせが届き・・・。という物語。

有名な話なので、今さら感もありますが、メインのストーリーと平行して、バサーニオたちの恋の物語も描かれていきます。

うーん、やっぱりこの作品、あまり良い印象じゃないんだよね・・・。

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2007年7月21日 (土)

「くもの巣の小道」 イタロ・カルヴィーノ

くもの巣の小道―パルチザンあるいは落伍者たちをめぐる寓話

くもの巣の小道

イタロ・カルヴィーノ 

ちくま文庫 2006.12.

大好きな作家の1人であるカルヴィーノの処女作。発売日には購入していたんですが、パラパラと読んで、ちょっとこれまでのカルヴィーノ作品とは違う雰囲気を感じ、いつの間にやら積読状態になってました。

舞台は第2次大戦末期のイタリア。ドイツ軍が中部、北部を占領し、ムッソリーニによるファシズムの台頭に内乱が起っていた時代。少年ピンは大人たちの集まる場所をうろうろしながら楽しく過ごしていたが、ある日、とある事件をきっかけに投獄されてしまう。そこでで出会ったパルチザンのメンバーと共に脱獄したピンはその後、パルチザンたちと共に生活し始めるのだが・・・。という物語。

自分の知識が乏しく、そもそもパルチザンとは・・・という状態だったので、状況を把握するのに時間がかかってしまいました。要は主人公が国の体制に反対して戦うゲリラの仲間入りをするという感じですね。この物語のキーは、そのパルチザンのメンバーたちが、どこにでもいるような落ちこぼれの大人達で、決して第一線で華々しく闘っていたグループではないというところ。そして、戦いの物語なのに、寓話形式をとっているところ。

つまらなくなはないんだけど、個人的には苦手なタイプの作品です。カルヴィーノは本当に引き出しが多いなぁというのを改めて実感しました。

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2007年7月20日 (金)

07年5月6月に聞いたCDから

すっかり7月も半ばになってしまったけれど・・・。ラインナップは以下。相変わらずまとまりがない。

Thireteen Senses 「Contact」

Bjork 「Volta」

Linkin Park 「Minituts to Midnight」

堀下さゆり 「シロツメクサ咲いた夏」

それでは1つずつ簡単な感想を。

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2007年7月19日 (木)

「哲学事典」 クワイン

哲学事典―AからZの定義集 (ちくま学芸文庫 ク 13-1)

哲学事典 AからZの定義集
(quiddities an intermittently philosophical dictionary)

W・V・クワイン W・V・Quine

ちくま学芸文庫 2007.4.

いつものレビューとはちょっと趣向の異なる1冊です。

「哲学事典」って、こんなところで、事典のレビューかよ!と思った人もいるかもしれませんが、実はこの本、エッセイ集です。20世紀の知の巨人の1人と言っても過言ではないであろう哲学者クワイン氏が、様々なトピックについて思うことを、事典のような体裁でアルファベット順に項目を並べて掲載する1冊。

「心対身体」、「自由」のような哲学的話題から、「パラドックス」、「否定」などの論理学の話題、「自然数」、「無限」などの数学の話題、「音素」、「屈折」などの言語学的な話題(恐らくこれが一番充実)などなど本当に多岐に亘る分野に関して、書かれていて、それがまた、非常に読みやすいライトな切り口(それでいて、内容も深い)なので、この手の本は普段あまり読まないという人でも(例えば自分)、十分に楽しめる1冊だと思います。一部ちょっと訳が分かりにくいけど。

一般向きの本を非常に面白く書ける巨匠ってのは本当に偉大だと思います。

実際、自分は哲学系の話題は猛烈に疎いし、苦手なんですが、それでも楽しく読めたし。1つずつの項目が割と短めなので、連続で読むよりも、1日1項目みたいな感じでちょっとずつ楽しみたい1冊かなぁ。

ちなみに「ユニヴァーサル・ライブラリー」という項は、先日の平野氏の「滴り落ちる~」のレビューでも触れたバベルの図書館ネタですね。最近読んだ本の中でこういうリンクがあるとなかなか楽しいです。

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2007年7月18日 (水)

映画「王の男」

王の男 スタンダード・エディション

왕의 남자
(the king and the clown)

