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2007年10月14日 (日)

「バラバ」ラーゲルクヴィスト

(書籍画像ありませんでした)

バラバ
(barabbas)

P. ラーゲルクヴィスト P・Lagerkvist

岩波文庫 1974.12.

数年前に「巫女」という作品を読んで、かなりの衝撃を受けたスウェーデンのノベール賞受賞作家の作品です。「巫女」の衝撃がかなりのものだったので、他の作品も読みたいなぁと思ってるうちに時間ばかりが経っていたのですが、ついに読んでみることに。

主人公バラバは死刑を宣告されていた大悪党。ところが、ある男が磔刑になることになり、彼はその代わりに釈放されてしまう。バラバはゴルゴダの丘での処刑を見守り、その後、自分の身代わりに処刑されたその男のことが気になり、様々な人に話を聞くようになる。やがて、その男が人々から神の子、救世主としてあがめられていたことを知るバラバ。奇跡や神の存在など信じぬバラバは半信半疑にその男の話を聞いて回るが、やがて、彼自身の運命も意外な方向へと展開していく・・・。という物語。

どうやら聖書の中にちょっとだけ名前が出てくる、イエスの代わりに釈放された男というのを主人公に据えた作品のようですね。キリスト教的な知識があればもっと理解が深まるのだろうけど、キリスト教徒ではないからこその読み方もできる1冊で、「巫女」に続いて、かなりの傑作でした。

ノーベル文学賞は伊達にとってないですね。すごいよ。しかもね、「巫女」もそうだったんだけど、普通に物語が面白いんですよ。こんなに面白い上に奥が深い作品というのはそうそう無いと思います。

主人公バラバは神など信じない男で、イエスの信奉者たちの話をきいても、奇跡なんてありえないとどうしても受け入れることができずにいるんですが、これは、我々、無宗教とされている大半の日本人から見れば、とても感情移入しやすい人物像だなぁと思います。人々の話を聞いたときのバラバの反応はまさに納得の反応ですし。

しかしながら、一方で、何かが気になるんですよね。人々の話を聞いては、それはないだろと思うのに、なぜか気になって仕方がない。

バラバ自身、神どころか、恐らく人間さえ信じていないような男で、その一方で、皆が心のそこから信頼を寄せる救世主というものが存在することが恐らく不思議でならなかったんだろうね。しかも自分が見たその男はただの痩せ衰えた男。それなのに、信仰を貫くために命を落とすものでまでいるなんて、一体どれだけの信仰心なんだろうと。これもやっぱり、無宗教な人間から見れば、当然のように、共感できる思い。それだけにバラバの辿る数奇な運命にこちらも目が離せないというような1冊でした。

イエスは人々の罪を一身に受けて磔刑になるわけですが、バラバという男は、それによって死刑囚だったのが釈放されてしまうという、唯一、直接的な恩恵を受けた男なんですね。しかし、自らの代わりに刑を受けた男が救世主として崇められていたというのは、あまりに荷が重い。当然のごとく、キリスト教徒たちのバラバへの視線も冷たい。これは、釈放されたとはいえ、結局は、バラバ自身も思い十字架を背負ってしまったという感じですよね。それはそれで重いよなぁと思います。しかもバラバは「愛」を知らない男だし。

ラスト、バラバ自身の最期が描かれるのですが、ここも圧巻。そして、彼が最期に残す言葉とは。もうね、読んでくださいとしか言えないです。

正直、面白いけど、初期キリスト教に関する知識も乏しいし、キリスト教の教えなどにも疎いので、ただでさえ奥深い作品がより難しくなってしまい、何度か読まなければ深い部分まで到達できないと思うんですが、色々と考えさせられる1冊でした。

この作品、映画化もされているんですよね。どんな感じなんでしょうかねぇ。ちょっと気になります。

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コメント

おひさしぶりです。
これは私も先ごろ読んで感銘を受けた作品です。
これはキリストの時代の物語でありながらきわめて現代的な「無神論者」を扱った作品で、バラバは神を信じたいけど信じきれない現代人の象徴だと思います。
非常に奥深い作品なので、「何度か読まなければ深い部分まで到達できない」には激しく同意です。
ただ私の持っている本はあまりにも古くて読みにくい(1965年発行の岩波現代叢書)ので、新訳でも出ないかと思わずにいられません。

投稿: piaa | 2007年10月16日 (火) 12時00分

>piaaさん

コメントどうもありがとうございます!

キリスト教をとりまく事情に疎い自分としては
このように無神論者を扱う作品が
ヨーロッパ圏で書かれるというのが少し意外だったのですが、
本当に奥深い作品でとても面白かったです。
自分が無宗教だからこそ、理解共感できる部分もあるのですが、
それだからこそ、最後の最後の核心的な部分に
たどり着けないような気がします。

自分は岩波文庫版を読んだのですが、恐らく同じ訳ですね。
おっしゃられるように、新訳があるといいですね。
それこそ、古典新訳文庫あたりで。

ラーゲルクヴィストは以前読んだ「巫女」という作品も
とてもよかったので、未読でしたら是非!!

投稿: ANDRE | 2007年10月16日 (火) 23時08分

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