「狐になった奥様」 ガーネット
狐になった奥様 デヴィッド・ガーネット david garnett 岩波文庫 2007.6. |
タイトルにひかれて購入した1冊。この著者は知らなかったんですが、調べてみたところ、他の作品も面白そうです。ミュージカルでおなじみの「アスペクツ・オブ・ラブ」の原作者だそうで、ますます注目度アップ。
テブリック氏は妻のシルヴィアとともに今日もラブラブデート@近所の森へ。ところが、散歩中、突然シルヴィアが狐に姿を変えてしまう。テブリック氏は狐になってしまった妻を抱えて屋敷に戻り、人の目に触れぬように、ひっそりと妻をかくまい、ひたすらに愛を注いで共に生活を続けるのだが、妻は次第に獣としての本性に目覚めていき、そして・・・。という物語。
はじめは狐の中にかいまみえる妻の姿を愛していた主人公が、次第に、狐そのものに愛を注ぐようになっていく姿を描くんですが、見方によっては、ブッラクユーモアとも、風刺ともとれる作品ではあるんですが、自分は、これは究極の純愛小説だなぁと思いました。
姿を変える物語というと、やはりどうしてもカフカを避けて通れません。この作品でも「変身」と同様に、狐になってしまったということを妻も主人公も割とあっさりと受け入れてしまうんですが、「変身」との決定的な違いは、主人公が姿を変えた妻に対して、全身全霊で愛を注ぐ姿が描かれていくという点。一方で、妻のほうは、野生化していき、けっこう狐ライフを謳歌しはじめるのが皮肉的で、そして、切ない物語です。
そう、この物語はとても切ないんです。終盤、もはや妻の影を狐に探すのではなく、狐そのものに愛を注ぐようになった主人公が、少しでも狐に近づこうと奔走する姿は、見ようによってはかなり滑稽なんですが、もはや滑稽すぎて笑いを通り越してそこに悲哀が感じられるようになってしまうんですよね。世の純愛ブームに乗って映画化しちゃえばいいんじゃない?なんて思ってしまうくらいにまっすぐな主人公なんだけど、映像化したら単に滑稽でキモイおっさんになってしまうんだろうなぁ。でも、人を愛する姿なんて、傍から見れば、みんな滑稽なのかもしれませんが。
カフカの「変身」の感想の際に、現代の文脈で読むと、介護問題なんかが連想されるというようなことを書いたんだけれど、この作品も、介護問題なんかを想定して読むと、また違った奥深さが感じられるように思います。
昨日の平野氏の作品のレビューにつづいて、連続でカフカの「変身」を想起させる作品となってしまいましたが、これは狙ったわけではなく、単なる偶然です。
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