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2007年12月30日 (日)

映画「その名にちなんで」

 その名にちなんで (特別編)

the namesake

2006年

アメリカ・インド

先日原作を読んだ「その名にちなんで」の映画版が先日から公開になったのを観にいきました。今年最後の映画館映画鑑賞です。(原作の感想はこちら

主なストーリーは原作通り。

アシマはアメリカの大学院に通うアショケと結婚し、インドからアメリカへとやってくる。慣れないアメリカでの暮らしに不安を感じるアシマだったが、やがて2人の間には長男が誕生する。インドでは公の名前と家庭使う愛称とがあり、生後すぐに正式な名前をつけるという習慣はなく、2人もインドの祖母に名づけを依頼していたのだが、アメリカでは生後すぐに名前を登録しなければならず、アショケは、息子に、自分の人生において、忘れることのできない大切な作家から、「ゴーゴリー」という名を息子に与える。

2人の間には娘も生まれ、幸せな日々を過ごすのだが、やがてアメリカで生まれ育った子供達との間に、様々なギャップが生じるようになっていく。成人したゴーゴリーは自分の名を嫌い、「ニキル」と改名し、友人達からは米国式に「ニック」と呼ばれ、新たな人生を歩もうと決心するのだが・・・。

原作では、主にゴーゴリーにスポットライトをあてつつ、他の登場人物たちも丁寧に描いていたのですが、今回の映画版では、恐らく監督のミーラー・ナイール(「モンスーン・ウェディング」の方ですね)が自身と重ね合わせて、アシマのほうに焦点をあてて映画化しているように感じました。

そのためか、特に原作前半部分がごっそりとカットされていたり、後半もゴーゴリーの出会う女性達の描き方がなんとなく中途半端だった一方で、原作にはないシーンを挿入してアシマの心を描いたりしてましたね。

原作は長編なので、完全映画化というわけにはいかないでしょうが、割と物語の人物設定に重要な場面がカットされてたり、「祖母からもらう予定の名前」がどうなったのかが分からずじまいだったりと、映画だけで見た人にはとても不親切なのではないかと思う場面もちらほら。

原作モノではありながらも、そこに監督の思いやメッセージがぎゅっと詰め込まれているのが感じられて、原作を少し違った切り口で映像化しているという点では、とても良い映画化だったのではないでしょうか。でもやっぱり、カットの仕方が気になっちゃうんですよね。

ちなみに映画自体も前半がちょっと淡々としすぎている上に、説明不足感があってやや退屈な印象があったんですが、後半は同じように淡々とはしているものの、この作品の方向性が見えてきて、非常にはまりこんでしまいました。

今回の映画では、上記のように子供時代を結構大胆にカットしてしまったので、その結果、この作品のタイトルの由来でもある、ゴーゴリーの揺れるアイデンティティが表現されきれていないように思いました。でもって、それ故に、マクシーンとモウシュミの描き方もなんとなく中途半端になってしまったように思います。

原作を読んで、自分が一番感銘を受けた部分だったので、その点に関してはちょっと残念。

しかし、この映画では、ラストに母親の名前の意味を提示していて、そこで、「あ、この映画はアシマを描きたかったんだな」ということを強く印象付けさせられたわけです。アシマが関連するシーンの取捨選択は非常に良いですし。そんなわけで、ラスト近くはなんだか胸がいっぱいになり、ちょっとウルウルきちゃった次第です。

異国の地で子供を生み、育て、「まるで外国人のような」自分の子供達の成長を見守り、やがて新しい人生を歩みはじめるアシマの姿はとても印象的でした。

あと、原作では文字からの情報しかなくて、想像の限界があった、インドの風景の数々を実際に映像で見れたのはとても嬉しかったです。とりわけ、原作以上に深いシーンに仕上げていたタージ・マハルの撮り方が非常に素晴らしくて、過去に見たどの映像よりも、タージ・マハルに行ってみたくなりました。

原作と映画が、同じ内容ではありながらも、ちょっと見る視点が違っているのがなかなか面白い作品なので、映画をご覧になった方は原作もあわせて読まれることをオススメします。原作では各登場人物の心が本当にきめ細やかに描かれていて、そこに、ゴーゴリーの葛藤が上手い具合に溶け込んでいて、またちょっと違った感動が味わえますよ。カットされたエピソードも印象的なものばかりですし。

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コメント

ANDREさん、こんばんは。
お忙しい日々をお過ごしですか。

長編小説の映画化は、
どこを生かしてどこを大幅に削るかが監督の腕の見せ所であり、
描きたい対象がよくわかるところでもありますね。
小説には小説の、映画には映画のそれぞれのよさがあって、
どちらも違う意味で好きになれたら、嬉しい出会いになりますよね。
映画では、アシマの視点が強調されていたとのこと。
ここまでのギャップはないにせよ、
巣立った子たちを持つ母としては、自分がこれからどう生きてゆくのか、
まだまだ長いに違いない自分の人生と自分の物語がどこへ行くのか、
これまでとは違った目で、自分を見ることになる気がしました。

ANDREさん、『わたしを離さないで』が映画化される、と
ある映画サイトで見たのですけど・・・
もし本当だったら、どんな感じに作られるのでしょうね。
『日の名残り』、小説も読みましたが、
一人称の視点と、第三者的に描く映像との違いがあるのに、
どちらもそれぞれの良さがあって、どちらも好き。
すっかり、カズオ・イシグロの作品のファンになってしまったので、
『わたしを~』の映画化がかなり気になります。

投稿: 悠雅 | 2008年12月 3日 (水) 20時30分

>悠雅さん

コメントどうもありがとうございます。

この映画、観ていて最初の方は
やはり原作との違いが気になったんですけど、
観ているうちに監督の意図が分かってきて、
原作になかったエピソードの追加も
納得のできるものだったので、
原作を読んでいても十分満足できる作品でした。

悠雅さんの母親視点からのご感想は
自分では思いもつかないものなので、
いつも大変興味深く拝見させてもらってます。
自分はやっぱりゴーゴーリー視点になってしまうんですよね。

『わたしを離さないで』、映画化ですか!?
どのように映画化されるのかが楽しみですね!!
安っぽい近未来SFみたいにならないと良いのですが・・・。
『日の名残り』のように味わい深い映画にして欲しいですね~。


投稿: ANDRE | 2008年12月 5日 (金) 01時40分

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「ゴーゴリ」。両親がくれた彼の名前。そして、彼の生き方。 [続きを読む]

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