「神を見た犬」 ブッツァーティ
神を見た犬 ブッツァーティ Dino Buzzuati 光文社古典新訳文庫 2007.4. |
古典新訳文庫は、「古典?」という疑問も多少あるものの、20世紀の幻想短編小説の刊行が割りと多いのが特徴的な気がします。これまでに同シリーズで刊行された「猫とともに去りぬ」や「海辺の少女」がどちらも非常に面白かったので、このイタリアの作家さんの短編小説集もちょっと楽しみでした。
全部で22の短編が収録されているんですが、特徴的なのはとにかく後味の悪い(?)作品が多いということでしょうか。皮肉がきいているというか、ブラックな感触で作者がニヤリとこちらに微笑んでいるような作品がちらほら。それでいて、はっと色々なことに気づかせてくれるような作風がなかなか良いです。
あと、「神様」を題材にした作品が多いですね。これは、「聖人」て概念がイマイチ馴染みが薄いのでちょっと分かりづらかったかなぁ。
では、面白かった作品をいくつか。
「コロンブレ」
その姿を見たものを死ぬまで追いかけるという海の魔物にとりつかれた漁師の物語。10ページほどの短い話なのに、とても壮大で、そして、感動できる良い話でした。
「アインシュタインとの約束」
非常にブラックな作品。オチの意味分からない人とかいるんじゃないの??
「七階」
この作品集の中では一番印象に残った作品。もう冒頭で結末までよめちゃうんだけど、それでも先が気になる。こういうこと、世の中に結構多いと思うんだよね。一瞬の判断ミスと流されることの恐怖。
「グランドホテルの廊下」
これも7ページくらいしか短い話なんだけど、ラストが好きだなぁ。この光景がたまらない。
「風船」
これも世の中、結構こういうことって多いよね。と思わせる作品。なんか、自分、人間不信か!?
「小さな暴君」
個人的には、最後の一文はないほうが好きだなぁ。
「わずらわしい男」
こいつ、本当にわずらわしい。
「病院というところ」
作者のブッツァーティはイタリアのカフカなどと評されることも多いらしいんですが、これは確かにちょっとカフカっぽい雰囲気の作品でしたね。
「この世の終わり」
そういう立場の人確かに世の中にはいるよね。全般に聖職者や聖人を人間的にとらえる作品が多いですねー。
とりわけ印象的だったのはこのあたりでしょうか。表題作「神を見た犬」は実はこの本の中で唯一ちょっと苦手な作品でした。基本、短い作品のほうが面白かったように思います。この作者さんの本、もっと読んでみたいなぁと思わせる素晴らしい短編集だったと思います。
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コメント
今朝TBだけ飛ばしてました。
私もこの作品集、大体好きだったのですが、
「戦艦『死』」という奴がダメでした。
他のが良かっただけに残念です。
ちなみに私は表題作「神を見た犬」はかなり好きなんですよね。
投稿: piaa | 2007年7月14日 (土) 21時56分
>piaaさん
お久しぶりです。
TB&コメントどうもありがとうございました!!
やはり古典新訳文庫は期待を裏切りませんね。
「戦艦『死』」は僕も苦手でして、
表題作が苦手というのとあわせて
>基本短い作品のほうが面白かった
と書いた次第です。
「神を見た犬」は他でも評判が良い感じなので
またちょっと間を空けて読み直してみようかなぁと思います。
この作品集自体、読み直すに値する内容ですし。
投稿: ANDRE | 2007年7月14日 (土) 23時15分