2005年

韓国

公開時からとても気になっていた1本です。見てみたら予告編のときとちょっと印象が違ったものの、それでも、非常に面白い作品でした。

チャンセンとコンギルは旅芸人一座の一員として地方を巡回しながら様々な芸を披露する日々を送っていた。しかし、女形を演じるコンギルを有力者に差しだし、金を儲ける団長に耐え切れず、幼馴染の2人は一座を抜け出し、一旗あげようと都を目指す。

当時の漢陽の都は後世に暴君として名を残すヨンサングンが王として君臨していた。町で、王が芸者あがりのノクスを妃に迎え日々遊び暮らしている噂を聞いた2人は、そこで知り合った芸人たちと共に、王の生活を風刺する芝居を行い、好評を博すのだが、やがて、それが知られ、侮辱罪の罪に問われてしまう。死刑を目前にしたそのとき、チャンセンは、その芝居を見て王が笑えば、侮辱したことになはならないのではないかと告げ、2人は王の前で一世一代の大芝居をすることに。果てさて2人の運命やいかに・・・。という物語。これはほんの冒頭で、その後、妖艶な美しさを持つコンギルを中心に、憎悪入り乱れる王宮の人間ドラマが展開していくことに。

いやはや、劇場で見れば良かったー。なんてたって映像が美しい!芸の迫力が良い。そして、主要登場人物たちの演技も皆素晴らしい。意外と伏線の多い脚本もなかなかだし、見所も多いし、音楽もきれいだし。「大奥」的なドロドロドラマに同性愛的要素が入り乱れる作品だったらどうしようかとか思ってたんですが、そんなこともなく(本当か?)、登場人物達の痛く切ない思いに満ち溢れた見ごたえのある1本でした。

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2007年7月17日 (火)

「グラスホッパー」 伊坂幸太郎

グラスホッパー

伊坂幸太郎

角川文庫 2007.6.

伊坂作品が2ヶ月連続で文庫化ってのは文庫で追いかけてる読者としては嬉しいですねー。そんなわけでさっそく読んでみましたよー。

物語は鈴木、鯨、蝉の3人の視点で書かれたものが交互に現れながら展開していくという伊坂作品ではおなじみの形式。妻を事故で亡くした鈴木は、復讐を企て轢き逃げ犯の寺原の父親が経営する「令嬢」と呼ばれる会社に就職。ところがそんなある日、鈴木は自分の目の前で復讐相手の寺原が事故に会う現場に遭遇する。寺原の事故は「押し屋」と呼ばれる男による他殺だということになり、鈴木は現場から逃げ去った一人の男の後を追う。やがて、自殺をさせる殺し屋の鯨と非情でクールな殺し屋の蝉もまた、この事件に巻き込まれ、3人の物語が一点に向かって走り出すという物語。

殺し屋達が活躍する物語というのがコンセプトのようで、様々なタイプの殺し屋が登場するのがなかなか面白い作品です。登場人物たちの粋な台詞に彩られたいつもの伊坂節も健在だし、最後までグイグイと読ませるエンターテイメント性もさすが!でも、これまでの作品と比べるとちょっとぱっとしない印象かなぁ。殺し屋ってことで人がたくさん死ぬしなぁ。

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映画「ヘアスプレー」(1988)

ヘアスプレー

hairspray

1988年

アメリカ

来週、来日公演のミュージカル版を観にいくので、予習をかねてオリジナルの映画版を見てみました。ちなみに今年の秋には舞台版を基にして再映画化されたものが公開されるようです。

物語の舞台は1960年代初頭のアメリカ、ボルチモア。主人公トレイシーはダンスが大好きな太った女子高生。学校から帰ると親友ペニーと二人で一緒に地元TV局の人気ダンス番組「コニー・コリンズ・ショー」を見ながらTVの前で踊る日々を過ごしていた。そんなあるとき、トレイシーは、この番組のレギュラー出演者のオーディションに合格し、一躍街の人気者となる。時代は公民権運動が高まっていた1960年代、トレイシーとライバルの正統派美女アンバーとの確執は次第に黒人差別への運動を巻き込んでいって・・・。という物語。

うーん、難しい。決してつまらなくはないし、良い映画だとも思うんだけど、でも、なにかが合わないというかなんというか。感想が書きづらい。

とにかくノリノリで踊りまくりの楽しい映画で、それでいて、ピリリと社会的テーマがきいているので、面白いには面白かったんですが、監督さんのテイストについていけない部分があったのも事実で、心のそこから楽しめなかった感じ。

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2007年7月16日 (月)

「狐になった奥様」 ガーネット

狐になった奥様
(lady into fox)

デヴィッド・ガーネット david garnett

岩波文庫 2007.6.

