映画「明日へのチケット」
tickets>> 2005年 イギリス・イタリア・イラン |
劇場公開時から本当に本当に見たかった作品。全員がカンヌでパルムドールの受賞経験がある、エルマンヌノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチの3名の監督が共作した、オムニバス的と長編ということでかなり楽しみにして観てみました。
長編らしいんですけど、完全に3つのパートが独立してるので、1つずつ紹介。
①オルミ監督
製薬会社の顧問を務めている老教授が主人公。仕事を終え、孫の誕生日のために帰ろうとしたのだが、なんと空港がテロで封鎖し飛行機に乗れなくなってしまう。その後、無事電車の食堂車のチケットを手に入れた教授だったが、駅でチケットを渡してくれた秘書の姿が忘れられず、ピアノの音に彩られた遠いかなたの初恋の思い出とともに、すっかり忘れかけていた淡い恋心に浸るのだが・・・。センチメンタルな老教授の恋心と、殺伐とした車内に訪れる小さな優しさの物語。
②キアロスタミ監督
1人の中年未亡人とその付き添いの青年の物語。将軍夫人だった女性は亡き夫の1周忌のために電車に乗り込み、青年は兵役の一環としてその夫人の付き添いをしている。しかしこのご夫人、かなりのツワモノで、持ってるチケットは2等客席のものなのに、1等車に強引に座ろうとするは、人使いは荒いはで車内でトラブルを起こしたり、青年をこきつかったり・・・。傍若無人の中年女性の悲哀を描く物語。
③ローチ監督
サッカーのセルティックの熱狂的サポーターのスコットランド人の3少年たちが主人公。スーパーで働く彼らは貯金をためて、念願のセルティックVSローマの試合を見るために鉄道でローマに移動中。車内で出会ったサッカーのユニフォームを着たアルバニア少年にチケットを見せたりして大盛り上がりの3人だったが、そんな折、仲間の1人のチケットが見あたらなくなってしまう。さきほどのアルバニア難民の少年が盗ったのではないかと疑いはじめる3人だが・・・。労働者階級の英国少年たちが初めて目の当たりにする世界の現実。良心と猜疑心の間で揺れ動く少年達の物語。
アルバニアの難民家族が全編を通して顔を出したり、他にも共通する登場人物がチラホラいて、1台の列車の中で起こる様々な物語を描かていく作品。
もうね、ケン・ローチが素晴らしいのなんの。30分ほどの小品なのに、無駄が無いし、深いし、それでいて、エンターテイメントで、自然で、やっぱこの人の映画好きだー!と改めて思える作品でした。
他の2作品も、それぞれにそれぞれの味わいがあって、とても良かった!こういうオムニバスって、当たりハズレが大きかったりするんだけど、パルムドールの看板に偽りなしの総じてレベルの高い映画だったと思います。
では1作品ずつ感想を。
①老教授の物語
この3名の中では唯一いままで1作品も見たことない監督さんですね。
あまり多くを語らないのに、その人の人生が垣間見えてくるのが上手いなぁと思いました。夜の列車の持つ、一種独特の空気が夢か現か分からないような独特の浮遊感を感じさせて、そこに老教授の淡い恋心がうまいこと調和していたように思います。ラストの感動に至るまでの無駄の無い展開が気持ち良い!!
作品の冒頭を飾るにはちょっと地味というか淡々としすぎてるなぁって気もしたけど。ちょっと眠かった・・・。
あと、ザワザワする他の乗客たちがとても印象に残る作品でした。
②傍若無人おばちゃんの物語
「桜桃の味」の監督さんですね。ちょっとした仕草や風景から登場人物たちの心情が見事に描かれる印象に残る作品だったと記憶しています。
で、今回。とにかくこのおばちゃんが本当に嫌なキャラクターなんだけれど、彼女に対する我々観客の嫌悪感を引き出すのがやたら上手い気がしました。そして、ほんの脇役であっても、皆が生き生きしているというか、無駄のない配役。あとは、やたらめったら長い個室のシーン。付き添い青年の思いを我々にもしっかりと味わせてくれる作品。
あと、携帯電話のやりとりがやたらめったら印象的。
確かに良いんだけど、おばちゃんのキャラで好き嫌いがかなり出ちゃうかもなぁ。
③セルティックサポーターが世界を救う(?)話
ケン・ローチは大好きな監督です!!!
とにかく3人の少年たちの自然さがたまらない!やっとの思いで念願のイタリア遠征が実現した3人の高揚しまくりのハイテンション具合がメチャメチャ自然で見ていて気持ちが良い!そして、ピンチに陥った3人の「ヤベー」っていう感じと、ピンチなのに、冗談で盛り上がっちゃう若い感じがまた良いよね。
あと、3人のうちの2人が「SWEET SIXTEEN」の少年だってのもローチ監督ファンには嬉しい。ついでにスコットランド英語も良いよね☆クイーンズイングリッシュ大好きなんですが、スコットランドも独特の訛りがたまらないっす。
3人は、英国の労働者階級で、これはもうローチ監督おなじみのテーマ。恐らく地元では、ローチ作品に出てくるような環境の中で必死に頑張って、ようやく手に入れたイタリア行きのチケットなんだろうね。しかし、そこで目にするのは、自分達よりももっと過酷な人生を生きているであろう難民の家族たち。果たして難民問題は自分たちの手に負えない問題なのか。少年のたちの葛藤がそのまま、観ている我々にも問題提起をしてきて、考えさせられる作品でした。
それなのに、やたらめったら明るい雰囲気なのはやっぱりサポーター少年たちのおかげなんだろうね。ローチ監督の作品としては異例の明るさとすがすがしいラストがとても印象的でした。
そんなわけで、期待通りの面白さで大満足の1作でした。ヨーロッパ鉄道旅行してみたいなぁ。
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コメント
TBありがとう。
やっぱり、大陸縦断鉄道は、おもしろいですね。
毎日毎日、いろんなドラマがあるんでしょうねぇ。
投稿: kimion20002000 | 2007年7月15日 (日) 20時57分
>kimion20002000さん
コメントいただきましてありがとうございました。
海外の鉄道はさらに日本よりも
1等客席、2等客席、3等客席にあからさまな違いがあるので
本当に様々なドラマをのせて走ってるんじゃないかなぁと思います。
のんびり優雅な鉄道の旅がしてみたくなりますね~。
投稿: ANDRE | 2007年7月15日 (日) 23時32分