「旅のラゴス」 筒井康隆
(書籍画像がありませんでした) | 旅のラゴス 筒井康隆 新潮文庫 1996 |
今から20年ほど前にかかれた筒井氏のSF小説。よく行く書店にオススメのポップが出ていて、それにひかれて購入しました。この書店の店員さんは読書の趣味が近いのか、僕の好きな本には大抵ポップがついてるというお気に入り書店です。
舞台は、地球によく似た感じのどこか。遠い昔に高度な技術が存在したような気配を感じさせつつ、不思議な能力を持った人々が、どこか牧歌的な空気を感じさせながら生きる世界を、ラゴスという男がひたすら旅を続けるという作品。集団転移、壁抜け男、鉱山、図書館、宇宙船など様々なものに出会いながら、若者だったラゴスも年を重ねていく・・・。
筒井作品は、「時をかける少女」「七瀬ふたたび」「文学部唯野教授」など代表的なものは中高の頃によく読んでいたものの、このブログでほとんどレビューがないことからも分かるように、本当に久々に読みました。調べたところ、4年前の「残像に口紅を」以来ですね。
で、なぜ今までこれを読んでいなかったのかと酷く後悔しました。これ、素晴らしい作品じゃないですか!もっと若い頃に読みたかったよ!!なんか、読んでいて、とてもすがすがしい作品でした。
世界観が初期ジブリのナウシカとかラピュタとかを想起させて、いつの間にか、作中に出てくるウマのイメージはヤックル、ラゴスはユパ様になってました・・・。読めば共感していただけると思います。
ラゴスの続ける旅が、予想以上に一つ一つの村でのできごとが長いスパンで描かれてるのがこの手の作品としては珍しいなぁと思いました。普通に、10年くらい一箇所にとどまってますからね。なので、それほどの長編でもないのに、作品を通して、ラゴスという人物の生涯が描かれていくのが面白かったですねぇ。
一つ一つの村でのエピソードがなかなか面白くて、この辺は、カルヴィーノの「見えない都市」なんかを思い起こさせてくれたりして(全然違うんですけど)、SFとしての魅力にもあふれていると思いました。
でも、「壁抜け男」とかオチも含めて、完全にどこかで見た話ですけどね・・・。他にも既視感のあるエピソードもちらほらするんですが、この作品では、エピソードの魅力と同時に、登場する人物たちもまたとても魅力的なので、そんなのもあまり気になりませんでした。あと、割と1つ1つが短めなので、サクッとテンポ良く話が進んでいくのもエンターテイメントしていて面白かったです。しかも短編としての完成度が高い。彼の人生、波乱万丈もいいところだ。
「旅」って、楽しいんだけど、どこか、淋しさを持っていると思います。この作品でも、常に哀愁とでもいう雰囲気が全体を貫いていて、どこか懐かしく、切ない気持ちが感じられました。「旅」の持つ様々な魅力をもまたググッと描ききっているように思います。そこに「人生=旅」というような意味合いも感じられてくるも、説教くささがなくて、エンターテイメントに徹しているのも良い。
ラストの余韻もまさにそれまで読み進めてきたラゴス像を壊すことなく、読み手の想像力をググッとかきたてて終わるのも良かったなぁと思います。
作品の世界観、扱われてるテーマなど、恐らく、この作品は、文化も時代も越えて普遍的に人々から愛されるような力を持っているのではないかなぁと思います。時代性ばかりを追った作品が目立つ昨今の文学界において、稀有な作品なのではないでしょうか。
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コメント
最近、久しぶりに小説を読むようになりました。
世界観がなかなかいいものの、なんかあっさりした感じでした。
どうも私は、熱いもの謎が解明されるような話を好むようです。
投稿: TK | 2008年11月 3日 (月) 17時00分
>TKさん
TB/コメントどうもありがとうございます。
独特の世界観で壮大な物語にしては
ページ数の少ない本ですので、
確かに全体的にあっさりしてたかもしれませんね。
でも個人的には結構お気に入りです。
映像化して欲しい作品ですが、
きっとされたらされたで不満がいっぱい出るんだろうなぁと思います(笑)
投稿: ANDRE | 2008年11月 3日 (月) 22時35分