「幻の下宿人」 トポール
幻の下宿人 ローランド・トポール R. Topor 河出文庫 2007.9. |
フランスのサスペンス×ブラック・ユーモア×ホラーといった感じの作品。表紙イラストを見ると、ユーモア度が高そうなんですが・・・。
舞台はパリ。主人公の青年、トレルコフスキーは友人から空き室があるとの情報をもらい、とあるアパートを訪れる。やがて、前の住人である女性が自殺をはかったというその部屋に引っ越してきたトレルコフスキーは、友人達を招いて引っ越し祝いのパーティを開く。ところが、パーティの途中、夜遅くまで騒ぐ音がうるさいと近隣の住人達がクレームをつけにやってくる。そして、この日から、近隣の住人達による厳しい監視が始まり、できる限り音を立てぬように神経をすり減らすトレルコフスキーは次第に理性を失っていく・・・。という物語。
なんかリアルな怖さのある作品でした。
近隣との騒音問題ってのはどこの国でも身近な話で、そこを切り口にして、展開していくので、もしかしたらこういうこともあるかもしれないなんて思わせてしまう作品だと思います。次第にエスカレートしていく嫌がらせが主人公の妄想なのかと思わせつつ、そうでもなさそうな感じがする場面もあり、とにかく先が気になって一気に読んでしまいました。
途中までは、主人公が気を使って生活する様子がなんとなく気の毒な感じがする程度の描き方なんですが、途中から急展開を迎えて、彼が徐々にというよりかは、ガツーンと精神的な崩壊を迎えていく後半はとにかく読みごたえがありました。サラっとした一文でも、書かれてる内容がかなり重かったり。
あと、なるほどそう持ってきたかーと思わせるラストもとても秀逸。後味が悪いことこの上なしです。
この主人公、最初からちょいと変わったところのある人物像が描かれていたので、次第にエスカレートしていく彼の奇行もそれほど違和感なく受け止められるのも面白い。てか、変態ギリギリの場面も多い作品だよ・・・。まぁ、そのおかげで、もはや、怖いを通り越して、ちょっとユーモアさえ感じられるんですが。
こういうサスペンスとかホラーとかを見ると思うのは、怪物とかも怖いけど、「人間」を徹底して描く作品の怖さは半端じゃないなと。「妄想」とか「思い込み」にとりつかれた人間は本当に怖い。この作品では、主人公も住民達も双方にヤバイ思い込みにとりつかれている感じなので、もうハラハラドキドキもいいところ。
でもね、やっぱさ、いくら引越しパーティだとはいえ、深夜まで大騒ぎするのは良くないですよ。と最初に思ってしまうと、途中くらいまで、主人公に共感できず、近隣住民視点で読むことになるのでご注意を。
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