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2008年1月28日 (月)

「神戸在住」 木村紺

神戸在住 10 (10) (アフタヌーンKC)

神戸在住 全10巻

木村紺

講談社 

最近はあまりコミックのレビューを書かないのですが、この作品に関しては最終巻が出たら必ずしっかりとした感想を書こうと決めていました。僕が人生で読んできた漫画の中でも3本の指に入るくらいに好きな作品で、何度も読み返しているし、恐らく、この先も何度でも読み返すのだろうと思います。

主人公、辰木桂は神戸の大学の美術科に通う女子大生。高校卒業まで東京で生まれ育って、大学進学と同時に家族そろって神戸に引っ越してきたという設定です。1巻では2年生で、最終巻の10巻では彼女の大学の卒業式までが描かれていきます。

この作品が描くのは、主人公のほんのささいな日常で、その中に、家族や、ご近所さん、高校時代の友人たち、サークルの友人たち、他学科の友人たち、ゼミの仲間たち、そして、主人公が敬愛して止まない芸術家の男性と過ごしたエピソードが綴られていく作品なんだけど、中には胸をググッとえぐられるようなエピソードもあるものの、何故これが面白いのか自分でも分からないくらいに平凡な日常を描いただけのエピソードも非常に面白いという不思議な魅力のある作品でした。

「人と人とのつながり」を非常に丁寧に、ときに厳しく、ときに優しく、一切の妥協をせずに正面から向き合って描いた傑作だと思います。

枠線を含め、全編、フリーハンドの手描きで、スクリーントーンなども一切使われていないシンプルな絵柄と、コマとコマとの間にナレーションのような主人公のモノローグが挿入されるという独特のスタイルも、作風とぴったり合っていたと思います。あと、この作風のせいか、1冊読むのにすごい時間がかかるんですよね。でも、じっくりゆっくりと作品世界にひたれるのがまたこの作品の魅力かなと。

以下、各巻のひとこと感想。

神戸在住 1 (1) (アフタヌーンKC)1巻

この頃はまだ絵がかなり読みづらいので、人にオススメしてもいきなり敬遠されてしまいそうなのがもったいないんですが、割と1巻の要素が最終巻までしっかり引き継がれたのはよかったなぁと思います。

神戸在住 2 (2) (アフタヌーンKC)2巻

2巻には数あるエピソードの中で、この作品の不思議な魅力を一番感じたのはお祭に行く回が収録されています。

この回は、友達と近所のお祭に行く約束をしていて、そのために浴衣に着替えて、友達が迎えにきて、そして、歩いてお祭の会場に到着したところで終了という内容。本当にこれだけの内容なんですが、それなのに、面白いんです。

この回を読み終わったときに、「あ、自分はこの漫画が本当に好きなんだ」と強く確信した、とても印象に残るエピソードでした。

2巻は作品のスタイルが確立して、1つ1つのエピソードがとても良いね。

神戸在住 3 (3) (アフタヌーンKC)3巻

なんといっても震災のエピソード。1巻にもあるんですが、3巻のエピソードは圧巻です。多くは語りませんが、というか、語れませんが、何度読んでもずしりと重い何かを感じるエピソードです。何度泣いたことか。

ちなみに、これがこの作品の絶頂の到達点なのではないかと感じさせるんですが、その考えは甘かったです・・・。

神戸在住 4 (4) (アフタヌーンKC)4巻

圧倒的な力を持つ3巻の後で、果たしてこの作品はまだ何かを描くことができるのかとちょっと心配になる4巻ですが、そんなのは完全に杞憂です。冒頭の豆腐を買いに行くカラーのエピソードで、「何気ない日常」の中にある美しさにはっとさせられて、この作品の本質に一気に引き戻してくれてます。

