「絹」アレッサンドロ・バリッコ
絹 アッレサンドロ・バリッコ 白水uブックス 2007.12. |
現在公開されている映画「シルク」の原作小説です。映画のほうは未見なのですが、ちょっと気になっていたところに、原作が新書化したので、そちらを先に読んでみることにしました。ちなみに原作者はイタリアでは人気のある作家のようで、同じく映画化された「海の上のピアニスト」もこの作者の作品です。
舞台は19世紀。主人公エルヴェ・ジョンクールは、蚕の卵を買ってきて、それを成虫に育てて売っていたが、あるとき、世界的に蚕の病気が流行り、壊滅状態になってしまう。そんななか、鎖国政策により、外界との接触を絶っている日本には病気におかされていない見事な蚕があるという噂を聞きつけ、エルヴェ・ジョンクールは、妻を1人残し、険しい道のりを抜けて、日本へ密入する。彼は山村に導かれ、そこで、権力者のハラ・ケイと出会い、上等な蚕を手に入れるが、そこで、不思議な魅力を持った美女を目にして・・・。という物語。
もっと謎の美女との恋愛模様を描く作品なのかと思ってたんですが、ちょっと方向が違っていて、良い意味で期待を裏切る展開でした。
日本の読者としては、やはり、「日本」の描き方があまりに、現実離れしているのが気になりますが、わざわざ本の冒頭に作者から日本の読者に向けた言い訳がついていて、この作品を楽しむにはやはり、「日本」とはなっているものの、桃源郷的で幻想的なジパングくらいのつもりで読んだほうが良いんだろうね。
で、日本をとりあえず別物だと思えば、作品はとても読みやすく、どこかつかみ所のないストーリーが、まさに「絹」のようで、どこか夢物語のような雰囲気を漂わせていて、なかなか面白かったです。
160ページほどの物語なのに、章が65もあるというのも、この作品の不思議な雰囲気を出すのに上手く使われていたように思います。
ここで描かれる日本の風景、自分は「蟲師」の世界観に近いような気がしたのは、単に「蚕」が虫だからっていうだけでしょうか・・・。でもこれを映像化するんだったら、リアルな幕末日本ではなくて、幻想的な不可思議な山村を描いてくれたほうが嬉しいなぁと思います。映画はどうなってるんでしょうかね。
作者自身が作品を音楽にたとえているんですが、似たような場面を繰り返しだしてくる一方で、それが現れるたびにちょっとずつ違った表情を見せる展開のさせかたなんかも、それこそ、「ソナタ」っぽくてなかなか面白かったと思います。
じらせっぷりも良かったし、ラストの余韻も楽しいものではないけれど、しっとりと心に残る感じで、まぁ、非常に読みやすい軽い小説ではあるんだけれど、なかなか楽しめる1冊だったと思います。
詩的な感じの文章も良かったんですが、そうなってくると、これはやはり原文で読みたい!と思ってしまうんですよね。でもイタリア語なんて読めませんからねぇ・・・。
そうそう、ハラ・ケイが日本の歴史的人物から名前をとってるってことが一番の驚きです。イタリア人も知ってるんですね。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「足音がやってくる」マーガレット・マーヒー(2013.05.30)
- 「SOSの猿」伊坂幸太郎(2013.05.05)
- 「死美人辻馬車」北原尚彦(2013.05.16)
- 「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ(2013.04.01)
- 「エムズワース卿の受難録」ウッドハウス(2013.03.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ANDREさん、こんばんは~。
書店で原作の表紙だけを見ただけで、小説は未読ですが、映画は観て来ました。
きっと、詩的で美しい文章で書かれた小説だろうと思っていたんですよ。
やっぱり、ここで描かれる日本は、ヨーロッパ人が想像(創造?)したものだったのですね。
映画では、登場人物や建物や風習が、実は違和感だらけで、それ以外にもずいぶんツッコミ所があるのですが、
何かそんなことをすっかり忘れさせるものがあり、
小説自体を楽しんだような感覚で、わたしは好きな作品でした。
でも、なんちゃって日本を許せない方が多くて、映画の評判は最悪です^^;
投稿: 悠雅 | 2008年2月 8日 (金) 20時25分
>悠雅さん
コメントどうもありがとうございます。
原作は、冒頭にいきなり、
日本の読者の皆さんへという作者からの言葉があり、
日本で読まれることなど全く想定外だったと断った上で、
ヨーロッパ人のイメージとして受け止めて欲しいと書いてありました。
原作でもちょっと現実離れした日本像なんですが、
幻想的な国のイメージとしては悪くなくて、
映画でもそのイメージを優先して欲しいなぁと思える感じだったので、
映画での日本の描かれ方が現実離れしているという意見を見て
かえって安心しています。
劇場公開中に見られるかは分かりませんが、
いつかは絶対見る作品だと思うので、
そのときは原作と比べて感想を書いてみようと思いますね。
2時間もしないで読み終えてしまうくらいに
読みやすい作品でしたので、
原作もオススメですよ。
投稿: ANDRE | 2008年2月 9日 (土) 01時09分