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2007年7月18日 (水)

映画「王の男」

王の男 スタンダード・エディション

왕의 남자
(the king and the clown)

2005年

韓国

公開時からとても気になっていた1本です。見てみたら予告編のときとちょっと印象が違ったものの、それでも、非常に面白い作品でした。

チャンセンとコンギルは旅芸人一座の一員として地方を巡回しながら様々な芸を披露する日々を送っていた。しかし、女形を演じるコンギルを有力者に差しだし、金を儲ける団長に耐え切れず、幼馴染の2人は一座を抜け出し、一旗あげようと都を目指す。

当時の漢陽の都は後世に暴君として名を残すヨンサングンが王として君臨していた。町で、王が芸者あがりのノクスを妃に迎え日々遊び暮らしている噂を聞いた2人は、そこで知り合った芸人たちと共に、王の生活を風刺する芝居を行い、好評を博すのだが、やがて、それが知られ、侮辱罪の罪に問われてしまう。死刑を目前にしたそのとき、チャンセンは、その芝居を見て王が笑えば、侮辱したことになはならないのではないかと告げ、2人は王の前で一世一代の大芝居をすることに。果てさて2人の運命やいかに・・・。という物語。これはほんの冒頭で、その後、妖艶な美しさを持つコンギルを中心に、憎悪入り乱れる王宮の人間ドラマが展開していくことに。

いやはや、劇場で見れば良かったー。なんてたって映像が美しい!芸の迫力が良い。そして、主要登場人物たちの演技も皆素晴らしい。意外と伏線の多い脚本もなかなかだし、見所も多いし、音楽もきれいだし。「大奥」的なドロドロドラマに同性愛的要素が入り乱れる作品だったらどうしようかとか思ってたんですが、そんなこともなく(本当か?)、登場人物達の痛く切ない思いに満ち溢れた見ごたえのある1本でした。

コンギルを演じるイ・ジュンギの美しさはもう反則技で、こんなに艶やかな男がいるのか!というくらいに妖艶な魅力が光ってました。王と遊ぶ場面のニヒルな微笑む&目元とか本当に「美しい」としか言いようがない。

観る前には、もしかしたら、コンギルの美しさだけが目立つ映画なのかもしれないなぁとか思っていたんですが、他のキャスト陣もそれぞれにかなりの熱演。芸に身を捧げた男チャンセンを演じるカム・ウソンの渋さ、暴君を演じるチャン・ジニョンの心の奥の複雑な思いを見事に再現する素晴らしさ、そして、妃ノクスの嫉妬心を静かに表現するカン・ソンヨン。皆が熱演だったので、緊張感のあるシーンが多く、最後までつい引き込まれてしまいました。

強い絆で結ばれた相方を強く思う熱いチャンソンも、亡き父と母の姿に縛られた哀しき暴君も、寵愛を失うクノスも、そして、王に仕える人々も、この作品の登場人物全てを嫉妬に陥れる魅力を持つコンギル。彼自身の気持ちがあふれ出る終盤の場面は本当に切なくて哀しかったです。

あと、個人的には、暴君ヨンサングンの心の闇がとても切なかったなぁと。恵まれた環境になく、王とはいえ、暗い過去を背負い、常に比較され、行き場を失った感情を残忍な行為によってしか晴らせなくて、結果として「暴君」になってしまう空回りが本当に切ない。最後まで暴君を貫く姿はとても光っていた。

漫才のコンビは夫婦のようだと言うこともあるけれど、主人公の2人絆の深さを見せるラストシーンはかなり感動しました。チャンソンの口上がまた上手いのさ。

「嫉妬」と「絆」が色々な形で描かれた上質の人間ドラマだよなぁ。

あと、本人の前で演じて、立派に評価される「風刺」を作れるのは凄いなぁと。実際、そこまで面白いか?って疑問は残るけど。

以上、なんか箇条書き的にとりとめのない感想になってしまったけれど、満足度の高い作品でした。

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コメント

「大奥」的なドロドロドラマに同性愛的要素が入り乱れる作品
だと思ってたから、ゲェー観たの?!って思いましたが、
レビュー読んで私も観たくなりましたよ。

投稿: ヨーコ | 2007年7月23日 (月) 11時08分

>ヨーコさん

この映画、実は映画館でやってるときから
観たかったんだよね。

割と精神的な同性愛を匂わせる作品ではあるものの
色々な「嫉妬」と「絆」が感じられる作品で
結構楽しめたかなぁ。

映像きれいだし!!

投稿: ANDRE | 2007年7月24日 (火) 01時00分

コンギルが何をしたかったのか、いまいち納得いかない部分もあったけど、確かに見入ってしまう映画だね。

大臣の「舞台は終わった」とか、チャンセンの口上とか、シェークスピアの舞台に対する考え方と共通する演出(脚本?)が面白かったです!

投稿: とも | 2008年8月27日 (水) 12時41分

>とも

そうなのさ。なんか見入ってしまう映画で結構インパクトがありました。コンギルが美しいし。

あのロープの上でやる伝統芸能は前ウルルンでやってたんだけど、かなり難しそうで、できる人もほとんどいないらしく、あれを映画で観られるだけでも価値のある作品なのかも。

シェイクスピア!観たときは気づかなかったけど、なるほどなるほど。

投稿: ANDRE | 2008年8月29日 (金) 00時54分

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