「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」本谷有希子
腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 本谷有希子 講談社文庫 2007.5. |
2008年の読書第1弾。今年はちょっと気になってたけど、これまで読んでいなかった作家に挑戦しようというのを目標に、幅広く読んでみようかと思っていて、その第1弾です。作者の本谷氏が劇団で上演した作品を自ら小説化した作品で、ちょっと前に映画も公開されてました。
舞台は山に囲まれた田舎町。見通しの良い田舎の道路で、夫婦が交通事故に遇い、結婚したばかりの長男の宍道と待子夫婦、高校生の次女の清深が実家に取り残され、そこに、両親の訃報を聞いて3年ぶりに長女の澄伽が東京から戻ってくる。
残された4人には4者4様の隠された過去があり、物語はその秘密をあかしながら、さらなる絶望に突き落とされる兄妹を描いていく。
なんか、とっても重い話でした・・・。1つ1つのエピソードがいちいち重い上に、救いがないというかなんというか。ここまで重いエピソードが並ぶと、これはブラックユーモアな話なのかと思ってしまいます。実際そうなのかもしれないけど、少なくとも、活字というメディアでは、笑えなかったです。舞台や映画だとまた違うのかもね。
こういうタイトルがキャッチーな作品って、タイトル負けすることが多いんですが、そんなこともなく、割と読みごたえのある作品だったとは思います。
舞台出身の作家さんなんですが、作品の内容は結構勢いとパワーがある一方で、僕は書き方がちょっと苦手でした。読ませ方とでもいうのか、ちょっとした展開のさせ方にややクセがあって、個人的にはそれがちょっと読みづらかったかなぁと。思わせぶりに出し惜しみする感じとか。
舞台で登場人物に次々とスポットライトがあたっていく感じで、焦点がそれぞれのキャラクターに次々と移っていくのは面白かったんですが、それにもちょっとクセがあるというかなんというか。
ラストのちょっと前のシーンはビジュアル的に上手いというか、舞台的というかで、まぁ、爽やかでもすっきりするでもないんですが、結構好きな場面です。
登場人物たちが曲者のようでいて、実はこういう知り合いは1人くらいはいる感じの妙なリアルさがあって、それが複雑に絡み合っていくことで、悲劇の回転が止まらない感じがちょっと怖い作品で、一見すると長女がかなりヤバイ人なのに、次女のほうがずっとずっと怖いというのにもゾクゾクでした。でも、末っ子ってなんとなくああいう部分があるような気がします。
家族の秘密って都会を舞台にするよりも閉鎖的な田舎町を舞台にしたほうが真実味があるのは何でなんでしょうかね。八墓とか、奇子とか・・・。都会の方が秘密を持ってる人が多そうな気もするんですけどね。
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