「初恋」 トゥルゲーネフ
初恋 トゥルゲーネフ и・C・Typreнeв 光文社古典新訳文庫 2006.9. |
言わずと知れたロシア文学の名作の1つです。先日、これを原作にした映画(「ラヴァーズ・プレイヤー はつ恋」 レビュー )を見た際に、原作はきっと面白いんだろうなぁという感じだったので、早速読んでみました。
16歳の少年ウラジーミルは大学受験を控えた夏、両親と別荘に滞在していた。そこで、別荘の離れに越してきた公爵家の娘ジナイーダと出会い恋に落ちる。21歳のジナイーダは、自分を慕う男たちを招き、様々なゲームをして遊んでおり、やがてウラジーミルもその仲間に加わるようになる。ところがそんなあるとき、それまで女王のようだったジナイーダの様子が変わり、彼は彼女が誰かに恋をしたことを知る。16歳の少年の淡い初恋の記憶を描く物語。
原作を読んで分かったこと、それは映画が信じられないくらいに原作に忠実だったこと。特に前半はそのままだね。
映画では分かりづらかったのですが、この作品、ウラジーミルの初恋を描く一方で、ジナイーダの初恋もしっかりと描かれています。ウラジーミルが自身の恋心だけではなく、ジナイーダの姿からも大人の恋を学んでいくという作品なんですね。
ラストがやや重い展開ですが、作品としては非常に面白かったです。
映画を先に見てしまったのでどうしても、本を読んだときにもその映像がちらついてしまうんですが、映画はここまで原作に忠実なのに、何故、微妙だったのかなぁというのが不思議でなりません。もうね、単にストーリーをなぞってるだけなんだよね。映画のほうのレビューで書いたんですが、ジナイーダの気持ちがどうも伝わってきませんでした。
ところが原作では、ジナイーダの心の変化てのがかなり丁寧に描かれてるんですよね。あくまで、ウラジーミルの回想というスタイルなので、彼の目から見たジナイーダの変化ではあるものの、彼女の気持ちが伝わるのと伝わらないのとでは大違い。映画だと単なる女王様だったからね。まぁどっちにせよ、ジナイーダはなしだろ!と思う自分ですが。
終盤の衝撃の展開の後に、鞭が出てくるショッキングな場面があるんだけれど、映画だとここもなんだかよく分からずじまいだったんだけれど、こここそ、この作品の1つの要だよね。主人公の両親のことも映画だと曖昧な描き方だったけれど、やはり両親の人物設定もこの作品には欠かせない要素なわけだし。とにかく細かいところまで設定が上手い!
とにかく全編に亘ってみずみずしくて、美しいイメージで満たされていて、「青春」の苦しみ、戸惑い、喜び、怒りなど様々な思いが本当にキラキラと描かれていましたねー。
で、自分の初恋ってどんなだったかなぁ。とか思ってみたけれど、こんな文学的な要素はまるでないですね。
あと、この本が良かったのは、非常に読みやすかった点。あとがきによると、「です・ます」調の訳が画期的とのことなんだけれど、むしろ、「です・ます」調じゃないのは不自然なのでは?と感じるくらいにしっくりときました。古典新訳文庫はやはりレベルが高い!
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