ちょっと中だるみ的な印象のある巻ですが、「冬、須磨にて」というエピソードがひっそりとこの後の展開の伏線になってます。この回は、単独でもとても好き。

登場人物たちの過去も少しずつ明らかに。

5巻

5巻はなんといっても「鍋」です。非常に美味しそうなんです。このエピソードは大学生っぽさ全開なのが見ていてとてもすがすがしいよね。

この巻で3回生になった主人公ですが、ゼミが始まり、交友関係に少しずつ変化が訪れます。この辺の流れがとてもリアルで上手いなぁと。

6巻

父と食事に行く回が結構好きです。

そして、幼い頃の祖母の死のエピソードと、主人公の尊敬する芸術家との交流が次巻への伏線となってます。

神戸在住 7 (7) (アフタヌーンKC)7巻

下手に軽い気持ちでは読めない1冊。初めて読んだときの衝撃といったらそれは凄かったです。この作品が描く「死」は、変に感傷的に描かないで、日常の中で当たり前のようにふっと訪れる怖さだとか、不条理さだとかを感じさせる描き方ですよね。

このエピソードをいれるために、これまでずっとずっとたくさんの伏線が張られてたんだなぁと後になって気づきました。

あと、表紙イラストでスカートをはいている主人公が泣かせます。

神戸在住 8 (8) (アフタヌーンKC)8巻

4回生になった主人公。生活の中心はゼミ仲間たちに。関東在住者としては、ちょっとだけ出てくる東京でのできごとが嬉しいです。

この巻に、サークルの先輩達と食事に行く回があるんですが、これと同じメンバーで遊びに行く回が2巻にあって、このメンバーと遊びに行くとなんだかほっとするというようなことを主人公が思うんですけど、サークルなんかのこういう先輩との感覚も自分の持っているものに非常に近くてなんだかとても共感できる回なんだよね。

このあたりから、友人の結婚とか弟が家を出る話をするとか、ちょっとずつ終わりに向けて話が動き出してます。

神戸在住 9 (9) (アフタヌーンKC)9巻

この巻はちょっとコミカルなカラーが強くて異色だなぁと思います。

自分に劇団系の友人がいるからってのもあるけど、劇団のエピソードも嬉しい展開でした。

神戸在住 10 (10) (アフタヌーンKC)10巻

最終巻は何度も発売が延期になったのですが、期待を裏切ることのない素晴らしい最後でしめくくってくれて、もう感無量です。最終巻は、全体で、最終話に向かって、一つずつこれまでのエピソードで語られてきた人間関係を回収していって、そして、至高のラストへとそれをつなげていくという構成が本当に良かった!1話読み終えるたびに、少しづく最終話に近づくのかと思うと、本当に読み終えるのが惜しくて仕方なかったです。

最終巻には、珍しく主人公視点ではない話が入っていますが、これがまた、良いんだな。このエピソードを含めて、これまでの物語で、どこか胸につかえていたものをちゃんと温かく洗い流してくれる最終巻だったなぁと。

好きなキャラクターはやっぱり主人公の辰木桂。文化系人間な自分としては、読書と絵と洋楽を愛する辰木さんは友達になりたいキャラクターでした。あと、ひっそりと好きだったのは伏見さん。週に1度一緒に授業を受けるだけの友人だけど、そのたびごとに1冊ずつ本を貸し合うという関係にとても憧れます。最終巻で久々に登場してくれたのが嬉しかった!

全体を通して、親しい友人のブログを読んでいるような内容で、どの登場人物も実在していて、どのエピソードも本当にあったことなのではないかと思ってしまうくらいに自然なんですよね。それでいて、1つ1つのできごとから受動的だった主人公が「与えるもの」へと成長していく様子を丁寧に描き出しているし、ところどころにある重要なエピソードに向けてきめ細かく伏線がはってあったりして、素晴らしい完成度の作品だったと思います。

うん、こんなに期待を裏切ることなく最後の最後まで最高のクオリティを保った作品て他にはほとんどないんじゃないでしょうか。

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コメント

神戸在住は本当に素晴らしい作品ですよね
作者の木村紺さんが現在連載しているからんもおすすめです。神戸在住とはまったく違うタッチに驚かされますよ!

投稿: | 2010年12月13日 (月) 15時01分

>名無し様

コメントありがとうございます。

この作品は本当に読むたびに新たな発見があり、
その完成度の高さにはいつも驚かされています。

「からん」、
今のペースで続くと、どれほどの大作になるのだろうかと
ワクワクしながら読んでます!

投稿: ANDRE | 2010年12月14日 (火) 00時34分

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