「充たされざる者」 カズオ・イシグロ
充たされざる者 カズオ・イシグロ ハヤカワepi文庫 2007.05 |
イシグロ作品は割と好きなので、結構前に買っていて、何度か読もうと試みたものの、ちょっと躊躇してしまう1冊でした。その理由はなんといっても文庫の限界なのでは?と思うくらいの厚さ。950ページ近い作品で、片手持つと普通に手が痛くなります。
主人公は世界的ピアニストのライダー。演奏会を開くためにとある街に招待されたやってきた彼だったが、本番の日程以外の滞在中のスケジュールなどはどうもはっきりとしない。街をあげて彼の滞在に歓喜しているらしく、人々はライダーに出会うと、色々なことを話しかけてくる上に脈絡のない身の上相談を持ちかける始末。彼が肝心の演奏会に関しては何も分からないまま、街の人々に翻弄されていく姿を描く作品。
この物語で面白いのは、ライダーが出会う人々が、どうも初めて会ったような気のしない人物ばかりで、いつの間にやら、その人物とライダーの過去の思い出が繋がっていったり、街の空間がなにやらねじれた感じになっていたり、全体的に「夢か現か」という感じで物語が展開していくところ。
でもってそのせいでものすごーく不条理な展開の連続だし、人々の台詞がいちいち長くて読みづらかったりで、1冊900ページ以上の厚さがある上に、内容までもが非常にハードで、もはや、この文庫本の厚さも作品の不条理さをより強く実感させるための演出なのではないかと思ってしまうくらいでした。つまらなくはないんだけど、とーっても疲れる1冊。
いつまでたっても進まない物語と、「いい加減にしろ!」と思わず突っ込みたくなるような人々の長い長いお話&相談の数々に(てかもはやそれしかない物語だし)、カフカの「城」を感じさせるんですが、まだ「城」のほうがストーリーがあったような。主人公もお人よしにもほどがありますね。
イシグロ作品といえば信頼できない語り手なんですが、これはもはや信頼がどうのこうのっていうレベルを優にこえてるんですが、それに加えて、イシグロ本人のお気に入り作品らしく、かなりノリノリで書かれているので、読む側は本当に大変。最初の方はブッラクユーモアとして楽しめてたけど、何度も書きますが、最後のほうがかなりヘトヘトでした・・・。
結構好きなエピソードは終盤に出てくる主人公&両親の部分かなぁ。ピアノ青年のエピソードと合わせて親子関係の部分がなかなか面白かったです。あと、最初に通された練習場が結構ツボでした。
様々な年代の人物が出てくるし、扱われている内容も様々なので、読むときどきで感じ方が変わる作品なのかもしれないけれど、そう何度も読みたい作品じゃないですよね。
読んでいて、もしかしたらこれは全部主人公の妄想なんじゃないかとか思ってしまったんですが、どうなんですかね。実は言葉分からなかったとか。
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