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2007年11月 6日 (火)

映画「アメリカン・ピーチパイ」

アメリカン・ピーチパイ

she's the man

2006年

アメリカ

「ヘアスプレー」(レビュー)でキュートなペニーを演じるアマンダ・バインズの主演作。とても微妙な邦題がついてる未公開作ですが、とある理由で昨年の全米公開時からずーーっと観たくてしかたなかった作品。日本未公開な上にDVDリリースの兆しさえなかったので、今回ようやくリリースされて本当に嬉しい1本です。

主人公のオリヴィアはサッカー大好きな女子高生。ところが学校の女子サッカー部が廃部になり、男子サッカー部への編入は拒否されてしまう。そこで、双子の兄セバスチャンがバンドに夢中で、転校以来一度も学校へ行かずにずっとサボっているのをいいことに、彼の通うイリリア高校に男装して潜入し、そこのサッカー部に入部することに。

うまく男装してセバスチャンになりすまし、イリリア高校にやってきたオリヴィアはやがてルームメイトであり、サッカー部仲間のデューク・オーシーノと親しくなり、彼に思いを寄せるようになる。ところが、デュークは学校のアイドルで現在失恋のショック中のオリヴィアに片思いをしていて、男装したヴァイオラに2人の仲を取持って欲しいと頼んできて・・・。果てさて、不思議な恋の3角関係の行方は?そして、ヴァイオラはサッカー部で活躍することができるのか?という物語。

僕がこの映画を観たくて仕方なかった理由、分かる人は太字部分で既にピンときたはず。そう、これ、オープニングのクレジットに「inspired by "Twelfth Night" by William Shakespear」 の文字が出ることからも分かるように、シェイクスピアの「十二夜」を翻案した作品なんです。「十二夜」の熱狂的ファンといっても過言ではない自分にとって見逃すことのできない1本なわけです。

この映画、面白いよ!この手の映画としては久々に凄く面白い。ティーン向けの下らないアイドル映画とか思う人もいるかもしれないけど、それは大きな誤解。全編に亘ってシェイクスピアへのオマージュに溢れてるし、テンポの良い脚本はコメディ満載なのに緩急のつけ方が上手いし、非常に明るく爽やかな作品で気持ちが良い。

アメリカではそこそこにヒットしたのに日本未公開だった上に、こんな、パクリっぽい微妙な邦題を与えられて、非常にもったいない作品だと思います。てか、この邦題は普通になしだろ。大体「ピーチパイ」って何ですか?っていう。あぁ、このタイトルと表紙デザインのせいで、完全に観る人を限定してるのが本当にもったいない。「ピーチ」の「ピ」の丸を桃にしたりしなくて良いので、もっと気の利いた邦題を考えて欲しいところです。

「十二夜」が原案とはいえ、色々とアレンジされているので、実際はオリジナル要素もたくさんのこの作品。デュークが実は超繊細純情少年だったというのがなかなか面白いです。割と天然なキャラだったのも良かったね。そうそう、男性陣が高校生にしては老けてるなぁと思ったら、やっぱり皆さん20代後半でしたね・・・。いくらアメリカの高校生が日本人よりも大人っぽいとは言え、彼らにはフレッシュさがあまりなかったなぁと。でもその分、安定した演技が見られたように思います。

ヒロインのヴァイオラは、「ヘアスプレー」ではめちゃめちゃキュートにペニーを演じてたアマンダ・バインズが、こちらでは、めちゃめちゃボーイッシュなヒロインを熱演。表情がころころと変わるのが観ていて面白い。彼女の表情七変化が物語をかなり盛り上げてくれます。男装ものではもう過去何度となく繰り返されてるだろうおなじみのギャグもたくさん出てくるんだけど、彼女の表情のおかげで、そういうシーンも展開が分かっててもついつい笑っちゃいました。

あと、「お前ら、気づけよ!」っていうのも、ここまで来ちゃうと、それがまた面白くなっちゃって、許せちゃうよね。

その他の出演者たちも、みんながとても楽しんで演技してる感じで見ていてとても気持ちの良い作品でした。笑いどころも多いしね。

観ていて、面白かったのは、現代のアメリカでも社交界デビューみたいなイベントがあるってこと。高校を舞台にした作品って結構あるけど、こういうのが描かれることってあまりないですよね。社交界マダムたちと元気いっぱいの女子高生たちとの対比も面白かったね。

あと、びっくりしたのは、お祭にある「キス」イベント。女子高生たちがボランティアで、チケットを買った男たちとキスをするっていう・・・。しかも口。こんなの本当にやってるの!?かなりのカルチャーショックです。さすが欧米。

* * *

以下、ちょっとディープに「十二夜」話。

さて、「十二夜」が原案ということもあり、「十二夜」ファンにはたまらない場面が目白押し。

トービー、フェステ、アントーニオなどちゃんとみんなキャラクターの名前に使われてるんだよね。マルヴォーリオには、「おぉ、こうきたか!」って感じでしたよ。「映画では男装した主人公がセバスチャンを名乗るんだけど、「十二夜」でヒロインが使うセザーリオもちゃんと登場。

あと、「十二夜」では外せない黄色い靴下もひっそりと登場してるし。細かいなぁ。

この映画、主人公がイリリアで過ごすのは13日間。寮で過ごしたのが12晩ってことですよね。ちゃっかり粋な計らいじゃないですか。

このほかにも、「ストラトフォード」とかシェイクスピアならではのキーワードがところどころに散りばめられていて、それを探すのも楽しい作品でした。「十二夜」の手紙の中の言葉がそのまま台詞に使われてたし。

原作「十二夜」は、喜劇なんだけど、最後にどこかしこりを残して、決して明るいままで終わる話ではないんだけれど、この映画ではそういった要素は全部排除して、徹底して明るい青春映画になっていました。まぁ、高校を舞台にした青春映画だったら、これは仕方ないなぁとは思うけど、「十二夜」として考えると、ちょっとスパイスが抜けた印象かなぁ。

あと、ヴァイオラが途中から乙女モード全開の行動を取り始めるのが「十二夜」との大きな違いですね。「十二夜」のセザーリオ君はもっとオーシーノに忠実だよね。今回の映画はダイレクトに自分の欲望のままに行動しちゃいますからね。さすが現代アメリカの高校生だね。

シェイクスピア作品を現代の高校を舞台に置き換えるというと、他にもオセローを翻案した「O(オー)」(レビュー)とか、じゃじゃ馬ならしを翻案した「恋のからさわぎ」があるけど、そういった作品と比べても、この映画は完成度が高かったように思います。原作からの乖離度もかなりのものだけど。

この映画を観て「十二夜」に興味を持ったら、是非観てもらいたいのが、トレバー・ナン監督の映画「十二夜」。これはね、もうね、文句のつけどころのない映画化ですよ。シェイクスピア映画ではダントツにナンバー1で好きな作品です。

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