映画「上海の伯爵夫人」
the white countess 2005年 アメリカ・イギリス・ドイツ・中国 |
カズオ・イシグロのオリジナル脚本を、「日の名残」、「眺めのいい部屋」などの英国文学映画の巨匠ジェームズ・アイヴォリーが監督するとなればこれは見ないわけにはいきません!!
舞台は1930年代の上海の欧米人たちが多く暮らす租界エリア。ロシアから亡命してきたソフィア(ナターシャ・リチャードソン)は、元伯爵夫人の未亡人。彼女は夫の母、叔母、妹らを養うために、ナイトクラブで働いていたのだが、プライドの高い家族たちからは冷たい視線を浴びせられ、唯一の心の支えは幼い一人娘のみ。一方、ジャクソン(レイフ・ファインズ)は、ある事件で家族を失い、自らも視力を失ってしまった元外交官で、彼の夢は、上海に一流クラブを作ること。そして、物語の鍵を握る第3の男として、謎の日本人、マツダ(真田広之)が登場する。激動の上海を舞台に描かれる、愛と人間のドラマ。
上海が舞台のイシグロ作品といえば、「わたしたちが孤児だったころ」(レビュー)があるんですけど、別にこれが原作というわけではなくて、オリジナルストーリーでしたね。舞台が全く同じなので、同じ取材がベースになってるんだろうね。
ところどころにイシグロ作品を感じさせるモチーフも出てくるし、重厚な作品ではあるんですが、ちょっと期待はずれだったかなぁ。うーん、2時間を越える長い作品なんだけど、特に前半が長く感じられて見るのが辛かったです。まぁ、でもそこそこには面白かったですよ。
イシグロ作品の主人公によく見られるように、過去や自分の夢、幻影にとらわれた人々が多く登場するんですよね。さらに映画では、「信頼できない語り手」というイシグロ氏お得意の術が使えないのではと思っていたのだけれど、そこを、主人公ジャクソンを盲目にするという設定で、上手くカバーしてたように思います。結局、彼が思い描いている世界と実際の世界のギャップが、最終的なバーの内と外の世界とその崩壊につながっていくように思いました。こういうギャップの微妙な不安定な感じがイシグロ的。そして、話をはぐらかす感じでなかなか本題を話してくれない傾向もイシグロ的。あとはなんと言っても、気品を漂わせた退廃ね。
だけれど、やっぱりイシグロ氏は脚本よりも小説のほうが良いんじゃないのかなぁと。同じ作品を小説で読みたいなぁと思わせてしまったのはもったいない。
この作品印象に残るのは主要キャストの3人。とりわけ、意外だったのは真田氏。謎めいた日本人という役がまさにぴったり。そして、意外にも英語をかなり頑張って話してるじゃないですか!!台詞もたくさん与えられてたし。
あと、これはもう設定勝ちなんだけど、没落したロシア貴族の人々も良かったね。とくに、大使館に向かう姑さんの凛とした姿がカッコイイ!
印象的なシーンといえば、ソフィアの娘の想像するアニメーションの場面があるんですけど、その映像もかなり好きですねー。
1つ1つの設定が、どれも美味しくて、非常に興味をそそられるのに、序盤~中盤にかけて、どうもそれを上手く生かしきれてないような印象の作品で、1場面1場面は面白いのに、どこかスパイスが足りないような印象でした。なんでだろ。もうちょっと緊迫感が欲しかった感じかなぁ。
あと、混乱する上海の様子を映像で見ることができ、「わたしたちが孤児だったころ」の上海の場面のイメージが膨らんだので、もう一度読んでみようかなぁと思ったんですが、結局、この映画よりも、「わたしたちが~」のほうが圧倒的に面白かったんだよね。
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