タイトルにひかれて購入した1冊。この著者は知らなかったんですが、調べてみたところ、他の作品も面白そうです。ミュージカルでおなじみの「アスペクツ・オブ・ラブ」の原作者だそうで、ますます注目度アップ。

テブリック氏は妻のシルヴィアとともに今日もラブラブデート@近所の森へ。ところが、散歩中、突然シルヴィアが狐に姿を変えてしまう。テブリック氏は狐になってしまった妻を抱えて屋敷に戻り、人の目に触れぬように、ひっそりと妻をかくまい、ひたすらに愛を注いで共に生活を続けるのだが、妻は次第に獣としての本性に目覚めていき、そして・・・。という物語。

はじめは狐の中にかいまみえる妻の姿を愛していた主人公が、次第に、狐そのものに愛を注ぐようになっていく姿を描くんですが、見方によっては、ブッラクユーモアとも、風刺ともとれる作品ではあるんですが、自分は、これは究極の純愛小説だなぁと思いました。

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2007年7月15日 (日)

「滴り落ちる時計たちの波紋」 平野啓一郎

滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫 ひ 19-1)

滴り落ちる時計たちの波紋

平野啓一郎

文春文庫 2007.6.

好きな作家の1人、平野氏の短編集です。様々なスタイルの9編が収録されていて、1冊で9粒美味しい!といった感じの1冊でした。

個人的には、初期の作品に見られた、泉鏡花チックな作風が好きだったんですが、この短編集に収録された作品群はそういう要素が感じられないものの、かなり面白く、楽しめたので、今後、平野氏の作品を読むのがますます楽しみになりました。

あと、今回発覚したのは、平野氏は超短編がメチャメチャ上手いってことですね~。

そんなわけで、以下、1作ずつ感想を。

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2007年7月14日 (土)

「神を見た犬」 ブッツァーティ

神を見た犬

神を見た犬
(il colombre e altri racconti)

ブッツァーティ Dino Buzzuati

光文社古典新訳文庫 2007.4.

古典新訳文庫は、「古典?」という疑問も多少あるものの、20世紀の幻想短編小説の刊行が割りと多いのが特徴的な気がします。これまでに同シリーズで刊行された「猫とともに去りぬ」や「海辺の少女」がどちらも非常に面白かったので、このイタリアの作家さんの短編小説集もちょっと楽しみでした。

全部で22の短編が収録されているんですが、特徴的なのはとにかく後味の悪い(?)作品が多いということでしょうか。皮肉がきいているというか、ブラックな感触で作者がニヤリとこちらに微笑んでいるような作品がちらほら。それでいて、はっと色々なことに気づかせてくれるような作風がなかなか良いです。

あと、「神様」を題材にした作品が多いですね。これは、「聖人」て概念がイマイチ馴染みが薄いのでちょっと分かりづらかったかなぁ。

では、面白かった作品をいくつか。

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2007年7月12日 (木)

映画「麦の穂をゆらす風」

麦の穂をゆらす風 プレミアム・エディション

the wind that shakes the barley

2006年

アイルランド・英・独・伊・西・仏

明日へのチケット」のレビューで、ローチ監督の大ファンと語っておきながら、カンヌのパルムドールに輝いたこちらは未見でした。いや、劇場公開時からずーっと見たかったんですけどね。

舞台は英国からの独立の動きが強まっていた1920年のアイルランド。主人公ダミアンはロンドンに出て医者になろうとする若き青年。ある日、村の仲間たちとスポーツを楽しみ、友人宅に旅立ちの挨拶に訪れたところ、英国の武装警察隊が現れる。一切の集会活動を禁止している中、スポーツをしたという罪で尋問を受け、やがて、仲間の1人が拷問を受けてしまう。その後、ロンドンに旅立つために訪れた駅のホームで見た光景がダミアンの思いを変え、彼は義勇軍に志願し、独立のために戦う道を選ぶのだが・・・。という物語。壮大で美しいアイルランドの自然を背景に祖国のために戦い、運命に翻弄されていく人々の姿を描く傑作!!!

