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2007年12月28日 (金)

「やがてヒトに与えられた時が満ちて・・・」 池澤夏樹

やがてヒトに与えられた時が満ちて… (角川文庫 い 58-2)

やがてヒトに与えられた時が満ちて・・・

池澤夏樹 写真:普後均

角川文庫 2007.11. 

2冊連続で池澤夏樹になってしまいましたが、特に意図したわけではなく、偶然です。

表題作となっている中編に、「星空とメランコリア」と題された4編の連作短編を収録した1冊。どの作品も宇宙がテーマになっていて、近未来、宇宙に飛び出していく人類にとっての、「地球人」としてのアイデンティティを問いかけるような内容になっています。

「スティルライフ」のときにも、池澤氏の理系魂がちらほらと顔を出していましたが、今回は完全にSFです。しかしながら、深い。そして、かなり面白い!!

まさに今、遠い宇宙を旅している2人に思いを寄せたくなる素敵な1冊でした。

「星空とメランコリア」は、手紙調だったり、独白調だったりと様々なスタイルで、宇宙に旅立っていく人類に思いを馳せるような内容の短編が集っているんですが、どれも深いを余韻を残す作品ばかり。

で、続く表題作は、同時収録されてるのも納得な感じで、上手い具合にその延長線上で書かれていると思われる作品。

住めなくなった地球を捨て、宇宙へ飛び出した人類たちが小さな殖民都市で生活をしている未来を描いていて、遠い昔の祖先たちが暮らした「地球」の記憶を辿ろうとする青年が主人公。あっと驚く展開でそれほど長くはないのにとても読み応えのある作品でした。

池澤氏は「ほしの王子さま」の翻訳をしていましたが、この作品の中でも、ニヤリとさせるような演出で上手い具合に王子さまネタを使っていました。

コンピューターが積み込んだ荷物の中に、ひっそりと人間的なものが積み込まれているのがなんとも言えないですよね。そして、ラストの展開を読んだ後に、「星空~」の第1話を読むってのが個人的にはオススメです。収録順序が逆でもよかったかもしれませんね。

大切なものは目には見えないといった王子さまの言葉をふと思い出しました。

あと、個人=人類になるという下りが好きです。人ではなくて「ヒト」だもんね。

「プラネテス」という傑作宇宙漫画と並ぶ、「人間」宇宙SFだと思います。優れた宇宙SFは外へ外へと向かっていく宇宙へのベクトルが気づくと、自身の内部へと向かっていますよね。なんとも不思議。この作品も、気づくと自分自身に様々な問いかけをしてしまう、そんな1冊です。

池澤夏樹と宇宙といえば、「スティルライフ」に収録されてる「ヤーチャイカ」は本当に良いですよねー。マイベスト池澤作品です。

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