「介護入門」モブノリオ
介護入門 モブノリオ 文春文庫 2007.9. |
芥川賞受賞作は文庫化したらなるべく読むようにしているんですが、どうにもアクの強そうな作品なので、しばらく積読になっていた1冊です。
表題作を含め全部で3作品が収録されていますが、やはりメインは芥川賞作品である表題作。
会社を辞め、仕事もせずに実家で暮らし、大麻と音楽に思いを馳せつつ寝たきりの祖母の介護をする30手前の青年の現代社会、マスコミ、介護士たち、親戚、そして自身への辛辣なぼやきを、「YO朋輩!」とラップ調のビートにのせて描く作品。
なんかぱっとした見た目はラップ調文学みたいな感じで斬新な雰囲気があってそこにばかり目がいってしまうけど、実際に読んでみると、なんだか普通に純文学でした。「芥川賞」も素直に納得。
ぼやき系の言葉がつらつらと続くのは笙野頼子の作品なんかも髣髴とさせるんですが、笙野さんの言葉にやたらと実感がこもった心の声という感じなのに対して、モブノリオのほうが、スタイリスティックな書き方になっているように思います。ラップ調だからかもしれないけど。あと、改行無しはやっぱり読むのが大変。
ただ、著者自身が介護をしているからこそのリアルな描写や意見もところどころに散りばめられていて、自分のようにぬくぬくとした生活を送っている若者には学ぶところも多かったです。
あと、ラップ調なんですが、単に僕がラップにそれほど馴染みが無いからなのか、文をテンポよく読もうと試みるも、上手くリズムに乗せて読めなくて、せっかくなら、掛詞とか韻を踏んだりとかでもっともっとラップ調で書いてもらいたかったなぁとか思ってみたYO朋輩!
そもそもアメリカのラップとかの歌詞ってこういう感じで、社会への不満なんかを辛辣に風刺して言葉でまくしたてるような曲が多いけれど、日本では単に「かっこいい」ということで、歌詞の意味も知らずにビートだけを楽しんでる若者が多いと思います。そんな中、本来のラップを感じさせる内容だったことで、この文体への違和感もそれほど感じなくなりました。
読んでいて思ったのは、彼が自分の身の回りに厳しい意見を飛ばせば飛ばすほど、彼自身の心の寂しさのようなもが感じられる気がしました。ラップという形でしか表せない言葉の数々もなんだか切ない。祖母への愛に溢れた作品ではあるけれど、祖母は恐らく長くは生きられないだろうし、祖母の死後の彼のことを思うとちょっと切なくなる、そんな作品でした。
同時収録されている作品を見てみても、モブノリオ氏はメッセージ性をかなり前面に出してくる作家のようで、その辺りでちょっと好き嫌いが別れそうだし、僕もちょっと苦手だけれど、今後どのような作品を発表するのかがちょっと気になる作家でもあります。
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