映画「魔笛」
the mgic flute 2006年 イギリス (公式サイト) |
言わずと知れたモーツァルトの傑作オペラを、シェイクスピア映画でおなじみのケネス・ブラナーが映画化。都内での上映が今週までということだったので、いそいで見に行ってきました。こういう映画はやっぱ音響が命なので劇場で見たい!
舞台は第1次大戦中のヨーロッパ。若い兵士タミーノは塹壕の中で、毒ガスにやれそうになり倒れたところを、3人の従軍看護婦たちによって助けられる。彼女らは夜の女王の侍女で、タミーノの姿に一目ぼれし、このことを女王に報告するためにその場を立ち去る。目覚めたタミーノは、近くにいた鳥を飼う兵士パパゲーノが自分を救ったものと勘違いしてしまう。やがて、3人の看護婦達が戻ってきて、邪悪な王ザロストロにさらわれた女王の娘パミーナを救って欲しいとタミーノに頼む。パミーナの写真を見て一目で恋に落ちたタミーノは、パパゲーノとともにザラストロの城へと向かうのだが・・・。
舞台が1次大戦になっているというだけで、他は全てオペラのままです。映画自体がオペラと一緒で、一部の台詞をのぞいてほとんどが歌になってますし。オペラのまま恐らくカットなしの全曲演奏による完全映画化です。ただし全て英訳されてます。(←これも良し悪し)
「魔笛」はかなり好きな作品で、オペラのDVDも持ってて、好きな場面だけ見たり、CD聴いたりしてるんですが、そこに、シェイクスピア映画ファンにはおなじみのブラナー監督という、もう自分の中ではありえないくらいに最高の組み合わせによる映画化でした。ブラナー監督、シェイクスピア作品でも大胆アレンジをするときがあるけれど、今回も第1次大戦っていう設定に持っていったのはなかなか面白かったですね。
しかし、「魔笛」は音楽は素晴らしいものの、実は脚本に粗が多い作品。こうして映画化すると、それがくっきりと浮き彫りになってしまってましたね・・・。ストーリーにツッコミどころ多すぎ。これが初「魔笛」って言う人は恐らく何がなんだかさっぱりだったのでは?
さらに、ブラナー氏のかなり凝った映像の数々は、「ムーラン・ルージュ」みたいな感じのわざとらしい安っぽさが垣間見られるCG使いのキラキラとした演出なのは、面白くてよかったんだけれど、なんとなく、1曲1曲のPVみたいな雰囲気になってたような気も。それぞれの曲の演出に明確なテーマが垣間見えるも、「その曲に合わせて撮りたい映像」を寄せ集めたような雰囲気が感じられたのがちょっと残念。
うん、最初にも書いたけど、「魔笛」のストーリー、ツッコミどころ多いよね。映画にしてしまうと驚くほどにそれがくっきりしてしまうのが新たな発見。善悪がはっきりしないのとかはそういう作品だとして置いておいても、突如試練をはじめる唐突さはやはり謎です。そして、パミーナの感情の浮き沈みの激しさ!あと、少年達は一体どういうポジションなの?などなどツッコミどころがとにかく多い。「沈黙」してないじゃん!とか。
さて、今回の映画、全て英訳されてて、ドイツ語が分からない自分としては、英語歌詞はやはり非常に聞き取りやすいので、字幕と合わせて見ることで理解度がかなり上がります。英訳も結構工夫されてて、この英訳を意図的に都合よく訳して、「第1次大戦が舞台」てのを絶妙に表現してるあたりは、シェイクスピアの台詞を絶妙に解釈して舞台を別の場所にするというブラナーマジックの腕の見せ所でした。
しかし、英語にしてしまったことで、やはり歌に無理が生じていたようにも思います。歌い手さんたちもきっと歌いにくかったのではないでしょうか。当時、ドイツ語はオペラ向きではないてことで、オペラ=イタリア語だった時代に、ドイツ語でのオペラを作ろうとして完成させたのが「魔笛」だったはず。モーツァルトはドイツ語でしっかり映える作品として作っているはずなんですよ。なのに、それを英語にしてしまうのはやはりねぇ。
一部、歌が微妙な箇所もあって、それは英語になってるせいかなぁとか思ってみたり。まぁ一部キャストはそれを差し引いても、微妙な箇所がありましたが・・・。とりわけ少年達はもっと澄んだボーイソプラノを期待してたんだけどねぇ。ザラストロさんも、魔笛は当たり役ということなんだけど、ちょっと歌いずらそうな場面があったよね。ちなみに、この作品、歌のアテレコもちょっと微妙でしたね。明らかに口と声が合ってない場面がちらほら。
演出面の感想も。冒頭の序曲の部分、長回しで戦場を映していく映像がかなり良い感じでした。あと、夜の女王が戦車で登場というインパクトのある映像も、おーきたか!って感じで結構好きです。一方で、冒頭場面だと、大蛇が毒ガスになってしまったのがちょっと残念。なんともあっさりしちゃったなぁと。オペラだと、この大蛇の安っぽさ合戦みたいなのを見比べるのが結構好きなんだよね。
中盤でおぉーっと思ったのは、共同墓地のシーン。いきなりの日本語に苦笑しつつも、見ごたえのある映像だったなぁと。こういう場面を含めて、全般的に、結構、反戦色が強い演出だったのも印象的。まさに21世紀の魔笛。
あと、夜の女王の場面は全般にどこもかなり作りこんでて楽しかったと思いますね。彼女の登場シーンは好きな曲ばかりなので、こっちもワクワクして見ちゃいました。あとは、パパゲーノ関連のファンタジックな演出が良かったなぁと。
そうそう、今回の映画で面白かったのは、ザラストロが普通のおっさんだったこと。そして、オペラと明らかに違うザラストロ登場シーン。この解釈、結構好きですよ。ひっそりとウィンクしてたのも良かったね。
演出面での不満だと、一番気になったのは群集の演技が下手だったことかなぁ。市民オペラみたいな雰囲気だったよね・・・。
とまぁ、色々書いたわけですが、「魔笛」は以前からずーーっと映画にしやすそうだと思っていたので(まさか戦場が舞台になるとは思わなかったけど)今回の映画化は本当に嬉しかったわけですよ。不満点もあるけれど、映画館のスクリーンで英語だったとはいえ、全曲通して見られるのはやはり嬉しい。
で、帰宅して、オペラのDVDを自分の好きな曲だけ選んで見てしまったということも付け加えておきましょう。
さてさて、ケネス・ブラナーさん、次はいよいよ、京都が舞台という「お気に召すまま」ですか?何年待ってることか!!っていう話だよね。早く見たい!
余談だけど、ブラナーで戦場というと、「ヘンリー5世」は彼のシェイクスピア作品の中でも一番の傑作ではないかと思いますので、あわせてオススメですよ。
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