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2007年7月15日 (日)

「滴り落ちる時計たちの波紋」 平野啓一郎

滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫 ひ 19-1)

滴り落ちる時計たちの波紋

平野啓一郎

文春文庫 2007.6.

好きな作家の1人、平野氏の短編集です。様々なスタイルの9編が収録されていて、1冊で9粒美味しい!といった感じの1冊でした。

個人的には、初期の作品に見られた、泉鏡花チックな作風が好きだったんですが、この短編集に収録された作品群はそういう要素が感じられないものの、かなり面白く、楽しめたので、今後、平野氏の作品を読むのがますます楽しみになりました。

あと、今回発覚したのは、平野氏は超短編がメチャメチャ上手いってことですね~。

そんなわけで、以下、1作ずつ感想を。

「白昼」
不思議なスタイルがとても印象的な作品。これ、どっちかていうと、「高瀬川」に収録されてそうなタイプの作品ですよね~。あ、感想らしい感想がない・・・。

「初七日」
とってもとっても私小説な感じのスタイルで、お、珍しい!と思いました。父を亡くした中年男とその家族の葬儀前後を描く作品で、全体にどよ~んとした重々しい作品でした。古い日本映画みたいな雰囲気なんですが、こういう作品を書くには平野氏はまだまだ若いのかなぁとも感じました。まぁ、自分はもっと若いので、何様なんだかって話ですけど。

「珍事」
こういうの、結構好きです。そして見事にはまってしまう主人公の姿がなんとも言えず面白い。短い作品で、一部の隙もない!と感じ、やっぱこの人すごい!と思っちゃいました。

「閉じ込められた少年」
入れ子構造が面白い作品です。印象の変化が良いですね。そして、「閉じ込められた少年」てタイトルのままの作品。

「瀕死の午後と波打つ磯の幼い兄弟」
双子のような2編がペアになった作品。2つで1つなんだけど、「瀕死の午後」が面白くて、もっと続きが読みたいなぁと思っちゃいました。ちなみに、平野氏はあまりお好きではないみたいですが、この作品、手塚治虫の短編と非常に雰囲気が似ているなぁと思いました。

「les petites Passions」
仏語タイトルなんですが、フランスのシュールレアリスムの風が感じられる少年が主人公の短編群。「記憶」って作品がとりわけ印象的。夕日をバックに鉄棒の前に立つとちょうどこんな感じですよね。

「くしゃみ」
最近好きな海外の幻想短編集なんかに収録されてそうな小品。やっぱり平野氏、超短編も上手い!!2ページしかないのに、強烈な印象が残って、忘れがたいです。

「最後の変身」
この本の中では一番の力作だと思うし、実際、一番面白かったです。

以前、カフカの「変身」を読んだ際に、「引きこもり」を連想させるというようなことを書いたんですけど、これは、カフカの「変身」をモチーフに、引きこもりの青年が書いた手記というスタイルの作品。横書きなのに右から左にペイジ(平野式に)を捲るのに違和感を感じたんだけど、気づいたら、慣れちゃってスラスラ読んでました。この「スラスラ」が、ネット上の文を流し読みしてる感覚だ!ってことに途中で気づいて、どうやら、見事に術中にはめられてしまったようです。

さて、この作品を読むと、ネットでこうしてレビューなどを書いている人は、どこか痛いところをつかれているような不思議な錯覚が起こるはず。読みながら、ついつい言い訳してる自分がいたりして・・・。

結局、この人、自分大好きなんだろうなぁ。そして、自分はなんかすごいんだって信じちゃったんだろうね。僕も気をつけよっと。

このレビューとか、きっと、鼻で笑われながら読まれてるんだろうね。

「バベルのコンピューター」
ボルヘスの「バベルの図書館」と同様のスタイルで、注を入れてくるところまで模倣している面白い作品で、内容も、被らせてきて、21世紀版といった様子。

でもさ、やっぱこんな図書館はないし、こんなコンピュターもないわけさ(まぁ、そういう話なんだと思うけど・・・)。「aaa....」ってaがn個続く作品があったとして、人間は常にaをn+1個続ける新しい作品を生み出すことができるわけで。人間の言語活動は決して限りなく有限に近い無限ではなくて、正真正銘の無限なのだから。ポイントは、同じ語彙(もしくは記号列)を何度でも繰り返して使って良いてところですよね。

そんなわけで、無限の可能性を秘める人間が創造する文学の新たなる可能性をもっともっと切り拓いていって欲しいと平野氏に祈りつつ今日のレビューは終了です。

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