うん、「面白かった」て感じではないけれど、非常に素晴らしい作品でしたよ!!ローチ監督おなじみの「やりきれない思い」が詰まった作品で、ここでも主人公達が本当にささやかな小さな幸せを願って、必死に人生を生きていて、そして、それでも運命は皮肉なもので・・・。それを本当に美しい大自然が包み込んでいる映像も良かったなぁ。痛い場面も多かったんだけど、観る価値が十分すぎるほどにある作品だと思います。

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2007年7月10日 (火)

「ぼくは悪党になりたい」 笹生陽子

ぼくは悪党になりたい

ぼくは悪党になりたい

笹生陽子

角川文庫 2007.6.

上質のヤングアダルト作品を多数発表している笹生さんの作品が文庫化ということで、早速購入。以前読んだ「楽園の作り方」が面白かったので、結構期待大でした。

主人公の高校生エイジはシングルマザーの母親と利の離れた父親の違う弟との3人暮らし。母が仕事で海外に長期出張することが多く、家事全般を任される日々。そんなある日、いつも通りに母が出張で家をあけ、エイジも明日から修学旅行に行くという時に、弟が病気で倒れてしまう。困ったエイジは母の電話帳を開き、その中にあった近くに住む男に電話をかけ、事情を説明し、きてもらうことになったのだが・・・。

エイジの家庭の物語とともに、イケメンでモテる親友の羊谷や羊谷のイケイケの恋人アヤらとの関係が描かれ、身の回りにいる自由人たちに振り回され続け、気づけばいつも貧乏くじをひいてしまうという良い子の殻を破ることができないエイジのモヤモヤした思いが描かれていく。

笹生作品だったら「楽園の作り方」のほうが好きかなぁ。今回も面白かったんだけど、自分の青春とはかけ離れてたからなぁ・・・。

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2007年7月 4日 (水)

映画「明日へのチケット」

明日へのチケット

tickets>>

2005年

イギリス・イタリア・イラン

劇場公開時から本当に本当に見たかった作品。全員がカンヌでパルムドールの受賞経験がある、エルマンヌノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチの3名の監督が共作した、オムニバス的と長編ということでかなり楽しみにして観てみました。

長編らしいんですけど、完全に3つのパートが独立してるので、1つずつ紹介。

①オルミ監督
製薬会社の顧問を務めている老教授が主人公。仕事を終え、孫の誕生日のために帰ろうとしたのだが、なんと空港がテロで封鎖し飛行機に乗れなくなってしまう。その後、無事電車の食堂車のチケットを手に入れた教授だったが、駅でチケットを渡してくれた秘書の姿が忘れられず、ピアノの音に彩られた遠いかなたの初恋の思い出とともに、すっかり忘れかけていた淡い恋心に浸るのだが・・・。センチメンタルな老教授の恋心と、殺伐とした車内に訪れる小さな優しさの物語。

②キアロスタミ監督
1人の中年未亡人とその付き添いの青年の物語。将軍夫人だった女性は亡き夫の1周忌のために電車に乗り込み、青年は兵役の一環としてその夫人の付き添いをしている。しかしこのご夫人、かなりのツワモノで、持ってるチケットは2等客席のものなのに、1等車に強引に座ろうとするは、人使いは荒いはで車内でトラブルを起こしたり、青年をこきつかったり・・・。傍若無人の中年女性の悲哀を描く物語。

③ローチ監督
サッカーのセルティックの熱狂的サポーターのスコットランド人の3少年たちが主人公。スーパーで働く彼らは貯金をためて、念願のセルティックVSローマの試合を見るために鉄道でローマに移動中。車内で出会ったサッカーのユニフォームを着たアルバニア少年にチケットを見せたりして大盛り上がりの3人だったが、そんな折、仲間の1人のチケットが見あたらなくなってしまう。さきほどのアルバニア難民の少年が盗ったのではないかと疑いはじめる3人だが・・・。労働者階級の英国少年たちが初めて目の当たりにする世界の現実。良心と猜疑心の間で揺れ動く少年達の物語。

アルバニアの難民家族が全編を通して顔を出したり、他にも共通する登場人物がチラホラいて、1台の列車の中で起こる様々な物語を描かていく作品。

もうね、ケン・ローチが素晴らしいのなんの。30分ほどの小品なのに、無駄が無いし、深いし、それでいて、エンターテイメントで、自然で、やっぱこの人の映画好きだー!と改めて思える作品でした。

