映画「あるスキャンダルの覚え書き」
notes on scandal 2006年 イギリス |
ケイト・ブランシェットとジュディ・デンチという2大演技派女優の共演で、昨年のアカデミー賞で見事に2人ともがノミネートされた作品。イギリス映画好きとしては、やはりどうしても見ておきたい1本です。
舞台はロンドン郊外のとある学校。語り手は学校で歴史を教えているオールドミスの老齢のベテラン教員バーバラ(ジュディ・デンチ)。ある日、新しい美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)が赴任し、平凡な中産階級の学校にはにつかわしくない雰囲気を持ったシーバが気にかかり、バーバラは毎晩つけている日記に彼女のことを書くようになる。
ある日、生徒達のいざこざをきっかけに2人は話をする機会を得て、シーバはバーバラを自宅に招くことに。ブルジョワ階級の自由なお嬢さんといった雰囲気のシーバだったが、自宅にて歳の離れた夫と、反抗期の長女、そしてダウン症の息子とともに暮らしている姿に、バーバラは、はじめは戸惑うものの、自身のことを隠さず話してくれる彼女に友情を感じるようになる。ところがそんな折、バーバラは、シーバが15歳の教え子と関係を持っている場面を目撃してしまう・・・。という物語。
なんか思ってたストーリーはもうちょっと硬派なサスペンスだったんですが、実際は、怖いおばちゃんのお話でした。罪を犯すのはシーバのほうなんだけど、精神的にやばいのはバーバラで、彼女が「友情」のためにシーバを追い詰めていく姿は圧巻です。
この2人といえば、2人とも印象深くエリザベス1世を演じていた女優さんなんですが、今回は現代の病んだ女性たちを、お互い一歩も譲らない見事な演技で見せてくれていて、あっという間の90分でした。作品のテンポも良いし、内容が内容なだけに、この短さは気持ちよく見てられるギリギリって感じで丁度良い時間配分。
ストーリーには何も共感できないし、最後もすっきりしないんだけど、2人の熱演にあれよあれよと見せられて、「自業自得だろうに」だとか、「おいおい、ちょっとやばすぎだろ」だとか思いながら、気づいたら終わってたという感じ。てか、バーバラが怖い。
最初は、バーバラの語り口なんかが、あぁ、イギリスのおばちゃんだねぇ、なんて思いながらのほほんと見ていたんだけれど、それが次第に、超主観的な語りの内容にふとした違和感が。
独占欲ってのは少なからず誰にでもあるんだとは思いますが、彼女のはちょっと行きすぎですよねぇ。こういうのって本人には悪気がないってのが一番怖い。斧はふりまわなくても、「ミザリー」級に怖いです。孤独な人のゆがんだ思いってのはいつの世でも恐ろしいなぁと。
「ラヴェンダーの咲く庭で」では乙女のようにはしゃぐ可愛らしさを見せてくれたジュディ・デンチの、これまた乙女のようにまっすぐな「友情」にとりつかれた姿は鬼気迫るものが・・・。この女優さんは、見るたびに、なんて芸達者なんだ!と脱帽しっぱなしです。素晴らしい。
シーバもさ、家庭のストレスとか色々あったのかもしれないけれど、15歳にはまるってのはね・・・。そりゃ、問題にもなるだろうね。バーバラもバーバラだけど、最後なんかちょっと逆ギレ気味だったしね。それをまた、これまた芸達者なケイト・ブランシェットが熱演するものだから、もう見ごたえばっちりなわけです。
そんなわけで、ストーリー的には共感要素が少ないのに、主演の演技の素晴らしさ、演出、脚本の上手さもあって、もなんだか最後まで釘付けだった不思議な1本でした。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 映画「天使の分け前」(2013.06.13)
- 映画「屋根裏部屋のマリアたち」(2013.05.29)
- 映画「ハッシュパピー バスタブ島の少女」(2013.05.27)
- 映画「リンカーン弁護士」(2013.05.06)
- 映画「偽りなき者」(2013.05.05)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ANDREさん、こんばんは。
どうぞ、TBが届いていますように。(届いてなかったらごめんなさい)
この映画を観て、「英国女王を演じた2人」ということと、
「ラヴェンダーの咲く庭で」の少女のような繊細な表情を思い出したのは、
(実は、感想には書かなかったけれど、『ミザリー』を連想しました)
わたしだけじゃなかったんだ、と(そりゃそうでしょうが)嬉しくなります。
2人の名女優さんの競演は、内容の恐ろしさに退きながらも、
演技には目を奪われて離れられない、不思議な魅力の作品でした。
映像で見えるバーバラの怖さは言うまでもありませんが、
わたしが本当に怖いのは、
自分の中に、バーバラにもシーバにもなり得る要素を感じるからなのです。
もちろん、実際の行動に移すことはなくても、
気持ちの上で理解できる部分が見つかったりするものだから、
自分の知らない自分の別の面が、いつ顔を出してもおかしくないかも、と
そんなことが恐ろしかったりします。
投稿: 悠雅 | 2008年8月25日 (月) 22時32分
>悠雅さん
TB届いてました!
『ミザリー』まで共感していただけると、ちょっと嬉しいですね。
いつもながら似たような感想がでると盛り上がりますね♪
見ていてただただ2人に圧倒されて、
全然楽しい内容ではないものの、
いつまでたっても心に残ってる作品です。
他の人が演じたら、ただの二流サスペンスになりそうなところを
この2人がグググッと作品の質を上げていたように思います。
やはり女性の方のほうが色々と共感できるんでしょうか。
でも自分も「共感要素がない」なんて書いてますが、
もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれないですね・・・。
投稿: ANDRE | 2008年8月26日 (火) 01時19分