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2007年10月11日 (木)

映画「パンズ・ラビリンス」

el laberinto del fauno
(pan's labyrinth)

2006年

墨・西・米

以前、「ミス・ポター」のレビュー(コチラ)で、今年公開される映画の中で猛烈に観たい作品が2つあると書いたんですが、その1本はこれでした。今年のアカデミー賞のときに、その存在を知り、これは絶対に面白い!と確信して、日本での公開をずっと待ちわびていました。そんなわけで、ちょっと時間がとれたので、早速映画館へ。そういえば、スペイン語の映画を映画館で観るのは初めてだ!

舞台は1944年のスペイン。内戦は終了したものの、軍政に対し、ゲリラたちのレジスタンス活動が続いていた。主人公の11歳の少女オフェリアは、幼い頃に父を亡くし、軍の大尉ビダルの子を身ごもり再婚することとなった母とともに、大尉の家へとやってくる。

冷酷な軍人であるビダルを父と呼ぶことに抵抗を持ち、身重の母を気遣うオフェリアのもとを、その晩、妖精が訪ねてくる。誘われるままに、森の中にある古い迷宮を進んだ彼女は、そこで、牧神(パン)と出会う。牧神曰く、オフェリアは遠い昔に記憶をなくした地下の王国の姫であり、3つの試練を乗越えれば、王国へと戻れるのだと告げる。道を標す1冊の本を与えられたオフェリア。果たして、彼女は試練を乗越えることができるのか。そして、激化するゲリラたちと大尉率いる軍部の争いの行方は・・・。という物語。

「ダーク・ファンタジー」というのがウリのようですが、これ、ファンタジーなんだけど、戦争映画の色の方が強いですね。ファンタジー部分は3割くらいで、映画の大半は軍とゲリラの争いを取り巻く人間ドラマになっていました。

思った以上にグロ描写も多くて、大尉が冷酷な軍人ということで、とにかく痛い場面も多数ですし、虫のオンパレードですし、途中で出てくるファンタジー部分のクリーチャーの造詣も普通に怖いしで、11歳の少女が主人公の割りにちっともお子様向きではないんですが、「映画」としては、かなり良く作られていて、期待通りの傑作だったと思います。

うん、感じとしては、スペインの軍VSゲリラのドラマに「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とか「ディア・ウェンディ」的なテイストを加えたような作品ですね。万人にはオススメできないけれど、僕は結構好きです。でも何回も観たいと思うような作品ではないなぁ・・・。

さて、いきなり不満です。「パン」って何ですか!?しかも作中の字幕も「パン」!日本語にはちゃんと「牧神」ていう言葉がありますよ~。もはや、牧神のキャラクター名が「パン」であるかのような字幕は微妙でした・・・。「牧神の迷宮」でもいいと思うんだけどね。

関係ないけど、「ラビリンス」でファンタジーというと、懐かしい映画を思い出しますね。最近めっきりTV放映もしなくなりましたが、結構好きな作品です。

この映画、とにかく「痛い」映像が多くて、そういうのが苦手な自分は結構目を背けたくなるような場面もチラホラ。頑張って字幕のある画面下部に集中してみたり・・・。あと、作り物とは分かってるはずなのに、怖かったのは第2の試練の場面。まずね、クリーチャーの造詣が普通に怖い。あと、特に変わった演出でもないのに、やたらと緊張感が。こういうドキドキ感を映画で味わったのは久々。

この作品の肝はやはり、ファンタジーの扱い方だと思います。少女の夢なのか現実なのかもはっきりしない演出がとられているけれど、やたらと厳しい現実を誇張して描く「現実世界」部分と決して明るくはないファンタジー部分の距離感が独特。表裏一体みたいな雰囲気なんだよね。オフェリアと大尉も表裏一体みたいな気がしました。

一方で、ファンタジー部分はグロ系映像が多いけれど、そこはもっと、自分の努力とか行動がしっかりと評価される世界で、現実のほうがよっぽど不条理で恐ろしいなぁと感じられたり。

ただひたすらに厳しい現実の中で、幻想世界に身を寄せる少女は本当に「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と似てるんだけれど、この作品はもっとファンタジーにも現実性があるんだよね。ファタンジーの世界は単なる逃げ場ではない。おかげで、全編を通して、痛いし、グロいし、気色悪い映像のオンパレード・・・。

主人公が一瞬、「アリス」チックな服装をする場面があるんだけど、この作品ではすぐにその衣装が脱ぎ捨てられてしまうんだよね。そんなところも、この作品でのファンタジー世界の立ち位置が現れていたように思います。

ところで、主人公の名前「オフェリア」ですが、ハムレットのヒロインと同じ名前なんだよね。そういえば、オフィーリアも空想の世界に逃げていったような・・・。

この映画では、オフェリアの力強さと潔さも印象的でした。こういう少女が主人公のファンタジーって、もっと「少女のあやうさ」みたいなものを前面に押し出してくることが多いんだけど、この作品では、そういう描き方があまりみられませんでしたね。彼女のどこか堂々とした姿は恐らく、「自分が姫なんだ」という思いからくるものだったんじゃないかなぁと。背中のあざを見つけるシーンの表情も嬉しそうだったし。女の子は「姫」好きなんだなぁと勝手におもってみたり。

衝撃のラストは、どう受け止めたら良いのやら・・・という感じですよね。

(以下ちょっとネタバレなので反転させてどうぞ)

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラストは僕はハッピーエンドとして受け止められたけど、今回は、それを受け止めるのがとても辛い作品でした。それは恐らく、メルセデスたちの存在と、1944年以降の世界を知ってるからだよね。

現実は、確かに不条理だけれど、ゲリラの人々のように、自らの力で未来を切り開くこともできる。彼女がたどりついた王国は、望むものが全てあるのかもしれないけれど、あまりに切なくて苦しいよ・・・。

最後の試練、厳しすぎです。

<以上ネタバレ終わり>

今も世界では様々なところで争いが続いていて、そこに生きる子供達が存在するんだけれど、限りない空想の世界を持つ彼らが、現実も捨てたものではないな、大人になるって良いなと思えるような世界が訪れれば良いのになぁと、ちょっと陳腐かもしれないけど思いましたね。

ちなみに、映画館では上映終了後の空気の重さがハンパなかったです。誰一人として口を開かず、地上に出るためにのるエレベーターの中も、どよ~んとしてて、映画のインパクト以上に会場の空気のインパクトもかなりのものでした。

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