他の2作品も、それぞれにそれぞれの味わいがあって、とても良かった!こういうオムニバスって、当たりハズレが大きかったりするんだけど、パルムドールの看板に偽りなしの総じてレベルの高い映画だったと思います。

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2007年7月 3日 (火)

「福音の少年」 あさのあつこ

「福音の少年」

あさのあつこ

角川文庫 2007.6

*書籍画像がありませんでした・・・。

『バッテリー』が大ヒットのあさのさんの作品。そういえば、『バッテリー』も3巻までしか読んでないなぁ。完結したみたいだし、どっかでまとめて読んじゃおうかなぁ。

とある町にジャーナリストの秋庭が降り立つところから物語は始まる。彼は、この町で起こったアパートの火災事件の現場に立ち寄り、犠牲者の1人である藍子という少女のことを気にかけているところに、2人の少年が現れるというのがプロローグ。

高校生の明帆はどこかつかみどころのない不思議な雰囲気を持った少年で、クラスメートの藍子とつきあっていた。藍子と同じアパートに住む幼馴染の陽はそんな2人のことが気になる今日この頃。ある日、藍子と陽の住むアパートで火災が発生し、多数の犠牲者を出す。たまたま外出していた陽は難を逃れたのだが・・・。

果たして、アパートの火災は事故だったのか。そして、陽と明帆の2人がたどり着く、藍子の死の真相とは・・・。思春期の3人の少年少女の心の葛藤、成長を描き出す作品。

うーん、なんか、感想が難しいなぁ・・・。一言で言ってしまえば、「これって続編あるの?」といったところでしょうか。最後が全然スッキリしない!!!

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2007年7月 1日 (日)

映画「ウィンター・ソング」

ウィンター・ソング

Perhaps Love
如果・愛

2005年

香港・マレーシア・中国

どうも、ミュージカル映画好きのANDREです。今回は、香港のミュージカル映画。アジアのミュージカルなんてほとんど見たことないのでかなり楽しみにして見てみました。

舞台はサーカスを舞台にしたミュージカル映画の撮影現場。ヒロインを演じる人気女優のソン(ジョウ・シュン)は監督のニエ(ジャッキー・チュン)と付き合っていたのだが、そこに、映画で共演する相手役として香港の大スター、リン(金城武)が現れる。実はリンとソンは10年前、2人がまだ売れない踊り子と監督志望の若者だったときに出会い恋に落ちていた。リンは10年間、彼女のことを思い続け、眠れない夜を過ごしていたのだが、映画での共演を機に、再び彼女に近づくのだが・・・。という物語。

作中で製作されているミュージカル映画が、サーカスの団長とその恋人である過去の記憶のない団員の少女シャオイーのもとに、かつてシャオイーの恋人であったという1人の男が現れるというストーリー。現実の物語とオーバーラップする劇中劇で歌われるミュージカルナンバーの数々が、リン、スン、ニエの3人の心情を語るように物語を彩っていくというちょっと凝った趣向の恋愛ミュージカル映画です。

とにかくキャストが豪華。日本でもおなじみの金城武をはじめとして、ヒロインのソンを演じるのは「中国の小さなお針子」で魅力たっぷりにお針子を演じたジャウ・シュン、そして、映画監督兼劇中映画の団長役で見事な歌声を聞かせてくれるのは、アジアを代表する歌手のジャッキー・チュン。さらに、3人の恋模様を見つめる天使という設定で登場するのはドラマ「チャングム」で人気の韓流スター、チ・ジニ。

さらにスタッフもすごい。ミュージカルシーンの彩豊かな美しい映像を撮影するのは「グリーンデスティニー」でアカデミー賞に輝くピ-ター・パウ。そして、ミュージカルシーンの振り付けを担当したのはロイド・ウェバーが新作ミュージカルの振付師として招いたというファラー・カーン。

そんなわけで、顔ぶれだけでやたらと豪華なんですが、さすがと言わんばかりのミュージカルシーンの美しさがとにかく印象的で素晴らしい作品でした。「ムーランルージュ」的な豪華絢爛な映像&言葉は分からないけど、とにかく美しい音楽の数々が本当に素晴らしかったです。そんなわけで大満足でしたよ、ミュージカルシーンは・・・。

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