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2007年8月 2日 (木)

映画「ヴェニスの商人」

ヴェニスの商人

the merchant of Venis

2004年

米・伊・英・ルクセンブルク

先日原作戯曲を読んだので、以前から見たかった映画版をようやく見ることができました。これがね、もうとんでもない名画でしたよ!!好きかどうかは別にして、映画として素晴らしい。

ストーリーは原作のままですね。舞台は16世紀末のヴェニス。バッサーニオ(レイフ・ファインズ)は愛するポーシャ(リン・コリンズ)に求婚するためのお金を親友の商人アントーニオ(ジェレミー^・アイアンズ)に借りようとする。しかしアントーニオは、全財産を積んだ船が航海中で手元にお金がなかったので、皆から嫌われているユダヤ人の金貸しシャイロック(アル・パチーノ)に頼み、期限までに返却できない場合は肉1ポンドを差し出すという条件で金を借りることとなった。そんな折、アントーニオの船が難破したという知らせが届き・・・。

この戯曲、16世紀当時のユダヤ人弾圧の激しい時代背景もあり、卑しいユダヤ人を懲らしめる勧善懲悪ものという位置づけの作品で、「喜劇」に分類されているんですが、今回の映画化では、アル・パチーノ演じるシャイロックの素晴らしすぎる演技によって、完全に「悲劇」となっているのが印象的ですね。

まぁ、自分も原作戯曲読んだときから、これは悲劇だろーと思ったので、自分の解釈と一致した映画化ということもあり、とても面白かったです。

あと、この映画、映像がメチャクチャ綺麗です!!

どの場面も、とにかく映像が美しくて、しかもそれが色使いとかだけじゃなくて、カメラワークとか、構図とか全てがまるで動く絵画のような映像で、見ごたえがありました。コスチュームプレイで、これだけの洗練された世界観を再現できるってのは凄いなぁと。

この映画の解釈が非常に面白いのは、とにかくシャイロックの悲哀が描かれているというところでしょう。原作ではそこまで読み取れなかった、シャイロックが1ポンドの肉にこだわる理由も明確に伝わってきたし、やり込められたあとの、しゅんとなってしまった老人の悲哀のようなものがヒシヒシと伝わってきて、何もここまでしなくても!!と思わせる演出が非常に秀逸。こりゃもう「喜劇」じゃないよね。卑しいユダヤ人ではなく、彼の人間性を深くえぐり出したところが良かったと思います。アル・パチーノの表情から、体のオーラから、この老人の歩んできた人生の重みが滲み出てるんだよね。

一方で、原作でも思ったんだけど、ポーシャは絶対に性格悪いよー。特に指輪のやりとりね。まぁ、いくら追い込まれてるからって妻を悪魔に差し出しても良いとか言うバッサーニオもどうかと思うけどさ。あの夫婦、上手くいかないんじゃないの??とか思ってしまいましたよ。そりゃ、最後のアントーニオは微妙な雰囲気にもなるよー。

あとポーシャ、違う女優さんだったら嬉しかったなぁー。「恋に落ちたシェイクスピア」つながりでパルトロウさんとか。ちょっと顔にてたけど、ブランシェットさんとか。

原作ではポーシャの場面がチョコチョコ挿入される意味がつかみづらかったんだけど、こうして映画で見てみると、話が重くなりすぎないように丁度良いスパイスで挿入されてましたね。さすがシェイクスピア。前半のポーシャ関連のシーンは「喜劇」的な明るさがあって楽しい場面でした。

要約してしまうとなんてことない物語なんだけど、「見た目と内面」といったおなじみのテーマから、人間の尊厳まで、400年経っても全く色あせることのない作品なのがやっぱり凄いよなぁ。400年前にはホロコーストなど全く予期せぬことだっただろうし、現在の「人権尊重」の社会も予期されてなかったと思うんだけど、どんなに時代や社会が変っても、その時の価値観にあわせて新たな解釈を生み出せる戯曲を書くってのは本当に神業ですよねー。

この映画はシェイクスピア映画史に残る傑作だと思うけれど、でも、やっぱりこの戯曲は苦手だなぁと再認識でした。シャイロック可哀想だし、ポーシャ性格悪いし・・・←こればっか。

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コメント

こんばんは。
原作の記事の方にTBさせていただきました。

映画、よかったですよね。
アル・パチーノの演技が素晴らしいだけに、友だちに借金までして能天気に恋にうつつを抜かすバッサーニオを張り倒したくなりました(まぁ、ポーシャには一生頭があがらないと思いますけど・・・)。

投稿: ぐら | 2008年3月 9日 (日) 22時06分

>ぐらさん

コメントどうもありがとうございます。

アル・パチーノは素晴らしかったですね。

現代上演されているシェイクスピア劇は、台詞の改変をしないで演出や台詞のない動きで様々な新解釈を表現する面白さがありますが、この作品では、アル・パチーノの熱演が、画面を通して、台詞以上の様々なことを伝えていたように思います。

ポーシャとバッサーニオの夫婦生活はなかなか面白そうですよね。


確認してみたのですが、TBがうまくいってないようですので、
ご確認していただければと思います。

投稿: ANDRE | 2008年3月 9日 (日) 23時57分

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