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2007年11月28日 (水)

映画「サン・ジャックへの道」

サン・ジャックへの道

Saint Jacques... La Mecque

2005年

フランス

劇場公開時から見たかったフランス映画。監督は「赤ちゃんに乾杯!」や「女はみんな生きている」のコリーヌ・セローで、フランス~スペインにある1500キロの巡礼の道を9人の主人公達が歩くというロード・ムービーです。

亡くなった母の遺言で、遺産を相続するためには兄弟で巡礼の旅をすることになった3人が主人公。高校で国語の教師をする現実主義者の堅物長女クララ、社長業のストレスで薬が手放せない長男のピエール、仕事もせずにフラフラと酒と女を楽しむ末っ子クロードの3兄弟は、遺産をもらうためにと嫌々旅に参加。3人が参加するウォーキングツアーには他にも、個性豊かなメンバーたちが参加していて、ガイドを合わせて9人でゴールを目指して巡礼の旅を続けるという物語。

3兄弟以外のキャラもそれぞれに魅力的で、親に言われて渋々参加した2人の女子高校生。思いを寄せる彼女が参加すると聞きつけて、従兄弟を誘って自分も参加したアラブ系男子高校生。その従兄弟は、巡礼の目的地がメッカだと信じて最愛の母からお金を借りて参加している難読症の少年。癌の治療を終えて旅に参加し、いつも頭に布を巻いている女性。そして、自分の仕事中に妻が浮気をしていることを知っているガイドの男。以上のメンバーが会話を重ねながら大自然の中を歩く。

これは、思ってた以上に面白かった!!日本で言えば、わけありの人々がみんなでお遍路をするような感じでしょうかね。

それぞれの過去は最低限にしか語られないで、旅を通して9人が成長していく様子を皮肉とユーモアをたっぷりからめて描いていて、ただ巡礼をするだけの話なんだけど、最後まで十分に楽しめました。宗教、人種なんていう問題に対してピリリとスパイスがきいてるんだけど、それを重くしないで、ユーモアにくるんでしまってるのも良い。

ちょっと欲を言えば、せっかくの綺麗であろう景色があまり堪能できなかったのが残念だったかなぁ。

さて、この作品で面白かったのは「巡礼」を扱っているのに、宗教そのものに対して懐疑的な立場をとっている点。キリスト教の巡礼地をイスラム教徒の少年が勘違いして歩いているというのもとても皮肉的。そして、この作品に出てくる聖職者たちがとにかく冷たい。願い事は捨てるし、鍵は投げるし。

じゃ、彼らの「巡礼」とは一体何なのか?ということになってくるんだけど、3兄弟に関して用意されているゴール地点がとても面白い。なるほどそうきたか!という感じです。自分自身を見つめる旅の最終地点で行きつく先はやはりそういうことになりますよね。上手いなぁ。

登場キャラで印象的だったのは難読症の少年。彼に用意されている結末は非常に複雑だけれど、彼は失ったものも大きいけれど、それ以上に得たものが大きかったのかもしれません。彼が巡礼の旅を通して、手に入れたもの、我々にとっては当たり前のものかもしれないけれど、彼にとってはメッカに行くのに値するくらいの貴重な宝だったのだろうと思います。彼と3兄弟もうまく対比されてて、その辺も無駄がないんだよね。

あとは旅の途中で出会う面白キャラの数々は最高でした。3人組とか、キザ男とか。たっぷり笑わせてもらいましたね~。

フランス人ってよく喋るんだなぁってのを見ながら感じちゃいました。彼ら歩いてる間中、ずーーっと会話を続けてるんだもん。これ、邦画だったらもうちょっと寡黙に歩き続ける場面が挿入されるんだろうね。でも良く喋るからか、そのおかげで、皆の連帯感も高まったというか。単に「歩く」という行為を皆で共有するだけではそこまでの連帯感は得られないというのがお国柄なんだろうね。日本映画、「深呼吸の必要」とかは無言で作業を続ける中に皆の連帯感を感じられる作品だったので、そういうところを見比べてみると面白いかも。

携帯電話のシーンとかあからさま過ぎる皮肉演出はちょっとやりすぎかなぁとは思ったけれど、フランスも日本も現代社会の抱える悩みは同じなんだなぁというのも実感できて、その辺りは面白い。

作中に出てくるやたらとシュールな夢の映像の数々は、登場人物たちの心象風景を上手く(?)切取ってはいるんだけど、最終的にシュール映像のインパクトが強くて、雄大な自然映像をそこまで満喫できなかったってのがやっぱり不満点としては残っちゃうかなぁ。

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