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2007年11月16日 (金)

「うさぎとトランペット」中沢けい

うさぎとトランペット (新潮文庫 な 46-2)

うさぎとトランペット

中沢けい

新潮文庫 2007.6. 

同じ作者の「楽隊のうさぎ」(レビュー)を思わせるタイトルですが、同じ世界を舞台にした続編的作品。

主人公は耳がよくて、様々な音を聞き、感じることのできる小学5年生の少女、宇佐子。毎朝近所の公園から聞こえてくるトランペットの音にひかれた宇佐子は早朝に家をそっと抜け出して、公園まで散歩に行くようになる。同じ頃、同じクラスで皆に馴染めないでいる大人びた転校生のミキちゃんと親しくなり、クラリネットを習っているという彼女に連れられて、市民吹奏楽団の世界に足を踏み入れることになって・・・という物語。

「楽隊のうさぎ」と同じ世界の数年後が舞台で、「楽隊のうさぎ」の中学生達も、少し成長して登場してました。

「楽隊のうさぎ」は音楽を演奏する側が主人公だったけれど、この作品の主人公である宇佐子は、あくまで吹奏楽団の傍観者で、前作とはまた少し違った視点になってるのが面白かったです。主人公が耳の良い少女ということで、「音」の描写がより洗練されていたように感じました。

あと、相変わらず音楽経験者には嬉しい描写がたくさんなのも良い。

音楽ネタがメインというわけでもなくて、主人公を取り巻く様々な人間関係が非常に多角的に描かれていて、単なる音楽小説ではなくて、1人の少女とその周辺の人々の成長を丁寧に描いているのも良かったですね。

ただ、「楽隊のうさぎ」のときにも感じた、この作者独特の文体はやっぱりちょっと苦手。

この人の文章、視点がどこにあるのかがよく分からないんですね。登場人物の名前の書き方も、呼び捨てになってるときがあったり、「君」がついてるときがあったり、フルネームで呼ぶときがあったり、名字だけのときがあったり。その都度その都度違う人物の視点で書いてるのかなぁと思いつつ、どう考えても「神の視点」であったり。

なので、読んでいて、視点がとらえられないだけに、感情移入しずらくて、不思議な感じの混乱に陥ることもしばしば。慣れの問題なのかもしれないけど、自分はちょっと苦手です。

あと、主人公の周辺の人々を丁寧に描くだけでなく、吹奏楽団の人々にも焦点をあてようとした結果、特に吹奏楽団関係の人間ドラマがちょっとぼやけてしまったような印象も。前作の人物達のエピソードなんかがこの作品のエピソードの流れをちょっと乱しているようにも感じられたし。

そんなマイナス面もありましたが、基本、面白い作品でした。

やっぱり、「楽隊のうさぎ」のとき同様、高校・大学と音楽系部活・サークルで、市民団体の活動にも参加したことのある自分としては、「分かるー!!!」と思う場面がたくさん出てくるのが嬉しいんですね。

自分は吹奏楽ではないんだけど、それでも音楽系団体にいた人ならば共感せざるを得ない描写の数々が今回も良かったです。先生が代わって、部活の雰囲気が代わるとかね。本番の日に革靴忘れてくる人とか本当にいるしね。細かいところが非常にリアル。

ただ、前作は音楽系部活のコンクールに向けた練習とかの描き方が非常に面白かったんだけど、今回はあくまで、傍観者の宇佐子が主人公なので、音楽の演奏の描写については前作にはかないません。逆に、今回は「人間関係」を描くのが中心になってるので、そもそもの作品の雰囲気もちょっと違うんだけどね。

作品の中では主人公の成長が特に大きく描かれているけれど、主人公以上に友人のミキちゃんの成長が感じられる、後半の場面がとても好きでした。ちょっとした台詞なんだけど、確実に彼女の成長が感じ取れて、とても良い場面でした。

最後に装丁的な不満。

「楽隊のうさぎ」の文庫の表紙と統一性のあるデザインだと嬉しかったなぁ何て思いました。

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