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2007年10月 2日 (火)

「雪沼とその周辺」 堀江敏幸

雪沼とその周辺 (新潮文庫 ほ 16-2)

雪沼とその周辺

堀江敏幸

新潮文庫 2007.7.

芥川賞作家の堀江氏の連作短編集。堀江氏の作品は文庫化したものは全部読んでいて、結構お気に入りの作家なので、今回も迷うことなく購入。解説が池澤夏樹なのもポイント高し。

まさにタイトル通り、雪沼という地域を舞台にした7つの短編が収録されています。表題作があるわけではなくて、このタイトルは本当にこの短編集だけのタイトル。こういうのって最近は少ないから貴重ですよね。

全体的な感想としては、うまくまとまってるなぁと。堀江氏って、仏文学を題材にとって、文学作品の解説を物語に織り込むようにしてエッセイ調のフィクションを書くのが非常に上手くて、初期の作品はほとんど全てそのスタイルだったんですが、普通の小説も良いものが書けるようになったんだなぁという印象でした(何様なんだか)。ちなみに、白水Uブックスから出てる初期作品も僕は結構お気に入りです。

全般的にどの作品も、「自分自身に向き合ったとき、ふと過去のできごとがフラッシュバックして過去が蘇った一瞬」を見事に切り取っているというのが共通点で、「人間」を温かく見つめている印象の作品集でした。主人公が全員「さん」づけなのも良い。ただ、どの作品も雰囲気が似てるんだよね。それがちょっと難点かな。

では各作品に1つずつ短くコメントを。

「スタンス・ドット」
閉店最後の夜のボーリング場を舞台に描かれるオーナーの物語。隙がない短編ていう印象です。この短編集の中では1番好き。

「イラクサの庭」
町から越してきて小さな村で料理教室を開いていた老婦人が亡くなり・・・。堀江氏お得意の文学作品ネタを絡ませてくる一編でしたね。この手法はもはや天才的に上手い。

「河岸段丘」
小さな工場と傾きと。これも読んでいるうちに、その場面に自分がまぎれこんでいるような錯覚を覚えました。

「送り火」
書道教室を開いている夫とその妻の物語。切ない作品でしたね。この主人公の陽平さんていうキャラクターが結構好きです。

「レンガを積む」
レコード店を営む背の低い男の物語。これね、自分が以前CD屋でバイトしてた経験があるので、なかなか楽しんで読んじゃいました。こういう店いいなぁ。

「ピラニア」
いつもは麺は食べないんだけれど・・・。他の作品もなんだけど、タイトルのつけ方がどれも絶妙だよね。なぜこういうタイトルなのかが分かった瞬間にはっとなる作品が多い。

「緩斜面」
消火器売りと凧あげと。ラストの余韻が作品全体の余韻につながりますね。

て、1つずつコメントした割りにたいしたコメントじゃないですね・・・。

どの作品も、ラストの切り方が絶妙で、メインになってるエピソードは、尻切れトンボともいえそうな勢いでプツリと終わってしまうものも多いのだけれど、その、終わらせ方が本当に上手いなぁと思いました。ちょうど良い余韻を与えてくれるギリギリのところで本当に上手くプツリと物語が終わるんです。次の作品に進む手をちょっと置きたくなるような独特の感触がある短編集でした。

さらさらと流し読みをしてしまったら、どの作品も「ふーん」て感じで終わってしまうんだろうけど、この丁寧に丁寧に綴られていく物語を、読み手の我々も丁寧に丁寧に読んだ瞬間に、何かがフッと心に残るというオススメの1冊です。

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